第5話:その瞬間、命、瞬く
透き通るような夏空。
気怠ささえ感じる快晴。
私達、対電波放送局は度重なる
「対電戦闘用具収め。」
秋葉原事変後、2週に1回程度のペースで放送事故が発生。
課業と作戦行動を反復して毎日を過ごしていた。
また今日も押上での作戦行動を行った帰りである。
錦糸町発令所格納庫にて
ハッチを開きコックピットブロックを前に出す。ワイヤーに足をかけ地面に向けて降りていく。
そこには鐘倉さんが待ち受けていた。
「流石に疲れるわ。授業による訓練と、放送局による訓練。その上
「そうですね、流石にこうも連続すると学業も疎かになりますね。はい、どうぞ。」
ありがとうと鐘倉さんからドリンクを受け取る。
ちゅーと音を立てて飲み始める。
空調が効いているとはいえ、
出動時は街中を走る事も気を遣う。間違って避難民を踏まないように。また、
訓練生とはいえ使用する兵装は模擬弾ではなく実弾である。その全てを理解する事が必要である。
そして何より大きな問題が城未来を悩ませていた。
実戦で
それは訓練時から現れる操縦の癖や特技等を総合的に判断し、実戦配備機に搭載する物である。
彼女は何にも秀でていない。可もなく不可もない。特技もない。その為刻むべき英霊を選択する事が出来ないのである。よって実戦でも訓練機を使用。訓練機では英霊を刻めない為、AIも汎用AIを使用している。
何事もそつなくこなせるが長所がない。短所もない。現場ではその瞬間の判断が全てを決める。
「私に合うAIは無かった。実戦では厳しいけど汎用AIで戦い抜くわ。」
「城さんなら大丈夫ですよ。無線聞いてますけど、結構判断力鋭いじゃないですか。この前もナイフを突き立ててそれを足場に2体目に近づきコアを破壊した。咄嗟にできる事じゃないですよ。超直感ってやつですかね?」
確かにたまに私は行動より先に考えが浮かぶ事がある。直感でそれに従って戦ってきた。
そうか、そういう戦い方もあるのか。鐘倉さんに戦い方の根幹を教えてもらった気がする。
確かにそうだ、汎用でもいいじゃないか。ずっと乗ってきた訓練機の方が落ち着くし。
余談だが実戦機は黒を基調としたカラーリングだが、訓練機は赤を基調とした物となっている。
その為餘目曹長とは色が違う機体である。
今は餘目曹長が小隊長を務めるリンネ小隊の配属されている。
と言っても、曹長、噛崎1曹と3人の部隊である。
話に聞くと中央高校での訓練時から適性のある生徒があれば、引き抜くつもりだったらしい。
が、現状無し。その為2人で運営している。
ふと機体を見ると鐘倉さんが他の整備員と一緒に私の訓練機をメンテナンスしてくれている。
出撃や訓練の度に毎回だ。本当にありがたい。だからいつも万全の状態で臨む事ができる。
鐘倉さんがコックピットブロックへ入っていった。整備用の軍人手帳で訓練機を起動させる。
整備科とはいえ実戦は無理でも最低限機体を動かす事が出来るよう授業を受けている。
腕を動かしたり手指を動かしたり、歩いたり、基本動作を確認している。
整備員が無線で話す。
「鐘倉3曹、動作良好、問題は見受けられません。次のテストへ移行しましょう。」
「了解しました。コックピットブロック閉鎖します。頭部兵装試験へ移行。」
私が知る鐘倉さんはもっと内気でへなへなした人だった。
でも訓練を通し、整備している鐘倉さんを実際に見るとイキイキとメンテナンスしている。
これが本来の彼女の姿なのであろう。
最初は巻き込んでしまった事を申し訳なく思っていた。いや今もそうだが、彼女が一緒でよかったと思える。
ベンチに腰掛け、ドリンクを飲み、彼女の仕事ぶりを眺めている。
「城1曹。噛崎1曹。今回の出撃の報告書の作成がある。会議室へ来てくれ。」
餘目曹長だった。対電波放送局とはいえその実態は軍である。報連相は当然である。
「了解しました。鐘倉3曹へ引き継ぎ後着替えて速やかに向かいます。」
「はいよ〜。僕も着替えてくる。」
わかったと言い残し、餘目曹長は足早に会議室へと向かっていった。
整備作業中の局員に話しかけ無線機を受け取る。
「鐘倉さん。私これから作戦報告書の作成に行くことになったの。訓練機よろしくね。」
「はーいわかりました!いってらっしゃい〜」
無線機を局員へ返す。ドリンクをダストボックスへ投げ入れる。格納庫を出て更衣室に。
パイロットスーツから制服へ着替える。そして会議室へと向かっていく。
コツンコツンと格納庫内に靴の音が響く。
格納庫から通路へと出る。
無機質な鉄の通路が続いている。
例えるなら少し広いイージス艦の中である。
無機質な通路だ。
通路もブロックごとに隔壁が設置してある。
基地内にも万が一
有事の際に備えて局員は基本全員銃の携帯が認められている。
口径が小さい為大した威力ではないが、牽制の為である。
それは訓練生である私たちにも渡された。
重要な官品である。日々の管理も怠らない。
その他本来であれば軍事手帳へと更新されるはずであるが、訓練機を使用している為生徒手帳のままである。
生徒手帳を操作する。今日の予定はこの後報告書作成が終われば学校へ戻り訓練。とてもしんどい。
はぁとため息をつき、会議室の扉を開く。
そこには先に着いていた餘目曹長がPCをカタカタと操作していた。
「来たか。先に始めているぞ。今日はお前作戦行動中に路駐の車を蹴り飛ばしただろう?その報告書だ。」
「……すいません。」
隣へ座り、持ってきたPCを開く。報告書作成画面を開く。
「今回の街への被害総額はざっと約3000万円。車とスティールワイヤー突き刺したビルの修理費だな。毎度これでよく潰れない物だ。秋葉原事変では被害額が億だったと聞いているが。」
ひえ。と声を漏らす。
「火力支援で使用した火器はまた別会計だ。ほんと日本の財源が不安になるな。それに最近は立て続けだ。給料まで減らないかと考えてしまうな。」
さらっと恐ろしいことを言っている。
確かに日本の軍事費用は右肩上がりなのだろう。
国会ではきっとたいそう大変な議会になっているのだろう。
確かに
そこで棲み分けをして両機関が存在している。
頭が痛くなる。PCに向かい眉間を抑える。
入学してから4ヶ月ほどが経った8月。それでも実際の道路を走るのは難しい。
大通りであれば中央分離帯を踏みそうになる。
狭くなると路駐を踏みそうになる。
その点、2人は凄い。細かな操縦が出来ている。車も踏まない、架線もくぐる。なかなか真似出来ないでいた。
その上重要な充電問題の解決策。ビル間を飛び回る為のワイヤーもビルに穴をあける。それの修理費も計算しなくてはならない。
この作業もまた日常になりかけてきた。
もはや”月月火水木金金”である。
作業に集中しているとそこへ館内放送が入った。
『操縦課
はじめて3人の息があった。全く同じタイミングでため息が出た。
「2人とも……いくぞ。」
「了解です……マム。」
「今帰ってきたばっかだよ~……」
PCを閉じ、小脇に抱え会議室を後にする。
「
行けばわかるさ、と餘目曹長はこぼした。
彼女は私よりずっと長く軍属である。御園生局長と同じく埼玉県朝霞駐屯地勤務だったと聞いている。
いい意味で上官に従順忠実である。
しかしあの日、銃を向けられた局員とは違い、しっかりと意見を言えるのだ。その点私は餘目曹長を尊敬している。軍人としても人としても。
だから私はこの隊長のもとで研鑽している。
そういえば今更だが、餘目曹長の
噛崎1曹は英霊適性検査受けたのかな。
でも実戦機が出来てない以上汎用AIで戦うしかない。
よって現在3機のこのコンビネーションで
実践向きではない私の訓練機を幾度となくフォローして頂いている。だから私は実践訓練に取り組める。感謝である。
発令所前の扉へたどり着く。
《第1中央発令所》と書かれた看板が見える。
ドアに近づく。自動で重たい鉄のドアが開いていく。
「餘目曹長、及び城1曹、噛崎1曹長。命令に従い出頭しました。」
3人並び足を揃え敬礼をする。
御園生局長が局長席から立ち上がりこちらを見る。
「3人とも忙しいところにごめんなさい。こちらの都合になりますが、
そこに玄月2尉が続ける。
「今回は福岡工場の責任者立会の為、御園生局長が通常輸送車両へ同行します。餘目曹長はその護衛も任とします。受領した新兵器を貨物車両へ収容後速やかに錦糸町発令所へと戻るように。車両のコントロールは全てこちらで行いますが、現地にて発進信号が確認されなければいつまでも発進できません。気をつけてください。」
了解しましたと餘目曹長が返す。
「それでは餘目曹長行きましょう。行き帰りの護衛任せましたよ。」
「お任せください。」
そうだと玄月2尉が再び話し出す。
「ここ最近の
《魂魄を賭せ》それは対電波放送局共通の合言葉である。
「それでは城1曹、噛崎1曹。いってくる。すまないが報告書の残りを頼む。手帳へ送信しておいた。」
「了解しました。お二人ともお気をつけて行ってきてください。」
餘目曹長と御園生局長は一足先に格納庫へと向かって行った。
私はというと、玄月2尉に呼び止められていた。
「君の感性。その直感は戦いにおいて存分に発揮されている。そこで聞きたい。どう思う。この武装受領は。」
「私は、胸騒ぎがします。秋葉原事変で
「そうか。……全館通達!第2種警戒態勢!」
館内放送が鳴り響く。
「総員、第2種警戒態勢!」
雑談をしていた局員も各々、配置につく。
発令所内各席につき、ヘッドセットを装着、コンソールを起動する。
「君達は格納庫にて即時待機。メンテナンス終了次第搭乗。有事の際は準備出来次第発進。」
了解と言い残し私達は発令所を飛び出した。
靴音が響く無機質な通路を走る。
息を切らしながら、格納庫へと急ぐ。
途中更衣室に寄る。ロッカーを開け制服を脱ぐ。
準備されているパイロットスーツへと着替える。
私が対電波放送局に配属になり既存のスーツを一新した。
遠隔操作により、鎮痛剤や向精神薬の投与、バイタル測定。心肺蘇生まで行える。また衝撃を感知し、頭部を保護する為エアバッグが膨らむ。救命率を高める最新式のパイロットスーツである。
「このパイロットスーツすごいね。いずれ自衛隊でも配備されるんだろうなあ。」
「噛崎1曹は何で乗ってたんですか?」
「ん〜?普通に陸自の制服だよ。あの迷彩柄のやつ。」
やはり局での掃討作戦と陸自による災害派遣は危険度が違うのだろう。
袖を通しチャックを締める。ロッカーを閉め、再びPCを持ち格納庫へと向け走り始める。
はぁはぁ、と息があがる。
噛崎1曹はと言うと、流石自衛官。笑いながら走ってる。
私も……はぁ、鍛えなきゃ。
そうして格納庫へとたどり着く。
先の放送と玄月2尉の通達があったからであろう、訓練機回りの整備課局員が忙しなく動き回っている
居た、鐘倉さんだ。コックピットブロックからケーブルを引っ張り出しPCを操作している。
私達は格納庫内のベンチに座りノートPCを広げる。
即時待機しつつ報告書を作成する。
格納庫奥ではホイストクレーンを使い餘目機が輸送車両へ固定されていた。傍らには餘目曹長と御園生局長。笑談していた。
その後餘目曹長はコックピットへ、御園生局長は旅客列車へと入って行った。
――――――――――――――――――――
中央発令所。
「御園生局長、餘目曹長、配置につきました。車両ドア閉鎖。」
「順次在来線を待避線へ誘導。錦糸町から品川、品川から
玄月2尉も続ける。
「今回は通常輸送を行います。JR総武本線快速、横須賀線、京急本線、京急空港線各駅へ回送車両通過案内開始。輸送スタート。」
――――――――――――――――――――
車輪のロックが外れる。秋葉原の時とは違う。ゆっくりと車両が加速していく。
地下格納庫から総武本線快速錦糸町ホームへと輸送車両が現れる。地上へと車両が現れると更に加速。通常の車両と同等に加速していく。
旅客列車内の御園生局長はヘッドセットを身につけ話始める。
「遥、2人きりというのは何年振りでしょうね。朝霞駐屯地時代を思い出しませんか?」
「はい、あの頃から随分お世話になっています。信頼できる上官として尊敬しています。」
「堅苦しいですよ、遥。私と貴女の仲じゃないですか、確かに上官ではありますが女子会だって開いたじゃない。」
餘目曹長は困惑する。自分は女子会が似合わない堅い女だと自覚しているからだ。
「自分は、その、局長の様にお洒落なんてあり得ませんし。なかなか局員とも馴染めずにいます。それでも気にかけてくれるのはうれしく思いますが……。」
「今は女子が3人も増えました。このがさつな男性ばかりの職場にです。今度は5人で女子会しましょう。上官命令です参加するんですよ?」
命令であればと餘目曹長は頷いた。
錦糸町発令所にももちろん無線は聞こえている。
がさつで悪かったなとこぼした白衣の男がいた。
輸送車両は総武本線のレールと別れる。
快速線なので両国ではなく馬喰町を目指して地下へを入っていく。
ここまでは順調に進んでいる。否、順調すぎるのだ。
ここ最近の出動事情を考えるとやはり城1曹の直感は正しいのだろうか。
馬喰町、新日本橋、東京を経由横須賀線へ進入。
新橋、品川とたどり着いた。
ここから京急本線へと切り替わる。
そう品川へ到着したその時であった。
『ブー!ブー!ブー!』
輸送を見守る監視カメラの映像が切り替わる。
「アラート!東京スカイツリーから感あり!日本テレビ系列から放送事故、
「日本テレビへ強制放送停止措置!」
コーヒを嗜んでた玄月2尉が立ち上がる。
「第1種戦闘態勢へ移行!対電戦闘用意!」
局員が復唱する。
「対電戦闘用意!」
発令所内が慌ただしくなる。
そして一番懸念していた事態が起きてしまった。
「輸送機品川駅を通過……
臨時特急通過シークエンスではない上、通常輸送車両の為これ以上スピードが出ない。
反撃しようにも、架線が邪魔をする為
止まれば間違いなく捕食される。羽田空港に向け進み続けるしかない状況である。
玄月2尉は考える。この状況を打破する方法を。
「民間人避難開始!品川から
ここで兼坂砲雷長が無線に入る。
「品川駅周辺目標群α、トラックナンバー
砲雷課局員も続けざまに発する。
「防衛システム無事起動確認。浸蝕短SAM攻撃準備よろし!」
「火力支援安全基準条約破棄!報告書はあげるから撃ちあげろ!浸蝕短SAM攻撃開打ちー方始め!」
秋葉原から炎を上げてミサイルが飛び出していく。
音速を超え、加速する。
すぐさま品川へと辿り着き目標を
さらに玄月2尉が命令する。
「整備作業中断。訓練機と汎用機を
急激な戦況の変化についていけるただ1人の人物。玄月千尋。
彼の頭の中では常に最新の作戦が練り上げられている。
最も被害者を出さず、効率の良い作戦が。
そこにCIC兼坂砲雷長から。
「目標群α、火力支援の隙間を縫って輸送機へ突っ込んでいく!攻撃効果ほぼなし!」
「訓練機、汎用機固定よし、臨時特急案内開始。在来線退避、高速輸送開始!」
地下格納庫から轟音で火花を散らし訓練機が飛び出していく。
「錦糸町駅進入、更に加速します!」
私は秋葉原事変の時と同じ気持ちだった。
あの頃と違うのは信頼できる上司が居る事。
間に合えと考えはするが決して焦らない。暴走しない。
そこに玄月2尉からの無線が入る。
「いいかい、2人とも。御園生局長は要人だが、本人は民間人を優先する様に話している。決して民間人を疎かにするな?それは局長の意志、この機関の総意である。」
「了解しました。民間人も局長も、誰も見捨てません。」
「その通りだ、それに局長には餘目曹長がついている。機体サイズ故コックピットブロックに2人乗れないのは痛い所だが。」
確かにそうだ、コックピットブロックに乗せられれば直接捕食されるリスクは減る。だが先述通りその機体サイズ故1人乗りなのである。もしかしたら詰め込めば2人行けるかもしれないがそれで操縦がままならなければ意味がない。
現在馬喰町。訓練機は更に加速する。
「輸送機地下へ入りました。」
――――――――――――――――――――
「御園生局長!こちらは京急蒲田まで行けば以降終着第1ターミナルまで地下になります。が、このままでは追いつかれます!発砲許可を!」
「なりません!排莢が万が一民間人を巻き込んだらどうするのです。我々が武力を行使するにも条件があります。先んじて玄月2尉が終着までの各駅の避難誘導。兼坂砲雷長が火力支援の準備をそれぞれ行なっているでしょう。私たちは待ちましょう。」
御園生局長は冷静である。その若さには合わない落ち着きである。局長は俗に言う天才である。その頭脳故、自衛隊朝霞駐屯地時代には既に幹部候補生として認められていた。いずれは幕僚長になるものだと期待されていた。
その為対電波放送局設立時、真っ先に名前をあげた人物である。自ら名乗り出たのだ。だがやはり若さを疑問視する人も多かったという。
同じ朝霞駐屯地勤務だった餘目曹長も局長の噂は聞き及んでいた。そして対電波放送局設立時引き抜かれた。女性でありながら男性に負けない体力、精神力。その従順な姿勢。変わらない日常から御園生局長自身が選び引き抜いたのだ。
だから私は、そんな御園生局長を尊敬している。逆境を跳ね返した精神力。判断力。全てにおいて信頼している。
京急蒲田までもう少しというところで
「御園生局長!高周波ナイフ、振動無しで使用します!」
「許可します。跳ね除けなさい。」
輸送車両から上半身のみを起こす。架線に当たらない様に。
腰部からナイフを取り出し
倒す必要はない。間も無く駅を通過し地下へと入る。それまで取りつかせなければいい。餘目曹長の操縦は上手い。細かい操作も得意とする。器用に触手をきり払う。可能な個体はコアを狙い蒸発させる。
そうしているうちに輸送車両は地下へ進入。追手を振り切った。
だが
「今回の
「また、過去の報告から、
玄月2尉がこぼす。
「日に日に厄介になっていく訳だ。対策を講じなければジリ貧になる。今回の新武装がどこまで役に立つかだな。奴らが意志を持っているのは明らかだ。私たちの予想のその遥か上をいく。」
作戦の幅が狭まっていく。玄月2尉は手を握り締めモニターを注視する。
訓練機、汎用機は東京を通過。まもなく被災地港区品川駅へと到達する。
「兵装選択、
「城君、対象地区は間も無く駅周辺の避難が完了する。実弾の使用を許可する。速やかに対象を撃破、民間人と曹長、局長を救出する。」
了解と無線を入れる。
――――――――――――――――――――
「御園生局長、間も無く第1ターミナル到着となります。武装受領後、私は地上へ出て囮となります。その間に錦糸町へ向け移動をお願いします。」
「なりません。誰1人として失ってはいけないのです。賭すのはその魂魄であり、命ではありません。……現職の作戦担当程ではありませんが、考えがあります。いいですか…………。」
現地では別の作戦が始まろうとしていた。
輸送車両が
待ち受けているはずの福岡工場責任者は避難放送を聞き避難している。幸い新型兵装は駅のホームへ貨物車両に乗り残されていた。
いずれこの地下も
「餘目曹長、新型兵装を装備、私をコックピットブロックへ収容し地上へ出ます。私とあなたの体躯なら、2人入るでしょう。」
「くっ……了解!コックピットハッチ開きます、お急ぎください!」
御園生局長がワイヤーでコックピットへと入っていく。
「流石に狭いですね……しかたありませんが。先の無線通りならば、城さん達が向かってきています。合流までの数刻を耐えれば勝ちです。」
「新型兵装装備完了。バリアシステム正常。反放送波正常に受信。浸蝕対電弾リロード。セット。行けます局長!」
「それでは参りましょう。ここからは生放送です。餘目機オンステージ!」
そして餘目曹長がそれに応える。
「
試験機がエレベーターを使い地上へと顔を出す。
案の定
こちらを捕捉しものすごい速さで突っ込んでくる。
「さぁ遥、新型兵装、その実力を見せてもらいましょう。」
バリアシステム起動。突っ込んできた
それはハニカム構造になっており、全天を覆う3層展開された。
これは重力場を発生させ物理的な干渉を防ぐ物ある。
その構造は3層あるバリアに触れる度に失速、無限とも思える距離を創り出すシステムである。
もちろん弱点はある。
機体はその重力内に配置されること。
機体が軋む。いくら新兵装と言えど、タイマンではない。対多数を相手にしている。3層あるとは言えその衝撃は消しきれない。
「局長ご無事ですか?」
「私は大丈夫。後数刻なんとしても持たせるのです。」
そして重力バリアは
戦闘機のそれである。
「っく!……新しいパイロットスーツの開発が必要ですね……遥。」
「さすがに堪えるものですね。高速輸送とは訳が違います。反撃いきます!」
コンソールを操作する。兵装選択。
「浸蝕対電弾、ファイア!」
浸蝕対電弾は逆に
1体、また1体と目標を
「遥、バリアシステムはその強力すぎる力故、クールタイムが存在します。一度離れましょう。30秒の使用毎に10秒のクールタイムです。」
「了解しました。離脱します。」
対電波放送弾再リロード……とはいかなかった。
ギリ10秒のクールタイムの後、再度バリアを展開。
ギシ……機体が軋む。
さっきよりも数が多い。動けない。
このままではバリア展開時間30秒が過ぎてしまう。
だめだ、四方を囲まれた。バリアを破棄して飛び出してもどれかには当たる。
私は、私は、局長1人守れないのか……。
「局長、申し訳ありません、私が不甲斐無いばかりに、この様な結果にさせて。このままでは浸蝕されてしまいます。本当に申し訳ありませんでした……。」
餘目曹長は失意に落ちた。決して己が腕を過信したわけではない。それを上回る
餘目曹長は涙した、その無力さに。
『重力バリア消失まで10秒』
AIからアナウンスが入る。私たちの命は後10秒。
走馬灯がぐるぐると脳裏と走り出す。
淡く消える記憶に何度も手を伸ばすが、消えてなくなる。
あぁ、私が守る命の灯火が消える。
操縦桿から手を離そうとした……その時である。
「遥、諦めるのははやくってよ?私はこの状況でも諦めません。私は私達の対電波放送局を信じます。」
その時私の命が、拍動した。
刹那炎を上げたミサイルが
重力バリアギリギリの状態で、バリアに接敵した
残り1体。しかしバリアが切れた。リロードは間に合わない。
ジャンプしても組み付かれる。
絶体絶命のその時、秋葉原事変とは逆の状況。
「間に合った!餘目曹長!お待たせしました!」
高速輸送されていた訓練機と汎用機が
「うわぁぁぁあ!」
ジャンプの勢いそのまま声高らかにペダルを踏みつけ、ナイフを突き刺す。
しかしながらそれは空を切る。
再度試験機に組みつこうとする。
時間が無い、でも
バリアが切れる。どうする……どうする……。
私は咄嗟に叫んでいた。
「噛崎1曹!私を、投げてください!」
「そうくるとおもってたにゃ!」
そう言うと噛崎1曹は腱部からアンカーを地面に突き刺し機体を固定する。
私達はお互いのスティールワイヤーを撃ち合い絡ませる。
すると噛崎1曹じは片足のアンカーを外し、ハンマー投げの要領で訓練機を回し
踵を返したタイミングで巻き取り、なげつけるタイミングで緩める。
「いけ!ワイヤー
勢いをつけ、私は放たれる。
両手にナイフを持ち、機体を高速回転させながら
ビキッ。
音を立てコアは砕け、高温の蒸気で辺りを満たした。
今までの個体より若干大きかった。その分蒸気も密度が濃い。
徐々に晴れていく蒸気、その中心に訓練機と試験機は居た。
「3人共大丈夫~?」
「ケホっ、なんですかこの押しつぶされる感覚。」
「重力バリアに触れたのだろう、こっちはずっと潰されっぱなしだった。大丈夫ですか局長。」
「ぜぇ、だ、大丈夫。もう残ってない……?」
重力バリアは使用者にも、それに触れた者にも牙をむく。
そこに入る玄月2尉の声。
「スカイツリーから追加の感無し。ご苦労様でした。局長もご無事で何よりです。」
続ける兼坂砲雷長。
「新兵器受領を狙うとは、奴らにも少なからず意志があるな。」
私たちは安堵した。いつもの声に。
「遥、お疲れ様でした。あなたの勇気ある行動で私たちは生き残る事ができました。ありがとう。」
「やめてください局長。私は一度命を諦めてしまいました。」
それは餘目曹長にしてはあり得ないことだったのだ。
どんな小さな命も消さないと決めた。それなのに諦めてしまった。
でも希望をくれた。朝霞駐屯地にいた時と同じ。私に希望をくれた。
「さぁ、帰りましょう遥。始末書、忙しくなりますよ。」
「はい。御園生局長お供します。」
私たちは
――――――――――――――――――――
錦糸町地下格納庫。
新型兵装と試験機訓練機汎用機、旅客車両は地下格納庫へと帰ってきた。
ホイストクレーンで慎重におろされる。
対電波放送局は
整備課局員が集まってくる。
「餘目曹長お疲れ様でした。無線聞いてました。絶望からの脱却。お見事でした。」
やめてくれと言葉を投げる。
褒められたことではない。今回は城1曹と噛崎1曹がいなければ、いや御園生局長が居なければ、私はとうに諦めていたのだ。
「城1曹、噛崎1曹。助かった、ありがとう。」
「お役に立てて何よりです。」
「ボクはただぶん投げただけだけどね!」
「大体なんだあの無茶苦茶な動き。立体高機動出来ないから投げてもらうとは。」
あの場の勢いです。伝わってよかった。そう私はこぼした。
餘目曹長は部下の成長を心から喜んだ。
部下なんて縁のない物だと思っていたが今はいい部下を持つ事が出来た。
作戦が終わりまた報告書、多分また作戦である。
「夏休み無くなっちゃいますねこれじゃ。」
城1曹がこぼす。
ふふふと笑いながら御園生局長は格納庫を後にした。
「さぁ、新しい報告書作成だ、会議室に行くぞ。」
「了解です。マム。」
「結局何処も書類仕事か~。」
私たちは会議室へ向け歩き出した。
あの瞬間、確かに私の命が瞬いたのだ。
――――――――――――――――――――
城未来は具申した。
「学生として夏休みが欲しい。」
度重なる出撃。対電波放送局勤務により夏休みがお預けになっていた。
せめてもの休息。そこに御園生局長から女子会の誘いがあった。
次回、《閑話休題:夏休み》
眩しい夏。煌めけ私。
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