第34話 pet

黒服の車に乗って、移動をしていると、時々腹から生えたバケモノがうごめき、服の中でモゴモゴと暴れることがあった。


そして、時にそれは服を突き破り、助手席に座った俺の前にあるダッシュボードを齧り、噛みちぎってバリバリと噛んだりした。


俺は「おいおい、こいつどうかしてるぜ。」とつぶやいて、持参していたバッグに入っているバナナを与えたらしばらく大人しくなったが、無尽蔵な食い意地はとどまることをしらず、ほんの数分でまた暴れるようになった。


一度車をサービスエリアに止めて、黒服と北村に買い物に行ってもらった。このままでは一般人に迷惑をかけかねない。そして、もしかしてという心当たりがあり、リナに手伝ってもらうことにした。


「リナ、こいつを撫でてやってくれないか。お前なら大人しくなる気がするんだ。根拠はないが、なぜか自信というか、確信がある。頼む。」と俺は言って、懇願した。


実際に、リナを前にすると腹にいる猛獣はほんの少し従順になった気がする。それで俺はより確信を強くした。


「しょうがないわね。馬鹿見たいだけど、真剣みたいだし、やってみるわ。」と言って、俺は北村の車に乗り、リナに腹を撫でさせた。


それまでガバガバと口を開き、バックミラーやサイドミラーまで食べようと暴れ散らしていたその腹の虫は、静かになり、むしろ俺の腹は元の平坦な姿に戻って、その面影を戻していた。


そこに、北村と黒服が帰ってきた。手には、おにぎりやスナック菓子を沢山持っていた。運転席と助手席に座りなにやらしていた俺たちを見て、北村が何を勘違いしたのか咆哮した。「あ!あなたたち!そんないやらしことして!もしかしてその口実に私たちを買い物にいかせたの!?」と。


「いやいやいやいやいやいや!違う違う!」と俺は即座に訂正した。なにせ、全くのお門違いで、ドエライ勘違いをされたからである。


「おおお俺は、彼女が腹のモンスターを手なずけられるんじゃないかと思って頼んだだけだよ!馬鹿言うな!」と咄嗟に口が滑った。


すると、様子を楽しむようにリナが言う。「違うわ。彼が私に変なことさせようとしたのよ。断ろうとしたら、殴るとか言って。」と調子に乗っている。


「やめろ!いま真剣な話をしているんだ!おれこういう誤解が一番嫌いなんだ!やめろ!」と言って、俺が本気で切れたら、さすがにリナが狼狽したのかしかし笑顔を絶やさずに言った。


「アハハバカみたい。嘘嘘。わたしが撫でたら腹の虫ちゃんが大人しくなったから撫でたのよ。他意はないわ。」と彼女は説明した。


「ほんとかなア。」と北村は言い、むくれている。俺は逃げるように、「馬鹿にすんなお芋女子め。」と聞こえないように能弁を垂れながら黒服の車に戻った。


二人が何をその後話したかはわからないが、とにかく、リナが撫でたことによってなのか、その後は腹の虫ちゃんは大人しかった。

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