現実逃避
僕は夜の公園で、ブランコに乗りながら、地面に俯いていた。
夜の公園って結構つまらないんだな。僕が地面を見たままそう思う。
僕は今、家に居れなくなってこの公園にいるんだな。その割に、自分でも結構落ち着いているな。地面の向いたままこう考える。ふわっと花の香りと土の匂いがした。自分は悪くない。僕はそう思い、全てのことを思い出してみた。
始まりは他愛のない話だった。僕は父さんと母さんにソファーで学校の話をしていた。母さんは僕の話を微笑みながら聞いている。僕は父さんの時々見せる、驚いたように笑う顔が大好きだったし、母さんの柔らかい笑顔がどんなに深い僕の悲しみも受け止めてくれると信じていた。その頃の僕は気楽だった。この話が二人と最後にする話だと知っていたら、僕はどんなことを話したんだろう。濡れている頬をそっと拭うが、そんなことは無駄だと僕には分かっていた。
僕の話がちょうど終わった時だった。父さんがこっちを向いて、何かを話そうとする。
だけど、急に父さんが呻き声をあげて、僕らの方に倒れてきた。
母さんが冗談はやめてよ、と言うように父さんの体を揺さぶるが、反応はない。よく見ると父さんの白いシャツに段々と赤いシミが広がっていくのが分かる。
母さんは自分だけ逃げようとしたのか、走って玄関に逃げた。僕は母さんを追いかけて、一緒に逃げようとしたけど、母さんは僕の後ろを見ると、もっと急いで走った。
僕は母さんの隣まで息を切らせながら走っていくと、母さんの恐怖に歪んだ顔を見てこう言った。
「母さん、お願い。正気に戻って。父さんは何があったの?」
母さんはこっちを見て、何かを言おうとしたけど、いつの間にか父さんと同じように、口から血を吐いて床に寝そべっていた。
僕は後から来た叔母さんや叔父さんと一緒に暮らすことになったけれど、二人は僕を人殺しだと罵り、家から追い出した。
僕はそこまで思い出すと、横に誰かがいることに気がついた。僕よりも年が低そうな少女だった。
「君は誰?」
僕がそう聞いたら、彼女はブランコをキィキィ言わせながらこう答えた。
「私?私はあなたと同じだよ?」
そう言って彼女は微笑んだ。
彼女はこの公園に住んでいるらしい。僕は彼女と一緒に暮らしたいと言ったが、彼女に断られてしまった。
「君はまだここかどこか、自分がどんなことしたか分からないでしょ?あなたが分かったら一緒に暮らしてあげる。」
来る日も来る日も、僕は彼女に頼み込んだが、その度に断られてしまい、ついに僕は疲れすぎて倒れてしまった。
久しぶりに父さんと母さんの夢を見た。
二人は笑って僕の話を聞いているが、僕があることを言うと、二人は顔を引き攣らせた。
「父さん、母さん。僕、二人とずっと一緒にいたいな。」
そう言って僕は台所から包丁を持ってきた。
僕は必死でそれを止めようとしたが、所詮は夢。触れられることすらも叶わなかった。
父さんは何かの冗談だろ、とか言ってあっさり僕に刺され、息絶えてしまった。母さんもその後、逃げていたが僕に捕まってお腹を刺されて、口から血を吐きながら倒れていった。
場面が切り替わる。
僕は居間で一人、寝転がってテレビを見ていた。
その時、ドアが大きな音と共に開き、そこから猟銃を持った叔父さんが入ってきた。
叔父さんは手に持った猟銃を僕に向ける。
僕はそこで目が覚めた。横では彼女が僕の瞳を覗き込んでいた。
彼女は僕にこう聞く。何十回も聞いてきた言葉を。
「思い出した?」
僕はいつも通り、ノーと答えた。
暇人童話 砂葉(saha/sunaba) @hiyuna39
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