第4話:花は桜木、君は美し
今となれば名残惜しい、満開桜春高楼の花は散る。
葉桜となった墨田区錦糸町、都立錦糸中央高等学校の桜並木。
私達は今課業行進をしている。
あの日春を演じた花弁は、脆くも風に吹かれ散っていった。
後幾許か、残った命を懸命に咲かせていたのだろう。
桜から感じる命の息吹。それを感じながら今日も私は生きている。
怒涛と呼ばざるを得ない秋葉原事変から1日。
冷めやらぬ熱と興奮が私を支配していた。
あれが本当の、本物の戦い。一歩間違えれば待つのは死。
私達と
今度は暴走しないようにしなければならない。
橘教官にも、迷惑をかけてしまった。今日は謝らなければいけない。
校舎につきそれぞれの教室へ分かれていく。
エスカレーターを昇る。そこで話しかけられる。
「城さん。昨日はひとまず戦時特例として処理されましたが、課業と局の訓練両方こなさないといけないんですよね……?」
「そう、なるわね。ごめんなさい巻き込んでしまって。」
「良いんですよ!城さんとなら楽しめそうですし!」
この前向きさがとても助かる。沈みかけた心を持ち上げてくれる。
一般教養は教室へ、各科目訓練は私達は地下格納庫へ通い授業・訓練を受けている。
「おはよう。」
4ヶ月も経てば挨拶も出来るようになった。
ちょっとした小話ができる友達も増えた。
それでも一番の友達は鐘倉さんだ。
「私の城さんは他の子にお熱ですか〜」
拗ねてしまっている。
「はいはい、貴女が一番よ。そんな膨れっ面なんかしてないの。」
膨らんだ頬を両手で潰していく。
ぶーーーーっと息を噴き出し萎んでしまった。
「ぶーぶー。私には城さん以外友達居ないんですから!」
「貴女も少し友達作ったら?紹介しようか?」
「いいんです!私は城さん専属。それだけでいいんです!」
この3ヶ月でわかった。鐘倉さんは意外と頑固だ。
頭や体を洗う順番。主菜からは食べないこと。
何1つ取っても順序が決められている。
最初の方初めて2人で体を洗う時、頭から洗ってたら、体からです!体を清めて!って言われた気がする。
以来私は無視を貫いているが、隣に来るたびに怒られる。いいの私は頭から洗いたいの。
でも頑固故、私を第一に考えてくれる。
その間私は格納庫シミュレーターにて餘目曹長から直々に指導を受けている。
「今日は1日訓練ですね。特別時間割です。ホームルームが終われば局へ向かいましょう。」
「ええそうね。疲れる時間割だこと……。」
時間となり、担任の比良坂先生が入ってくる。
教壇に立ち話し始める。
「おはよう。今日は出向自衛隊の時間が取れる為1から6限まで実技訓練となる。いつもより長く時間が取れる分しっかり質問し覚え身につけるように。それから、入学して3ヶ月経った訳だ。学校の満足度を調査するアンケートを生徒手帳に送信するので明日期日で返信するように。以上。城、鐘倉は局へ行っていいぞ。」
はい、とマニュアルを持ち立ち上がる。教室を後にし1階エントランス大広間に向かう。
立ち入り禁止の札がかかる非常階段。チェーンをくぐり階段を降りていく。
「なんだか秘密基地感あっていいですね〜」
「貴女心は本当に子供ね。」
そうこうしているうちに地下格納庫へとたどり着く。
格納庫中央のベンチには既に餘目曹長がスタンバイしていた。
「ごめん、いくね。」
「はい、いってらっしゃいです!」
駆け足でベンチへ向かっていく。
「すみません。今来ました。」
「いやいいんだ。私も今来たところだ。」
局に配属になり、気にはなっていた。
学校で聞いていた話は、”唯一の実戦配備機”。
しかし、局で聞くにはその実”試験機”との事である。
聞くのは怖いが正直気になって仕方がなかった。
「あの、餘目曹長具申よろしいでしょうか?」
不思議そうに私の顔を覗き込む。
「そんなに畏まらなくてもいいぞ。局長じゃないんだ。……それで?どうした。」
「はい、その、学校では”実戦配備機”と聞いていましたが、曹長が乗るのは”試験機”。格納庫奥にあるのは予備の汎用機。何故試験機なのでしょう?」
疑問をぶつける。
ちょっと渋い顔をしだした。
え?やばい?聞いちゃいけなかった事かな?
そうしているとその口が開いた。
「えっとだな。私には通達されてないのだ。しかし英霊AIは搭載されている。実戦機で間違いないと思うのだが。すまない答えにならないな。」
驚い事に
「この際局長に聞いてみませんか?」
「それはまずい!局長はお忙しいお方だ、流石にそんな事聞けない。」
確かに局長に理事長兼任しているのだから忙しいだろう。
「呼んだかしら?うら若き乙女達。」
そこにはファイルを片手に持った局長が立っていた。
そうともなれば餘目曹長は焦りに焦っていた。
それだけ特別な存在なのだろうか?
「きょ、局長!?なななな、なぜこちらに!?」
「今日は1日局で訓練があると聞いてどんなもんか見に来たのよ。そしたら私の名前が聞こえたから聞いてみただけ。ほんとよ?」
こうなればもう私が聞いてしまおう。
「あの、局長。なぜ餘目曹長の機体は実戦配備機ではなく試験機なのでしょうか?」
答えはすぐに返ってきた。
「簡単なことよ。本当の実戦配備機である壱型は現在福岡重工で急ピッチで建造中。そのデータ採りのため英霊AIをインストールできるようにしたのが試験機。完成すれば乗り換えてもらうわよ。」
実戦機に変わりはないが、データ採り為の機体だったのか。
餘目曹長も驚いていた。自機なのに知らない事があった訳だしな。
では実戦弐型が私の機体になるかというとそうでもないらしい。
局に配属になって適性試験を受けた。私と合致する英霊があるか否かで。
結果は非。英霊は見つからなかった。
その為この後の作戦も汎用機と大差ない訓練機で臨むことになる。
英霊アシスト無しで戦う道を選ぶ。
「城さん、気にしなくていいんだよ。英霊が見つかるか局のみんなでテストした事あるけど、殆ど一致無しだったんだから。」
英霊側も人を選ぶわけか。
そんな何事もない会話をしている時だった。
無機質な格納庫、言うなれば全館に警報が鳴り響いた。
城未来からすれば局勤務以来初の警報である。
『ブー!ブー!ブー!』
その後全館放送で詳細が伝わってきた。
「アラート!東京スカイツリーより反応。日本テレビ系列にて放送事故。池袋エリアに
すかさず局長は手帳を使い発令所とコンタクトをとる。
「対電戦闘用意!
現場が慌ただしくなる。
メンテナンスをしていた整備課は作業を切り上げ発進に備え
私は呆気にとられていた。呆然と。
「城1曹!行くぞ!」
「え、あ、はい!今行きます!」
「私は発令所戻るね、頑張れ。」
局長は発令所に向かい走り出した。
餘目曹長も更衣室へ向かっていった。
後を追うように私も更衣室に向かう。
更衣室の扉を叩き開け、ロッカーに対峙する。
餘目曹長はスーツを脱ぎ、パイロットスーツを着始めた。
遅れるわけにはいかない、私も制服を脱ぎ、パイロットスーツに袖を通す。
採寸以来初めてのスーツ。着る機会がないほうが平和でいいことだが起きてしまった以上仕方がない。
最新の技術の粋を集めたパイロットスーツ。
腕には投薬の為のユニット。
四肢駆血。バイタルモニター機能。とてんこ盛り。
全て遠隔操作……発令所から操作可能となっている。
それだけ
急ぎ着替え格納庫へ戻る。
既にホイストクレーンにより試験機と訓練機は装備を施し、高速輸送車両に固定されていた。
なんだか試験機も訓練機も見た目がぶっくり太って見える。
近くにいた整備課がこちらに駆け寄り状況を伝えてきた。
「局長命令です。たった2人しか居ない大切な
アップリケを使用すれば、万が一接触されたとしても、アップリケが爆発、外装を吹き飛ばし本体を保護することが出来る。
これを2機分。相当お金がかかっている。局は最大限、全力で
ありがとう。そう整備課局員に伝え機体に乗り込む。
そこからは訓練ではまだ聞いていないやり取りが続いた。
「パイロット搭乗を確認。軍人手帳識別01-02-28-02餘目遥曹長、生徒手帳1-2-6城未来1曹。」
「輸送車両圧力正常。錦糸町より池袋各駅へ臨時特急通過案内開始。地上員はホームの乗客の避難を最優先。」
「秋葉原地区及び池袋地区の避難開始。現在29%完了。
そこに局長が割り込む。
「いい、2人共。最優先は一般人の避難、次いで貴女達の命そのものにあります。建物が破壊されようが街中の車が浸蝕されようが、避難が完了しているならば無理に戦う必要はありません。秋葉原から火力支援を行いますので着弾点に敵を集めるだけでも十分な活躍です。いいですか、もう一度言います。命は決して無駄にしないように。以上、その魂魄を賭すように。」
重たい、でも私達を案じて居る。
「「はい!」」
私は私の使命を全うしたと感じたあの時から生きる目的を失くしていた。
でも今はこの人達と。局員のみんなと一緒に居たいと思える。
そのみんなが支えてくれる。応えてみたい。
「発進駅錦糸町の避難完了。格納庫整備課局員退避確認。」
「池袋迄の進路クリア。秋葉原駅での線路切替も信号受信。You have control.」
そして餘目曹長が口を開く。
「I have control.行くぞ城1曹。高速輸送開始。」
ガキンと言う音が鳴り安全装置が外れる。その後すぐに加速が始まった。
秋葉原の時と同じ押しつぶされるような感覚。
錦糸町を超えどんどんと加速する。
目指すは遥か池袋。この到着までの時間がもどかしい。
秋葉原の時もそうだ。こうしている間に現地では刻一刻と戦況が変化している。
間に合ってほしい。
――――――――――――――――――――
「総武本線、秋葉原駅へ到着。試験機が線路切替に入ります。」
「線路降下開始。2番線首都環状山手線ホームに接続を開始。補助治具展開。線路回転。」
「試験機降下完了。次いで訓練機入ります。」
「線路再配置、訓練機は切替ポイントへ。」
「訓練機も切替完了。2番線ホームから池袋6番線ホームを目指し高速輸送再開。」
――――――――――――――――――――
過ぎし日を裏切る奴ら。
奴らは決して許せない。
例え仇を討てたとしても、人々の暮らしを脅かす事は許せない。
「
待ってて池袋のみんな。今行くからね。
脱線しないギリギリの速度を保ち線路を征く。
「
「秋葉原地区及び池袋地区、地上員による目視避難率98.9%。火力支援安全基準90%を超えました。」
そこに玄月2尉が無線に割り込む。
「兼坂!聞いたな、火力支援開始、秋葉原地区火力支援システム起動、CICへ
そこに応える兼坂砲雷長。
「了解した。CICシステム起動。東京スカイツリーよりパッシブ、アクティブにより感。トラックナンバー
秋葉原歩行者天国はその姿を変貌させる。
地面が開き中から多数のミサイル発射管。
サルボーの掛け声とともに炎を上げ空を切り裂く。秋葉原から池袋に向け地対空ミサイルが発射された。
「浸蝕短SAMの飛距離は約8000m、秋葉原から池袋迄訳6000m。距離は十分。」
対して最大速度はマッハ2.2。発射から目標まで約10秒かからないといったところだろうか。
高速輸送中の
間髪入れず装填後すぐに目標に向かい浸蝕短SAMは撃ち続けられる。
敵の分布は東口からサンシャイン60迄の道路に留まっている。
そうしている間に
「機体各部異常無し。兵装問題無し。行けます曹長!」
「よし。次が池袋だ気を抜くなよ!わかっていると思うが私がバックアップ、お前がオフェンスだ。私のスナイパーライフルで露出、
「了解です!」
やり取りをしている内に、2機は減速。池袋6番線ホームに到着した。
「
私達は架線を避けて立ち上がる。運ばれたのはホームの端。すぐに飛び降りられるように。
「
「
「「オン・エア!」」
バーニアを吹かせ高架から降り東口広場へと出る。
それは酷い有様だった。車を浸蝕したのだろう。そこら中に車が突っ込んでいた。
また浸蝕短SAMの性質。弾頭が炸裂し空間を自称ごと捻じ曲げる。それが表皮ごとコアを捻じ曲げ消失させる。当たれば強力な弾頭だが空間が捻じれる以上、
一方で私たちが使えるのは頭部チェーンガン・高周波ナイフ・50mmリコイルライフル
事変として処理した地点は地上員からなる
それぞれにメリットデメリットがありうまく使い分ける必要がある。
『アラート!142度。逃げ遅れた避難者を確認。』
なに!?まずい、すぐに指定された方角に向き直る。
あろうことか
「餘目曹長!バックアップ願います!高周波ナイフで切り裂きます!」
「よし、任せろ!」
オープン回線で呼びかける。
「そこの避難途中の人!急いで耳を塞いでください!鼓膜が破れます!」
すぐさま両耳を手で塞ぐ。
それを合図に、餘目曹長のスナイパーライフルが表皮を貫いた。
続けざまナイフを露出したコアに突き刺し振動させる。
キィィィィィィイイイイイイン!
近くの建物の硝子が悉く割れて居く。
コアが、ピキっと音を立てて割れた。
すぐさま振り返り両手で避難者を隠すように覆う。
高温の蒸気が発生し蒸発し始めた。
避難者に当たれば火傷では済まないだろう。
蒸発が終わり、蒸気が散り切ったころ手を開く。
避難者は身を丸くして震えていた。
「もう大丈夫ですよ!無事ですか?」
避難者は顔を上げ頭を下げた。
「すぐ避難誘導してくれる局員が来ます!私がついているのでご安心を!」
何度も何度も頭を下げられる。少し照れてくる。
そこに無線を聞いた地上員が到着。避難者を支えシェルターに向かっていった。
「いい判断だ、城1曹。そうして人を助ける事が私達の本当の目的だ。殲滅は完全に安全が確認されなければ二次災害に繋がる。」
「そこで朗報だ。」
無線からは戦術作戦課玄月2尉の声。
「池袋地区の避難が完了したとの報告が入った。サンシャイン60に向けて掃討作戦を開始する。初めに浸蝕短SAMであらかた消し飛ばす。残った個体の処理を頼む。」
了解と無線を送り踵を返す。
サンシャイン60通り商店街に入る。
残敵がそこら中に浮いている。
この通りは避難が最後まで終わらずに浸蝕短SAMが撃てずにいたからだ。
「曹長、浸蝕短SAMの爆撃を待って手前から順に排除します!さっきと同じ援護をお願いします!
「いいだろう、力を貸せ《シモ・ヘイヘ》。」
試験機のエネルギーラインが赤く光り始める。
「CIC、目標密集地にレーザー誘導を行います!浸蝕短SAMお願いします!」
リコイルライフル銃口下部のレーザーサイトから
レーザー誘導は当たったレーザーが反射した個所を目標としてミサイルが飛び込んでるシステムだ。
「現地からレーザー座標来ました。35度72分ノース、139度71分イースト!」
「斉掃射!浸蝕短SAM
瞬く間にミサイルは池袋に到着する。
密集陣形を取っている
複数個のコアが同時に割れた為、強力な蒸気が発せられる。
メインモニターは煙しか映らない。
「AI、サーモカメラ。」
『了解、サーモカメラ。』
機体の目が白から緑に切り替わる。
コックピット内はサーモを示す緑1色。その中にぽつりぽつりと赤い光点が見える。
生き残った
「城1曹。少し下がれ。サーモで見える光点にスナイパーライフルで牽制をしかけてみる。飛び出してくる可能性がある、フォワードを頼む。」
「了解しました。」
餘目曹長はスナイパーライフルを構える。
脚の腱部からアンカー両脚2本ずつ飛び出し機体を地面に固定させる。
メインモニターではターゲットサイトが2つ歪に動きながら重なっていく。
そして重なった瞬間、一筋の閃光が蒸気を切り裂くように撃ち放たれた。
光点が欠けた。コアに直撃したか表皮を貫いたのだろう。
続けざまに見える範囲の光点にスナイパーライフルで攻撃を仕掛ける。
敵が気づいた
「城1曹!」
「アイアイマム!兵装選択
やはりスナイパーライフルで、コアは露出していた。
見えるコアに射撃を加え割り砕く。
突進の勢いそのまま蒸気が機体を飲み込んでいく。
蜂の巣を突っついたように湧いてでてくる。
餘目曹長と私で役割を分担し殲滅をしていく。
しかし一筋縄では行かない。それが戦場。
『アラート!右2度、上116度。強襲。』
上か!
餘目曹長はアンカーを刺してるためすぐには動けない。
ならば!
バーニア併用のジャンプで10m程飛び上がる。
そこからスティールワイヤーを伸ばし敵に巻き付ける。
そうして動きを封じ、地面に向かい叩きつける。
咄嗟に行ったとはいえかなり練度のある動きである。
そのまま上空の敵を掴んでは叩きつけを繰り返す。
ある程度敵を減らしたら
「やるな、城1曹。咄嗟ではあるが中々良い動きだった。助かった。」
「意外とやれるもんですね。慢心はしませんが。」
サンシャイン60通り商店街は未だ
各個撃破は効率が悪い上に密集している為、再びレーザー誘導にて殲滅を試みる。
「修正諸元来ました!
「次弾装填完了!
再び音速で秋葉原より飛来する浸蝕短SAM。
見る見るうちに通りの個体を捻じ曲げていく。
またまた飛び出してくる雑魚処理。Pawn型のみで助かった。
「これでKnightやBishopが居れば2人での対応は難しかっただろうな。」
対象を撃ち貫きながら答える。
「ですが今後出ないとも限りません。拡充計画はあるのでしょうか?」
さあなと曹長。
弾を撃ちきり。通りに敵対象が居ないことを確認する。
私はその報告を上げ、追加が居ないか探してもらうことにする。
「錦糸町中央発令所。城です。目視にて敵対象を確認できません。ソナーの感をお願いします。」
「よくやったね。2人共。スカイツリー、パッシブ・アクティブ共に追加の感無し。事変終息です。」
兼坂砲雷長の言葉に安堵する。
続けて玄月2尉。
「錦糸町行きの輸送準備が出来ている。東側広場から高架に登り、輸送車両にドッキングを頼む。」
「了解しました。行きましょう曹長。」
「ああ、流石に疲れたな。」
私達は池袋駅へと走り出した。
現地では既に
池袋駅高架へ登ろうとしたその時である。
「局長!スカイツリーにパッシブ!Bishop型突発的に出現、総数1!内部に高エネルギー反応!何かの発射準備、完了の模様!退避を!」
「曹長!間に合いません!」
それでも冷静で居なければいけないのが戦術作戦課。
「
私達は目一杯ラダーペダルを踏み込み、跳躍をする。
腕は血飛沫のようにオイルを撒き散らしながら宙を舞う。
「来ます!」
観測員の言葉通りの事態が起きた。
切り離した腕が、跳躍し射線をずらしたが間に合わなかった脚が、
「状況は!?放たれた物の正体は!?」
「分かりません!指向性の何かである事しか!」
発令所も惨事である。突如現れた1体の敵。
そして穿たれた何か。
その解析究明を急務としている。
局長は思考を廻らす。
「ふうむ。あの溶け方、目には見えない、指向性のマイクロウェーブか何かだろうね。」
脚を溶かされた私達は激しい衝撃と共に地面に叩きつけられた。
反動でパイロットスーツの頭部保護クッションが飛び出す。
「ま、まずいです!2射目来ます!高エネルギー反応再び!」
マズった。脚がなければ走れない。
バーニアだけではカエルのようにぴょこぴょこするのが限界である。
「兼坂!煙幕弾は!」
「間に合うわけなかろう!」
死を覚悟したその時、Bishop型が傾いた。そして振動が機体を襲う。
正確には何か外的要因にて傾いた。
かすかに見えたあれは突き刺さった高周波ナイフ。
倒れたBishop型。そこには陸上自衛隊所属と思しき汎用機が立って居た。
「私だ。御園生だ。2人どちらでもいい。
「私がやろう。……聞こえるか。こちらは対電波放送局所属
すぐさま答えが返ってきた。
「そっちは無事なの~?ボクは陸上自衛隊練馬駐屯地第1
局長が無線に入り込んでくる。
「私は対電波放送局局長御園生詩葉です。噛崎1曹、我等の
了解と無線を取り合う。
私達は投げ出されたコックピットブロック内でようやく安堵の息をつく事が出来た。
それにしても高周波ナイフを振動ありで投擲した。それも正確に軌道を逸らすコースに。
ただの隊員じゃない。きっと何かに精通している。
暫くすると練馬駐屯地の機体が寄ってきた。
コックピットブロックを持ち上げられ、池袋駅のホームへ運ばれる。
「練馬駐屯地の、噛崎君と言ったかな?ありがとう。助かった。私は対電波放送局戦術作戦課、玄月2等陸尉だ。プラットホームの高さにまでジャッキアップされた高速輸送鉄道が停まっているだろう。そこにコックピットブロックを固定して欲しい。」
「うん、了解だよ。……ここに、これを、こう。1台に乗せ切っちゃったけどいいよね?」
「重畳だ。助かる。では駅から離れてくれ。輸送を開始する。」
はいよーと無線が聞こえた。
その後は錦糸町に向け、まずは切替ポイントの秋葉原駅を目指し高速輸送が開始される。
「池袋から首都環状山手線、次いで秋葉原から首都横断総武線各駅へ臨時特急通過案内開始、各駅ホームへ地上員を派遣。乗客の退避を急がせます。」
避難警報が鳴ったから、それに行きの鉄道輸送の際に勧告しているからホームに残っている人はいないだろう。
それでも被害があってはいけない。だからこそ細心の注意で再確認をする。
トロイメライ管理の人型装機は輸送された。残った練馬駐屯地第1人型装機には、駐屯地経由でトロイメライから無線が入っていた。
「噛崎熾織1曹。先ほど貴女が見せた高周波ナイフの投擲。しかも振動あり。かつコアを刺し貫いた。何かに精通していませんか?例えばそう、格闘術とか。」
局長の無線は私たちの機体のも聞こえていた。意味があって聴かせているんだろう。
「ん〜、隠してるつもりはないよ?そうだな。”剣術”に精通しているが正しいかな〜。」
「そうですか、では改めて。流派は何になりますか?」
ここで沈黙が訪れる。
なんだ、一体なぜ黙るんだ。……殺人剣?だからなのか?
そうして思考を巡らすうちに沈黙は破られた。
「上官……にあたるんだよね。じゃあ逆らえないか。居心地悪くなるなぁ。実は剣道が強いからって気にはされていたんだ。才能か、努力かって。……答えるね。流派は”二天一流”かの宮本武蔵が遺した剣だ。ボクの実家の道場はそれを引き継いだ宗家なんだよ。ボクは物心ついた頃から剣一筋。二筋の剣を持って稽古していたんだ。」
「噛崎!お前稽古の時手を抜いてたのか?全部受け流して、逃げるのが上手いなとは思っていたが、下に見てたのか?」
「まさか、手心を加えられるとは思ってなかったよ。失望だ。」
口々に不満が爆発する。
だよね、そうだよね。
そう泣きながら答える声が悲痛に突き刺さる。
「城1曹。何も言うなよ。黙って見ていろ。」
私はその言葉がなければ大声で怒り散らかして居たのかもしれない。
餘目曹長に言われるまま、腸が煮えくり返る思いで事態を見守る。
しかし”私達”の上官。御園生局長はだまっていなかった。
「噛崎1等陸曹。本日付で貴女を対電波放送局員扱いとする辞令を練馬駐屯地に提出します。貴女の剣を快く思わない者とは違う。貴女を腕を頼りにする仲間が居る私達の局へいらっしゃい。練馬駐屯地第1人型装機連隊に告げます。援護は感謝致しますが、ここから先の後片付けは局の
「…………了解しました。総員撤収。噛崎1等陸曹の件に関しては帰投後駐屯地司令の命令を待つぞ。行動開始。噛崎も正式な辞令が出るまで基地待機だ、帰るぞ。」
丸く収まった……?のかな。
連隊小隊長は局長に異を唱える事無く命令に従い駐屯地へ引き返した。
「命令に従って頂き感謝します。噛崎さん。帰ったらすぐ荷物纏めるのよ。辞令はすぐ飛ばすから。貴女の戦い方はとても美しかった。貴女の剣の練習によるものでしょう。あとは散るだけ花とは違う。貴女はこれからも強くある事でしょう。では、これで通信は終わりにします。」
「あの……ありがとう。ボクなんかのために。頑張る。一生懸命頑張るよ。ボクの剣が必要とされる限り。」
そうして通信は切れた。
ほっとした。あれ以上は悪くならないだろう。
私は鉄道輸送に揺られながら安堵した。
国の防衛組織たる者が、1人の女性自衛官に向かってあそこ迄言い放つのか。
最後なんか泣いてたじゃないか。可哀そうに。
「2人共聞いていたわね?」
局長から通信が入る。
「今日付けで貴方達
階級下げてくださいなんて言えるはずもなく。ただ、はいとうなずいた。
此処は首都環状山手線。差し掛かるは間もなく秋葉原。線路切替そして錦糸町へ向け再度走り出す。
――――――――――――――――――――
錦糸町地下格納庫。
脚部が損失している為、ホイストクレーンにて輸送車より降ろされる。
外部からハッチ開放コードが入力され私達はコックピットの外に出た。
外では泣き出した鐘倉さん達整備課局員の他、玄月2尉、兼坂砲雷長、そして局長迄が待っていた。
その局長はと言うと、並んで立つ私達に向かい走ってきたと思えば抱き着き、泣きながら何かを言っていた。
「よかったよ2人共。噛崎さん居なかったらコックピットブロックごとやられるんじゃないっかってすごい心配だったんだよ。無事でよかった。本当に。」
「曹長、良かったですね。」
「お前もな、1曹。」
「ぐすくさ〜ん……よがった〜!」
感情大爆発の鐘倉さんも抱きついてくる。
「まてまて!涙!鼻水!ちょっと!」
嬉しさは伝わってくるが、全くこの子はもう。
感動の再会は十分堪能した。
「ごめんね鐘倉さん、機体壊しちゃった。」
「大丈夫ですよ!ワンオフ機じゃないので部品に換えがききます!次の出撃までには必ず直します!」
よかった、修復不可じゃなくて。
壊した時申し訳なさが押し勝っていた。
泣き止んだ局長も落ち着き冷静になってきた。
「え〜っと、えへ?」
なにがだろうか。何も伝わらない。
「それじゃあ解散しましょう、2人は作戦報告書の作成お願いね。」
急にそんなに冷静にならなくったって。
「城1曹は初めての作成だろう。さぁ行くぞ、まずは着替えだ。」
「りょ、了解しました!鐘倉さん後お願い!」
いってらっしゃいと手を振り見送られる。
更衣室でパイロットスーツを脱ぎ制服に着替える。
ふと隣の曹長を見る。
脱いだ瞬間すごい筋肉。
めちゃくちゃな鍛錬を積んできたんだなと感じられる。
「ん?なんだ、何かついているか?」
「あ、いえいえ違います。」
リボンを締め曹長の着替えを待つ。
「ではいくぞ、会議室だ。」
「了解です。」
そうして私達は更衣室を後にした。
会議室へ向かい、作戦報告書を作成する。
そんな中手帳がコールされる。餘目曹長の手帳だ。
「はい、餘目です。……ああ、そんな事仰っていましたね。了解しました。城を連れて迎えに行きます。はい、錦糸高校の校門ですね?わかりました、発令所にお連れします。では、失礼します。」
電話を切りこちらを見る。
「城1曹、ちょっとした任務だ、付き合ってほしい。」
餘目曹長から付き合ってほしいなんて珍しいが、局長からだろうか。
「構いませんが、何の用でした?」
「任務中……と言っても帰りだが、聞こえていただろう。練馬駐屯地から来る新しい
ああ、そんな事言っていたな。たしか、えっと、噛崎1等陸曹だったか。
歓迎してあげないと、あんなに邪険にされて最後はつらかったろうな。
餘目曹長に続き格納庫にある非常階段を上る。
出るのは立ち入り禁止と書かれた錦糸中央高等学校のエントランスだ。
そこから校門に向かい並木道を歩く。
キャリーケースを引いた少女が守衛所で待っていた。
あれ、すごく若く見える。うえになんだあの制服。フリル?いやでも1人しかいないし間違いないだろう。
向こうはこちらに気づき歩み寄ってきた。
「えっと、ボクは噛崎熾織1等陸曹だよ。対電波放送局からの辞令、練馬駐屯地司令の命で此方に赴任しました。その、よろしく。」
「私は餘目遥曹長だ。本日の池袋における作戦行動での援助感謝する。無線ではなくしっかりと伝えられてよかった。紹介する。城未来1等陸曹だ。我々2名があの時池袋地区で避難援護を行っていた。」
「そっか、ちゃんと無事だったんだね、よろしく。」
私は気になる事を聞いてみる事にした。
「その噛崎1曹の服装は、えっとどういった事でしょうか。」
「やっぱダメかな。ボク可愛いものが好きで、放送局では制服は絶対じゃないって言われたから着てきたんだけど。にゃはは、剣士ともあろうものがなんてもの着てんだだよねぇ……。」
私は、私の心はそれを非だと思ってはいなかった。
口から出たのは心の声だ。
「いいんじゃないでしょうか?剣士だと可愛いのだめなんですか?好きならそれが一番だと思います。私は好きですよ。甘ロリとかゴスロリとか似合わないけど好きです。それを着こなしている噛崎1曹はある意味尊敬します。私は勇気が無くて、機会もありませんし。」
「城……1曹……。えっと、ありがとう。えへへ、嬉しいな。家族含めて認めてもらったことが無いから初めて肯定してもらえた。あったかいな、放送局は。」
よかった、間違えずに言えた。そうだ、何が好きでも個性じゃないか。きっと局長なら喜んで認めてくれる。規律には厳しくても、個を大切にしてくれる。だから私も学生服のまま勤務させてもらえている。鐘倉さんに至ってはブレザー未着用。すぐ作業着になるためだそうだ。
「じゃあ行きましょうか曹長。きっと局長待ってます。」
「おっとそうだな、こちらだ案内する。」
そうして私達は来た道を戻り、館内の廊下を進む。
第1中央発令所へとたどり着く。
「いらっしゃい噛崎さん。私がここ対電波放送局トロイメライ局長御園生詩葉です。今日はありがとね。」
「じ、辞令に従い赴任いたしました!噛崎熾織1等陸曹です。よろしくお願いします。」
局長は気付く。そしてこう告げる。
「あら可愛いじゃない。どうなってるのこのフリル?自分で付けたの?それにそんな堅苦しくなくていいんだよ、今は戦闘時じゃないしゆるーくね。じゃあセクション長紹介するね。おいで。」
私達は笑顔で手を振った。
「おんなじ操縦課だからあとで会えるよ。じゃあいったんお別れ。またあとでね。」
「あの!城1曹!ほんとありがとう!ボク、すごく嬉しかったよ!」
なになにと局長が噛崎1曹に詰め寄っていた。
苦笑いでにゃははなんていって誤魔化している。
「懐かれたな。お前。」
「曹長こそもう少し愛想良くしたらいいんじゃないですか?」
「な……なにをー!?」
私は笑いながら廊下を駆け抜け、会議室へと戻った。
本職の自衛官の体力オバケに途中捕まり謝りながらそれでも2人で笑いながら。
3人に増えた
新しいお友達が増えた、そんな1日だった。
――――――――――――――――――――
間髪入れずに迫り来る
休息の時は未だ訪れない。
対して、局は新兵器開発に乗り切っていた。
完成した新兵器を空輸、東京国際空港へと受領へ向かうことになった。
次回、《その瞬間、命、瞬く》
私の生命は、確かにあの時拍動した。
「諦めるのは早くってよ?」
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