第31話 Bulldozer

俺たちが、勢い込んでモーテルを飛び出したところ、先頭に立っていた俺は何者かによって弾き飛ばされた。


「ぐうううっ!」と思わず声が漏れる。まるでコンクリートの塊のような物体が俺に向かって飛んできて、ほとんど止まることなく追突してきた。意識が混濁し、目の前が真っ白になる。


「茂木ーーー!!」遠くでリナや黒服、北村の悲鳴や心配する声が聞こえる。


「クッソ…。」俺は命からがら立ち上がり、身震いして身体にまとわりついた粉塵を振り払った。幸い、吹き飛ばされる瞬間に「う」と言う文字を発していたために、パワードボディに変身していたので大けがは免れたが、病み上がりであることも関係があるのか、かなり痛みが強かった。まだ、俺の身体はアドレナリンが爆発していないようだ。


見ると、重機のような図体をした魔物がリナを拉致しようと彼女の腕を引っ掴んでいる。しかし、リナは俺の知りえなかった能力である泡のような衣服型のバリアを纏い、ツルツル滑らせることによって牽引を回避している。


「なんと姑息な!貴様それでも淫魔の端くれか!この腐れ外道が!」と重機の魔物は怒り、ノドチンコが見えそうな勢いで罵声を浴びせている。


俺は、「待てい!」と歌舞伎役者のように見栄をはりながら幕末の志士のような威勢の良い声を発して敵をけん制した。のみならず、俺はこの「待て」というワードによってソニックブームを噴出させることができるので、使った。


敵の硬質なボディにはその攻撃は微塵も響かなかったが、挑発にはなったようだった。そいつはよそ見をしていたので攻撃をまともに受け、首が明日の方向に向いてしまった。しかし、命に別状はないようだった。


「地球人ごときが横柄な。我に逆らったこと後悔させてやる!」とそいつは叫び、再びボディアタックを食らわせようとその豊満な巨体で突進してきた。見かけによらず、スピードがある。まさに、重機と言った感じ。


「ドカーン」と爆音のような音がして、俺と淫魔が取っ組み合った。もちろん、俺は「うおおお!」と何度も言って、自身の体格が相手に相当するようにマッスルモードを維持した。


そして、時々「来い!」と言って(来いというと、身体の一部から武器を生じることができ、五分五分の割合で武器を自由にコントロールできたりできなかったりする。今回は、できたようだ。)、胸に砲門を呼び覚まし、大砲を撃った。


至近距離からの攻撃で、幾らなんぼの重機女でも怯むかと思ったが、効かなかった。そいつは、「馬鹿な。そんなことが効くと思うか!」と嘲り、さらに押し込みを利かせて来た。


俺は、「ふぬおおおお!!!」と言いながらマッスルモードで耐えたが、さすがに相手が悪かった。俺は、黒服に、「ぼさっとしてねえでなんか寄越せ!」と叫び、彼が気にしているらしい俺の身体への負担への心配を拭い去るかのように強く呼びつけた。


「ああすまん!えっと…。こいつでどうだ!」と彼は注射器を投げてよこした。


「ぶすり」と生々しい音がして注射器が俺の延髄に突き刺さる。首の後ろのあたり周辺がヒンヤリとして心地がよい。身体が痛みよりも快感を感じるように学習をしたらしいことがわかる。


俺はとっさに叫んだ。「フラッシュ!」と。一回言ってみたかったというか、ビビッと来たのだ。これを言えば、新しい攻撃ができると、閃いた感覚だった。


俺の取っ組み合っている腕には、重みが消えた。それは、敵が押し返す力を失ったからだった。なぜかというと、敵が瞬時にしてこと切れ、雲散霧消したからである。


「今のなんだ!?やべええ!何が起こったんだ!?」と俺は驚いてつぶやいた。


「しまった…。間違えた。」と黒服は言っている。どうやら、チート級のワクチンを投与したのか、戸惑いを隠せない様子である。


「あのー。あれだ。敵を消せるやつ…。…だ。」と彼は申し訳なさそうに言った。それは、別に俺に遠慮して言う事ではなく、どちらかと言うと、物語の序盤からはやく出せよと言いたくはなるが、特段恐れて言う事でないと俺は思った。


「消せるやつってなんだよ?」と俺が聴くと、彼は後ろ頭を掻きながら答える。「あのー。手に触れているものがあるときに、特定の言葉を発すると、相手が消滅するっていう、能力さ。」と。


「いいじゃん。早く欲しかったけど。強くて助かるぜ。」と俺は極めて明るく言った。彼が何か気にして言うのを遠慮していることがありそうだからだ。少しでも、それを言わせようと、後ろめたい気持ちをほぐそうと、俺は勤めた。


ついに彼は言った。「それさ。でも、敵が死ぬわけじゃないんだよね。どこか別の空間に、ワープさせるだけ…。なんだわ。」と。なんだ、そんなことか。え…?


「うそだろ!?」と俺は頭の中で合点が行ったので言った。とういうことは、俺を狙って来たかもしれないあいつは、まだ生きているということか。これでは課題の先延ばしに過ぎない!俺の手に負えなかったら転送。メンドクサイから転送。では、俺をまた見つけるまでそいつらは悪事を働くことになる。いやー。大失態。参ったなこりゃ。


「というわけで、あのタンク女を探しに行くぞ。どっかでもうすでにえらいことになっているはずだ。」と黒服は言った。


俺たちは、さっそく車に乗り、発進した。ラジオのニュース番組に耳を傾けながら。

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