迷路

 ある少年が街を歩く。

その街は少年が初めてきた街だ。そう、彼は故郷の街から出たことがなかった。しかし、少年はこう考えていた。

僕は今まで迷路で毎回ゴールに行けていたのだから、街でも迷うことはないだろう。

少年はニヤッと笑って路地へ入って行った。


 少年は路地に入るとまず、匂いに驚いた。

何かが腐ったような悪臭。化粧品のような乾いた刺激臭。それらが全て、少年に押し寄せてきたからだ。

しかし、少年はそのことを気にしないようにしながら道をそのまま進んで行った。


 少年は少し大きめの路地に出て、呆然と空中を見つめていた。

そう、財布を無くしたのだ。少年はハッとしてあたりを見渡すが、あたりには誰もいない。

もうこんなところからは出てしまおう。少年がそう思った時だった。

少年は道がわからないことに気づいた。

特に目印もない、大きめの路地に一人きり。子供にとって、こんなに苦しいことは他にはほとんどないだろう。

少年は地面に蹲って泣いてしまった。そこに、偶然通りかけた青年が少年の方に屈んだ。

少年は地面に蹲ったままだったが、青年が立つと、どさりと前に倒れ、そこには赤いシミができた。


 ある青年が柔軟剤の匂いのするベッドを叫びながら飛び起きた。

彼はもう少年と言えるほど歳は若くなかったが、気持ちは昔のように若く、好奇心旺盛だった。

少年は空中をぼうっと眺めながら誰に言うわけでもなくこう呟く。

「人生とは、迷路のようなものだ。回り道もあれば近道もある。そのことをあの青年は痛みとともに教えてくれたのだな。」

少年の日の記憶。それはそれでどこか趣のあるものだな。彼はそう考えて、自分の唯一の楽しみである小説を書き始めた。

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