拝啓 親愛なるあなたへ

羽入 満月

舞い込んだ手紙

 ある日、いつものように仕事から帰ってくるとポストなかに一通の手紙が入っていた。

 なんの変哲もない茶封筒だ。

 しかしなにか違和感があり封筒の宛名をよくみると、書かれていた宛名の名字が旧姓だった。


 つまり差出人は結婚前の私を知っている人で、結婚を知らない人だ。

 そんなことを思いながら部屋に入り、明かりをつける。夫はまだ帰ってきていない。

 夫婦揃って教師という仕事についている以上これが普通だ。

 偶々今日は、早くに学校をでることができた。

 小学校の先生は、全科目教えなくてはいけないので大変なのだ。

 早くに帰れた日ぐらいゆっくりしようと思っていたのに、奇妙な手紙が舞い込んできたものだ。


 カバンをテーブルにおき早速封を開ける。

 中には紙が一枚。

 パソコンで打ち出された字が並んでいた。


「鈴木先生へ

 お久しぶりです。お元気ですか?

 先生は覚えていないかもしれませんが、先生のクラスでお世話になりました。

 今、私は趣味で小説を書いています。

 もしよろしければ読んでいただいて、感想をください。

 図々しいお願いだとは思いますが、お願いいたします。」


 手紙の最後にはURLがのせられていた。


  私が受け持った児童からの手紙?

 でも何時の児童かわからないし、差出人も書いていない。


 どこからどうみても怪しい。

 このサイトにいったら最後、詐欺にでも合うのでは?とも思ったが、URLに入っている言葉をスマホで検索すると結構大きな小説投稿サイトだということがわかった。

 ならばと手紙のサイトにいってみると、そこにはいじめを題材にした小説が載せられていた。


 ざっと目を通した。

  文章としてはあまり上手ではないが、かかれた内容はリアリティーがある。

 というか、親近感がある。

 なぜだか字を追えば追うほどその場面が目の前に広がっていく。


 暫く考えた時思い出した。

 そういえば、若い頃そんなことをしたことがある、ような気がする。

 恥ずかしい黒歴史だ。カッとなってあんなことをするなんて。


 じゃあこの小説をかいたのは、あの子?

 話の結末として主人公は自殺をするが、あの子がなくなったという話は聞いていない。

 生きていると思われるから、この話はフィクション?


 頭のなかを「?」がたくさん飛び交う。

 今さら何故こんな手紙や小説を?

 私になにをさせたいの?

 感想を求められているが、どんな返事をもとめているの?


 焦る私を見て、記憶の中の彼女が笑った。

 私は彼女の笑った顔を私と彼女の在籍が被った三年間で一回も見たことがないはずなのに。


 考える私を追い詰めるかのように封筒の中からもう一枚、小さな便箋がはらりと落ちた。

 それに何気なく目を移し、私の時は止まった。


 教師として、人間として、成長したつもりだったが、そんな幻想はペラペラの紙一枚に打ち砕かれてゆく。


 『 お前は、一人の子どもの心を殺した 』



 それを伝えるために、送られてきた手紙。


 復讐はこれで終わったのか?それとも、始まったばかりなのか。

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