『生まれ変わった先は天国か災厄か』Ⅲ

 「やっぱり私、嫌われているみたい」


 あかい夕陽に照らされた冷泉邸の台所にて。

 体調も回復した久遠は、双子の指導の下、共に夕餉の調理に取り掛かっている。

 冷泉邸に居候させてもらって以降、久遠に周りの事柄や仕事について手取り足取り丁寧に教えてくれる双子は、唯一の相談相手だ。

 先程の純真に浴びせられた冷たい言葉の数々には、さすがに心がひび割れていくように堪えた事。

 そして純真の冷淡すぎる言動は、久遠を忌み嫌う故のものとして結論付けられる。

 当然ながら久遠には、自分が怪しい余所者であるという点以外に、心当たりがまるでない。


 「「そんなことありませんよ。純真様は久遠様を嫌ってはいません。その証拠に……純真様は、久遠様を一度も追い出そうとはしなかったでしょう」」


 双子は妙な確信に満ちた微笑みと共に、久遠の不安を杞憂だと答えた。

 けれど、今これから少しずつ純真君の気が変わったら、どうするのだろうか。

 先程の謁見で聖徳様へ申し出たかった内容には、「久遠を追い出したい」というものも含まれていたのかもしれないのだ。

 にわかに信じられない久遠は、涙目になりかけていた眼差しで問い返す。


 「きっと……純真様は戸惑っているだけだと思いますよ」

 「きっと……ショックを受けられたと同時に……のかもしれません」

 「どうして?」


 一体、何に対して戸惑うというのだろうか。

 しかも双子は、とても嬉しそうには見えない彼の態度から、どこを見てそう映ったのか。

 双子は、単なる気休めとは思えない穏やかな口調と眼差しのまま、それも独立した返答を述べてきた。


 「純真様は、冷泉家の歴代当主で最強最年少を誇る力を持つお方。故に……周りからは忌み畏れられてもきたのです」

 「純真君が?」

 「なので、自分のような強くて恐ろしい人間を……しかも身を挺して助ける人間がいるなんて、純真様は夢にも思わなかったのでしょう」


 冷泉家の根源と純真君の名誉に関わる話になるため、それ以上の詳細は、双子から無断で伝える事はできない。

 それでも、久遠だけは純真の事を理解わかってあげてほしい。

 切実な眼差しと声で告げられた久遠は、静かな微笑みで肯く他なかった。

 正直な話、キャラクターとしての冷泉純真の過去話は、同じカミコク好きのオタク友達から齧る程度ではあるが、教えてもらった事はある。

 今までは関心の外に在った"冷泉純真というキャラクター"を思い返しながら、転生後に出逢った"生身の冷泉純真"を照らし合わせてみた。


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