第8話:英華霊秀血戦都市《トウキョウ》前編

「こちら城!発令所、応答願います!」

「メーデー!メーデー!メーデー!こちら噛崎!くそっ、だめだよ!」

『電波遮断、内ぞ『電波受信、充で『電波遮断……』』』

「ええい。しつこい、2人共充電関係のAIアラートを切れ!聞こえるか発令所!何度も英霊の反応が出ては消える。然し我等の目に映るのは電波体バグだ。都度消去デリートしているがキリがない。聞こえるか、こちら餘目……」

 私達はかつてない危機に陥っていた。

「ダメだよ曹長。国際信号でも駐屯地すら反応無し。向こうからの無線は聞こえるけど、こちらからはとどかないっぽいや。」

「外では……ちょうど正午ですね。力場の中は満天の星空。夜の帳とはまさにですね。」

「こちら錦糸町中央発令所。3人共聞こえますか?こちらからはモニターできています。返答を!」

 したいっちゃしたいんだけど、如何せん状況がそれを許さない。

 どうしてこうなった。どうして。

 ――――――――――――――――――――

 午前10時。錦糸町。

 ブー!ブー!ブー!

「TBS系列より放送事故……しかしおかしいです。観測特異点集束、空の傷ゲートは開きますが、規模が……規模が非常に大きいです!」

 今までとは何もかもが違う。事態は待ってくれない。

「BPOに行った局長を大至急連れ戻せ!きっとあの頭しか理解できないぞ。」

 状況は好転しない。それでも機関として出さざるを得ない。

 何もわからない状況で危険にさらしたくないのであるが。

操縦者アクタ―はコックピットにて即時待機!高速輸送準備出来次第秋葉原に向け輸送を開始!」

「く、玄月2尉、追加です!東京都の駐屯地より通信。首都環状山手線路上に大きく大地を覆う半球状の何かが発生。内部の隊員と通信が取れないとの事!」

「衛星画像だせるかな?望遠で山手線が入り切る程度に。」

 すぐさまメインモニターには衛星画像が映し出される。

 そこにあるのは他の地域とは違う漆黒。

「東京タワーに対してアクティブ発信。返答は。」

「……ありません。受信はしているようです。」

「ドローンを使おう。20式装備を10機秋葉原から力場の中へ。」

 秋葉原駅から無人のドローンが放たれる。

「何1つ見逃すな。すべて観測しておけ。」

 力場の中へ入っていく。

 異常は直ぐに起きた。

 こちらからの信号は受信するが、ドローンからの映像が一切届かない。

 信号を受け付ける為、誰もいない場所を見つけ内側と外側両側から地面に向け、力場を貫通するように射撃する。結果は内側の射撃は外側に出てこなかった。

「入れたドローンは出せるか?」

「……ダメですね。壁も一方通行の様です。」

 帰ってこれない謎の壁に挑ませるわけにはいかない。

 玄月千尋は考える。考えうる全ての結果を。

「力場や壁では通しにくいな。以降対象物を東京緞帳と呼称する。」

 東京を包み込んだ闇の帳は東京緞帳を呼ばれることとなった。

 首都環状山手線をぐるりと1周する緞帳。危惧するべきはその中に何があるかだ。

 国会機能。そして何より皇居がそこにある。

 これは国としての一大事、国家としての役割を失うことになりかねない。

 果てには最高裁判所、警視庁までもが緞帳の中。

 三権に分立された機能の全てが停止する。

「官邸や皇居の避難状況は……わかるわけないか。ふむどうした物か。」

「衛星、最大望遠で捉えます。皇宮警護官が確認できます。が、なんでしょうこのノイズのような。半透明かと思われますが何か映しているようです。」

「宮内庁との連絡は。」

「依然不通。呼び出しに応じません。」

 何故山手線を陣取った。

 なぜ閉じこもった。

 あれでは空の傷ゲートに帰れないはず。

「玄月2尉……今更ですがBPOはあの中では……。」

 しまった。千代田区だ。間違いなく緞帳の内側。

「追加ですが、首都中央駅馬東京付近が色の様子がおかしいです。起点と考えてもよろしいかと。」

「やるしかないか。操縦者アクターに繋げ!」

 これから始まるのは一方通行の作戦。

 発令所はこう考えているかもしれない。

 ここに支援が来るかもしれない。

 かもしれない戦いだ。

「即時待機中すまない。これから作戦概要を説明する。今回の任務は首都中央駅馬東京を起点とした、首都環状山手線を覆う緞帳内の安全確保及び脅威の排除となる。首都横断総武線と山手線の交差駅、秋葉原まで鉄道輸送を行う。その後、線路に沿い、東京へ。第1に皇居を目指せ。何より天皇皇后両陛下の安全を確認しろ。次いで永田町、首相官邸へ。どちらも地下シェルターへ避難している可能性があるが、可能性を確かめるんだ。その後BPOに出向している局長を回収。先の事変のままだが餘目曹長、機内に2人で乗ってくれ。その後可能な限り民間人をシェルターに誘導しつつ、今回の原因を探りそれを排除してくれ。最悪の場合機を降りるかもしれない。餘目曹長と噛崎1曹は20式を装備して搭乗してくれ。」

 局長より優先される。因子ファクターの確認。

 そして局長の救助。果てに、原因の究明と排除。

 一筋縄では行かない。

 が、立案された以上、従うのみだ。

 私はコックピット内でシートにもたれ掛かる。

 現在、別件の指示で整備課がアップリケリアクティブアーマーを装着中。その完了を待っている。

 ふと横を見る。

 奥から餘目曹長の壱番機、噛崎1曹の弐番機が並んでいるが、弐型の英霊は決まったのだろうか。

 全天周囲モニターに示される無線を弐型に繋げる。

「噛崎1曹、今よろしいでしょうか?」

「びっくぅしたあ。いいよ~なにかな。」

「弐番機受領後英霊適性検査を受けていましたが、英霊は何になったのかなと思いまして。」

 ストレートすぎたかな。いやでもそうでもしないと伝わらないだろう。

「聞いて驚け?なんと新免武蔵藤原玄信。ボクが追い求めた宮本武蔵、その人に認められたんだ!」

 たしか、家が武蔵の剣術を継ぐ道場だったと話していた。その為剣を握り稽古に励んでいたと。

 それが目標に認められ英霊として登録できたというのか。運命は時に幸せを運んでくる。時に残酷である。

 今回は幸せの方だろう。

「それからね。」

 話には続きがあった。

「ボクの剣術は、と言うか武蔵の剣術は有名だけど2刀を扱うものなんだ。そこでボクの剣術に合わせ急ピッチで作ってくれた武器があるんだ。ほらそこの剣。」

 視線を落とす。弐番機の傍らに2対の刀が置いてあった。

 所見では不思議な点が見受けられた。まだ時間がある聞いてみよう。

「あの1曹。なぜ刀の反り方が2本とも違うのでしょうか?」

「お~!いいとこ聞くね!語ると長いから端折るけど、刀を佩いた時刃が外向き、佩表になるようにするのが「太刀」これを佩刀っていうんだ。対して刃が内向きに反っている刀を差表って言って、それを「打刀」。帯刀するというんだ。銘はこの佩表か差表に刻まれるからそれで区別できるね。」

 突然始まる刀の講座に、私は、話を合わせる為必死に生徒手帳にメモしていた。

「んで、そこにあるが太刀「鬼斬刀」と打刀「神葬刀」。鬼斬神葬弐対壱刃きざんしんそうについいちじん。ってわけ。」

 新しい戦力。弐対の刀。私は高揚した。さらに効率的に電波体バグの相手が出来ると。

「そこまでだ、アップリケリアクティブアーマーの準備が出来たぞ。各機輸送車両へ移動開始。」

「りょ、了解です。」

 餘目曹長からの指示に動揺する。自分の世界に浸ってしまっていた。

「みんな聞こえるね?発生から今迄の状況を鑑みるに外側から内側への干渉は可能との結論だ。然し内側から外側への連絡手段がない。最大望遠で衛星画像を追っているから、手を振るとかそんなところかな。じゃあ、危険な任務だけど頼んだよ3人共。」

 私達は威勢よくはいと答えた。そう、無線が使えない事がどんなに過酷な事か知る由もなかった。

「高速輸送シークエンススタンバイ。交差駅馬秋葉原迄。輸送案内スタート。」

「錦糸町から秋葉原迄の各駅に臨時特急通過案内開始。地上員はホーム乗客を駅構外へ。」

「在来線を待避線へ誘導開始。国鉄へ緊急性を申し伝え。」

 発令所は局長副長無しで事を進める。そうトロイメライに2つの頭脳ありと言わせたあの局長無しである。

「………………来ました!在来線退避完了。錦糸町駅5番線鉄道信号進行合図です。」

 錦糸町駅に存在しない5番線。それは地下格納庫から直通となっている線路である。

「よし、高速鉄道輸送スタート。作戦開始。」

 車輪のロックが外れ、轟音を上げ加速する。ほぼ直線ではあるが脱線しないギリギリの速度まで加速する。

 餘目曹長を先頭に、3機連結された輸送車両にて総武線を駆け抜けていく。

 待ち受けるのは夜の帳、東京緞帳。

 餘目曹長は話始める。

「2人共再確認だ。作戦最優先は天皇皇后両陛下の安否確認。次いで内閣総理大臣の安否確認。さらにBPO出向中の御園生局長の回収。その後は局長指示のもと、民間人の避難と事態の収束だ。」

「了解しました。緞帳に入ってしまえば補給がままなりませんね。発令所、玄月2尉。ドローンによる補給物資の搬入は可能でしょうか?」

「最悪、緞帳。いや首都中央駅馬東京に置いておくだけでも回収するしね~。」

「了解した。どこにアクセスできるかわからない以上1カ所と言うわけにはいくまい。山手線各駅に補給物資を配置する。受領するように。」

 これで弾薬関係はクリア。

 次いで充電関連。これは死活問題だが、既にドローンで実証実験済みの為、充電が滞りなく行われるという事実がある。

 徐々に近づいてくる東京緞帳。その大きさは錦糸町発の時点で既にカメラに収まっていた。

 黒く鈍く光る力場。真昼だというのに光を通さないのだろうか漆黒である。

「みんな、すまないが基本的に援護射撃は不可能と考えてくれ。火力支援安全基準を満たせないのもあるが、何より緞帳を地対空ミサイルがくぐった瞬間コントロールできなくなる可能性もあるから。」

 そうだ、緞帳内で四方八方に散り散りになればどこに当たるかわからない。

 何より今、敵の存在を確認できていない。

 何型が何体程度出現しているのか。

 最後の無線はたしか……そう、全天を覆われた。

 それは敵なのだろうか、緞帳の事なのだろうか。

 行けばわかる。私達も危険にさらされるわけなのだが。

 危惧すべき点、それは他にもある。

 あの日、餘目曹長と接触により発現した頭痛。

 そして私が電波体バグと戦闘をして起こる頭痛。

 それが今この瞬間に起こっているということ。

 曹長は……頭を押えている。間違いない。

 

「曹長、その頭痛は。」

「分からない、錦糸町からずっと痛むのだ。」

「あの日私と触れた際に感じた物。そしてそれは電波体バグを示す物。間違いなく居ます。奴らは。」

 そうなのか、と曹長。

 やはり気付かないよなこんな事。

 私も気付いたのは最近だ。

 共通点。と言えば、互いに浸蝕を受けたという事だろうか。

人型装機リンネ間もなく両国を通過……定刻。浅草橋に入り次第減速を開始します。」

「各員兵装確認をお願いします。」

 AP弾徹甲弾よし、HE弾榴弾よし。浸蝕対電弾よし。ナイフよし。頭部チェーンガンよし。

 問題は無い。

 それに加え2人はその身に装備している小銃に弾を込めていた。

「20式よし。噛崎は?」

「ボクのもおっけぃ。」

 近づいてきた次は浅草橋。緞帳がもうあんなに大きく。

 呼吸が荒くなる。

 不安が尽きない。

操縦者アクタープルスハートレート異常値。」

「城君。不安は私達も同じだ。何なら君等の様に戦えない分余計にもどかしい。私達の分まで頼んだよ。」

 パイロットスーツを通してバイタルサインが発令所に送られる。

 言葉通りのお見通しだ。

「すいません。集中します。」

「浅草橋定刻通過。減速開始。」

「電磁吸着ブレーキ作動、回生ブレーキ圧力正常。逆回転。」

 奇しくも私達は帰ってきた。あの日初実戦に身を投じた秋葉原へ。

「減速正常。首都交差駅馬秋葉原総武線5番ホームに着荷。完全停止を確認。」

「輸送用固定ボルト解除、セーフティデバイス・リリーブ。人型装機リンネ各機はオンステージへ。」

「火力支援が行えない分、ありったけの物資補給で支援する。ここからは生放送だ、行きたまえ!」

 車両に固定された機体が解放される。

 同じく固定されたリコイルライフルを2丁手に取り立ち上がる。

人型装機リンネ実戦壱番機、餘目遥。」

人型装機リンネ実戦弐番機、噛崎熾織。」

人型装機リンネ訓練機、城未来。」

 すうっと息を吸う。

 モニターで2人と目を合わせ頷く。

「「「オン・エア!」」」

 10m以上ある秋葉原駅高架を飛び降りる。

 山手線内側、ここはもう緞帳の中。

 異常は……あるとすれば全天を覆う緞帳と一方通行の通信か。

「こちら中央発令所、君達の事は依然モニターできている。バイタルに機体情報に至るまでだ。これより山手線各駅に災害派遣を要請した陸自とドローンで補給物資を置いて回る。都度確認してくれ。」

「こちら、餘目。了解した。聞こえてはいないだろうが。」

『アラート!無登録機接近!英霊反応!』

「各機周囲を警戒!何も見逃すな!」

 全員背中を向け周囲を観察する。

 何も……いない?

「AI再探知!」

『イエスマム。再探知……反応無し。』

 やっぱりいない。

 それに英霊?それを刻めるのは局のメインシステムのみだぞ……?

 結論ここに居る2機の実戦機がそれにあたる。故それ以外の存在はイレギュラーだ。

「サーモでも反応無しです。あって鳥と猫、それから一般人だ。」

「避難を促すべきだね~。曹長やる?」

「そうだな、噛崎ここから一番近いシェルターは?」

 やり取りの中に既に信頼関係が垣間見える。

 配属されたばかりの噛崎1曹を頼っている。

『こちらは陸上自衛隊です。この放送をお聞きの一般人は最寄りの秋葉原南3番シェルターへ避難を開始してください。繰り返します……。』

 手慣れている。流石災害派遣を経験した自衛隊だ。

『アラート!英霊反応。数1!』

 また来た!?反応はどこだ。距離は近いはず。

 生体反応は、変わらず鳥と猫?犬?と人。

「ダメです!発見できません!」

『アラート!Enemy正面!!』

 アラートを発した餘目曹長の前方を見つめる。

 居たのはPawn型電波体バグ

「殲滅する!バックアップは任せろ!」

「は、はい!行きます!」

 訓練通り曹長のスナイパーライフルでコアを露出。

 私のAP弾徹甲弾でコアを砕く。

『英霊反応消し……新たな目標150度。英霊反応!』

 また来た!

 目標の方角へ振り向く。

 居た。Pawn型2体。

「ボクに任せろ!」

 噛崎1曹が切り込んでいく。

 腰の刀を抜き放ち、切り刻んでいく。

 表皮が簡単に。コアも簡単に砕けた。

「特別製だからね。浸蝕対電弾の刀みたいな。微弱な電波を出して振動しているんだ、だからスーッと切れるのさ。」

 強い。スナイパーライフルと近接用の刀。

 遠近で明確な強みができた。

 対して私は汎用AI。器用貧乏か。

『アラート!英霊反応……消失ロスト……新たな目標……消失ロスト。』

 なんだ、AIが誤反応を繰り返している。

 おかしい。何かがおかしい。

 その後は英霊反応を擁する電波体バグと戦い、その反応を消す。そして現れるという霧を掴むような事態に陥っていた。

「こちら城!発令所、応答願います!」

「メーデー!メーデー!メーデー!こちら噛崎!くそっ、だめだよ!」

『電波遮断、内ぞ『電波受信、充で『電波遮断……』』』

「ええい。しつこい、2人共充電関係のAIアラートを切れ!聞こえるか発令所!何度も英霊の反応が出ては消える。然し我等の目に映るのは電波体バグだ。都度消去デリートしているがキリがない。聞こえるか、こちら餘目……」

 私達はかつてない危機に陥っていた。

「ダメだよ曹長。国際信号でも駐屯地すら反応無し。向こうからの無線は聞こえるけど、こちらからはやっぱりとどかないっぽいや。」

「外では……ちょうど正午ですね。力場の中は満天の星空。夜の帳とはまさにですね。」

「こちら錦糸町中央発令所。3人共聞こえますか?こちらからはモニターできています。英霊と電波体バグその両方も。現在スーパーコンピューター、アクタガワが脅威判定中。作戦の棄却1、稟議中2。避難誘導放送を流しつつまずは皇居に向かえ。道中、民間人を襲う危険性を孕む敵のみ撃破、あとは無視だ。」

 棄却まで来たものもいるか。

 これでは作戦行動自体ままならない。

「聞いたな?2人共。玄月2尉の判断通りだ。誘導は私が行う。噛崎は移動しながら都度最寄りのシェルターの検索。城はアラートに注意しながら索敵だ。誰1人欠けるなよ。全て遂行する。」

「「了解!」」

 私たちは首都中央駅馬東京を目指し、山手線の線路を外回りに辿っていく。

 アラートは切ったが、充電電波の届きが悪い。

 現状何とか充電しているが殆ど常に充電と非充電が切り替わっている。

「現在位置は……。」

「んーとね、中央線が合流するでしょ、だから神田だね。ほらあれが駅だ。」

「もどかしいものですね。こちらの問いが伝わらないのは。」

 程なくして神田駅へ到着する。

 ほぼ無人。危険を感じた地上員が既に独断で避難誘導を始めていたのだろう。

 局の地上員は東京都各区域に配置されている。

 それが今回、役に立ったわけだ。

 それでも変わらず避難放送を続ける。

 1つでも多くの灯火を消さないために。

『アラート!Enemy対多数、距離10!』

 10!?近すぎる!何処に!?

 答えはすぐにやってきた。

 コックピット内に響くアラート音。

「ぐっ……くっ……そお!」

 僚機のコックピットを映す映像が乱れていた。

 

 重力バリアを展開し接触を遮ってはいるが、錦糸町事変の件がある。

 減速できるのは数が限られる。それ以上は……!

 パリン!

 ハニカム構造のバリアが1層割れた。

 全3層のバリア、あと2つ。

「曹長!私が行きます!」

「表皮は任せろ!」

 その時だった。

「大丈夫、離れてて。」

 冷静な噛崎1曹の声だった。 離れていて?この状況で?

 でも私の直感が言ってる。

 噛崎1曹を信じろと。

「り、離脱します!」

「ありがとう。いくよ〜!二天一流正の型”閃”!」

 それは一瞬の出来事だった。瞬く間に弐番機周辺の

 張り付いた電波体バグは突然蒸気を上げ始めた。

 その蒸気から人型装機リンネが歩いて出てくる。

 両の手に刀を持って。

「にゃはは。心配かけてごめんね。大丈夫だよ〜。」

 私達は安堵した。

「噛崎……次からは私達に教えておいてくれ。心臓がいくつあっても足りん。」

 それもそうだ。

 信じたのは私だけど流石にヒヤッとした。

 カチンと腰に刀をしまい、合流した。

「それにしても重力バリア。訓練はしたけど本物は強烈だね。潰れるかと思ったよ〜。」

 そうなんだよ。私なんか知らずに突っ込んだから終わったと思ったしね。

「よし、急ぎ東京を目指すぞ、そこでガスと弾薬補充。そのまま皇居を目指す。」

 私達は山手線を左手に進み、東京駅へ歩みを進めた。

 ――――――――――――――――――――

「曹長達は間もなく東京へ辿り着くものと思われます。」

「最大望遠、緞帳によるジャミングのようなものもありますが、何とか捉えられています。」

「先回りだ、ドローンを東京駅内に配置。ガスと、弾薬。信号弾も置いておけ。」

 局は局で最大限の援護を準備する。

 可能な限りで物資を積んだドローンを緞帳内に配置する。

「朝霞、練馬、十条駐屯地に連絡。災害派遣を要請。最寄りの駅と緞帳へ物資を投げ込ませろ。決して機体は入らないように注意喚起。」

 玄月千尋はインカムを握りしめメインモニターを凝視する。

 そこにやってくるもう1人の白衣。

「すまない千尋。今回我々砲雷課は完全にお荷物だ。一応念の為衛星経由で3人に照準はつけているからいつでも撃ち込める。万が一のことがあれば、な。」

 そう、万が一にも重力バリアが耐えられないほどの接敵をした場合、操縦者アクタ―を守る為火力支援安全基準を破棄し守らねばならない。

 局の操縦者アクタ―の敗北=人類の敗北なのである。

 現在電波体バグと対等に渡り合う力を持つのは対電波放送局所属の操縦者アクタ―のみである。

 陸上自衛隊では災害派遣として盾となる。対電波放送局は矛となる。棲み分けされている。

 ほかにも技術の問題がある。放送局はエリート中のエリート。それが失われることは絶対に避けなければならない。

「すまないな伊織。気配り助かる。それでいい。万が一の場合は稟議を上げる。その時は頼むぞ。」

「気負いすぎるなよ。それじゃあ指示待ってるからな。」

 ぽんと肩を叩きCICへと戻っていった。

 頼んだぞ。君達しかいないんだ。酷なようだが。本当に頼む。

 ――――――――――――――――――――

 首都中央駅馬東京。

 現在時刻12:39。

「見ろあれがきっと補給物資だ。2人共回収だ。」

 お互いのバックパックを交換し合う。ガスを補給しバーニアを再使用できるように。

 消費した弾薬も補充する。

「詰めるだけ詰め込め。ここから皇居、永田町、BPO。山手線から離れる。補給がままならなくなる

 ぞ。」

「新品の刃まで用意してある。ありがたい~。」

 柄をひねり刃を外す。そして新品を取り付ける。予備はホルダーに。

「振動して切るから刀身を消耗するんだよね~。」

 補給の装備が終わり正面を向くと餘目曹長が空に向かってリコイルライフルを構えていた。

「曹長?」

 ババババっ!バンっ!

 白の発光弾を4発。続いて、緑を1発撃ちあげた。

 程なくして無線が入る。

「装備を受領したという事だろう。確認した。以降もそのように知らせて欲しい。五灯式で頼む。」

 疑問ばかりが膨らんでくる。

 気になって仕方ない私は曹長に聴いてみる事にした。

「あの、餘目曹長。今のは?」

「ああ。発光弾が置いてあったのでな、どうせ衛星から見てるんだろう。鉄道信号で進行を示す発光弾を撃ち込んだ。答えがさっきの無線だ。これ以降、何かあれば都度打ち上げる。発光弾も積んでいけ。」

 知らなかった。確かに局は鉄道を主に使用し輸送を行っているが。

 曹長は鉄道信号まで知っていたなんて。

 さて目指すは皇居。天皇皇后両陛下の安否確認だ。

「行くぞ。まずは最短ルートで駆け抜ける。坂下門だ。」

 私達は走り出していた。

 その時私はある事に気づいた。

「あの、曹長。緞帳内で私達が通信出来ているという事は局長と連絡取れないでしょうか?」

「それだ!」

 コンソールを操作し局長の手帳をコールする。

「遥!?よかった。私は無事です。ええ、BPOに居ます。作戦概要が届いていますのでまずは皇居から行ってください。常に回線はオープンで頼みます。」

「了解しました。局長。では行きます。」

 丸の内のビル群を走り抜ける。

 信号2つ。皇居は東京駅に近い。

 その最も最短の距離坂下門を目指す。

 見つけるのは簡単だった。皇宮警護官が門の前で構えていた。

「私が行く。警戒を頼む。」

 曹長はコックピットブロックを開けワイヤーロープに足をかけ皇宮警護官の前に降りる。

 機体の電源が落ちている。手帳が身分証明書であり、かつ起動キーである。故の弱点である。

 カメラを向け音声を拾う。

 軍人手帳を見せ、所属を明かす。

「こちらは対電波放送局トロイメライ第1人型装機リンネ小隊小隊長。餘目遥曹長である。作戦に従い東京に張り巡らされたこの緞帳内の要人の安否確認を行っている。問おう。両陛下はご存命か?して避難は完了しているか?」

 皇宮警護官は敬礼をし話始める。

「両陛下は御無事です。然し、安全の観点から居場所をお伝えする事は出来ませんが、核シェルターに避難しています。」

「了解した。引き続き護衛を頼む。では失礼する。」

 曹長は機体に戻り手帳をコンソールに差し込む。

 主機に灯がともる。

「聞こえていたか2人共。両陛下は無事との事だ。次永田町に向かうぞ。」

「「イエスマム!」」

 その前に。そう言うと再び空に向かい信号弾を撃ち込んだ。

 先と同じ配色で。

 私達は緞帳の更に内側、首相官邸へと走り出した。

 ――――――――――――――――――――

「玄月2尉。信号弾を確認。内容は進行。」

「場所は千代田区千代田1-1-1。皇居になります。」

「よくやった。意味としては両陛下の安全の確認が取れたということだろう。向こうの状況はわからない、念のため局長にも現在状況を送信だ。」

 状況は好転しているが、然して芳しくない。

「次点、永田町に向け針路をとったものと思われます。」

 そして緞帳はその変化を待ちはしない。

「2尉!緞帳に異変!皇居周辺とあれは、四ツ谷でしょうか。起点東京と同じ明滅を確認。」

「事細かく事象を全て送信しろ。我等に出来る事は観測データを伝える事だけだ。」

 錦糸町中央発令所は極まりなく緊張に包まれていた。

 手に汗握る緞帳血戦。戦いは未だ折り返しに非ず。

 ――――――――――――――――――――

 首都環状山手線に張り巡らされた東京緞帳。

 危険を顧みず突入を決行した人型装機リンネ小隊。

 達成できた任務ミッションは未だ1つ。

 危険未知数な緞帳内での任務は続く。

 続く英霊反応。見えない英霊に疲弊する小隊。

 次回、《第9話:英華霊秀血戦都市トウキョウ後編》

「遥、城さん、噛崎さん。答えはきっと……。」

「噛崎、城を頼んだぞ!」

「まっかせんしゃい!いくよ1曹!」

「餘目曹長、どうかご無事で!」

「行きましょう。生放送開始です!」

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