第27話 ennui

先に翼竜君がシャワールームに入った。俺はどうしていたらいいかわからない童貞モードが発動し、ソワソワしていた。


俺の口が勝手に喋っていたのは、こんな言葉だった。身も蓋もない。「あのー。ちょっと、セクシー過ぎないか?」と。


「仕方ないじゃない。あの種族に生まれたら、私が意図する意図しないにかかわらず、男を誘っちゃうんだから。そう見えても、仕方ないかもね。」と彼女は言った。


みるからにアンニュイである。そのベッドでゴロゴロする姿や、これからを憂いて少し険しい表情で宙を眺める姿。そのどれをとっても、男心をくすぐることこの上ない、どうしようもなく男を誘うフェロモンを纏っていた。


「あい、お待たせー。」と翼竜君がシャワールームから出て来た。


「おいおい、茂木、立ってんじゃねえかあ?」と彼は言って俺を茶化して見せた。股間を爪弾きにしようと俺に手を差し伸べて突進してくるので、俺は「やめろ馬鹿にするな。俺は、彼女たちを守るんだから、そんな場合じゃないだろ。」と言いながら、寝技をかけて、関節を極めた。バスローブ姿の彼は、体勢を崩され、筋肉隆々とした胸がはだけている。


「いっててててて!わかたからやめろ!冗談だろうが!」と彼は言った。俺は、すぐ手を放し、シャワールームに入った。


シャワーを浴びていると、ものすごい音がした。「ドガーーーーン!」


俺は急いでバスローブを着て外に出た。部屋は倒壊し、両腕と口とからレーザーナイフのようなものが飛び出した魔物が現れた。そして、ソイツは言う、「その娘をウチらに渡しな!」と。来た。淫魔だ。


翼竜君は、その敵の足元に飛び込み、究極的な低空飛行でもって、外に連れ出した。俺は、「痛い!」と叫んで背中からブーストを噴出し、それに追いついた。


翼竜君は幸いうろこ状の皮膚を持っており、非常に硬質な肌をしているので、敵が今しがた手を離させようとレーザーナイフで切り刻もうとして来ても、ビクともしないが、やがてレーザーが熱かったのか、手を離した。充分にモーテルからは距離がある。海岸の砂浜に二人は落ちた。俺はそれに後から不時着するように間に合った。


敵のナイフが切れないとなると、若干手が長い状態で徒手で戦うようなものだ。おそらくどこかで鍛えて来たであろう翼竜君も徒手で応戦し、両者譲らぬK-1のようなバトルとなっていた。


しかし、ここは試合ではない。どうにかして相手を倒さなければいけない。自分たちがやられるわけにはいかない。なので、俺は後ろから加勢しようと「うううう!」と言いながら突っ込んでいった。


俺は「ううう!」と言うと身体がゴリゴリマッチョになり、人間大という小さめのハルクのようになる。俺はその状態で、殴り掛かったが、ハルクのようにはパンチで相手をぶっ飛ばすことはできなかった。敵は、俺のパンチを受けて、怯みもせず、むしろ背中からレーザーブレードを出してきたので、あわや肌が丈夫でない俺は五体不満足になるところであった。


俺は急遽「来い!」と言って、身体から合金チタン製とカーボンファイバーを融合させた特殊な鎧を発動させた。俺は、来い!というと、時々意図的に思った武器を生み出すことができるが、今回は意図通りに出てよかった。意図通りに行かなかったら、レーザーに打ち勝つ武器はなかなか出ないだろう。


合金チタンとカーボンファイバーでできた特殊な鎧は重いが、ミニハルク状態の俺にとっては耐えられる重さだったし、相手のレーザーナイフでも切れない。幸いだ。


俺は、レーザーナイフの横っ腹を殴って、叩き折り、背中の武器の危険性を回避した後で、首をチョークした。


「うううううううううう!」と俺はさらに叫んで、筋肉の増強をはかる。いくら力の強い敵でも回避できない筋肉量にするためだ。


暴れながらも、やがて、「がはっ!」と敵は嗚咽をもらし、俺の強烈なバックハグに抵抗できなくなっていく。バキバキボキボキと敵の肋骨や脊柱が折れていく音がする。


「おいおい、ちょっとやりすぎだろう。」と言わんばかりに少し翼竜君が苦い困ったような表情を浮かべているのも気にせぬままに、やがて敵の力が抜けるのを感じたので、俺は敵を離した。すると、すっかり敵は力尽きていた。


俺は、力を使いすぎたのか、ガックリときた。俺は膝から崩れ落ち、座り込んでしまった。筋肉は元の細身の俺に戻り、むしろ前よりもさらに細くなろうとしている。おそらく、能力の過使用による、副作用だ。心臓がバクバクする。


「翼竜君はリナのところへ。安全を確認するんだ。」とだけ言って、俺は地面に突っ伏した。遠いところで、「大丈夫か!無事に帰って来いよ!」とだけ彼は言い、俺のもとを去る「ビュン」という音がした。


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俺(翼竜君)がモーテルに戻ると、茂木の予想は当たっていた。もう一体の敵がモーテルにおり、リナに暴力を振るい、無理やりに連れ去ろうとしている。「お前みたいな男を殺せもしないやつが、何男をたぶらかしてんだよ!」とそいつは罵っている。


「おいおい、その子に手を出すな!」と俺は言って、リナの前に立ちはだかったが、その淫魔はあろうことか強力な銃火器を俺に突き付けて、「死にたくなかったらどきな。この子は生贄になるのさ。連れて帰るから、邪魔するんじゃないよ。」と言った。


「お前たちの好きにはさせない!彼女はお前らのように、人間に危害を加えないんだ!」と言って俺が、そいつの肩を衝き飛ばしたら、ソイツはあろうことか銃火器をぶっ放しやがった。


「ぐああああああ!」と叫んだ俺の左肩に猛烈な痛みが走り、一気に感覚がなくなっていく。ダラリと力が入らない腕は、一気に重たい荷物のように感じた。リナが、「やめて!きゃああ!」と叫ぶ。


「貴様なにしやがる!」と言って、その敵の頭を右手で掴んで顔を膝蹴りし、うずくまったところをなんども足蹴にした。


俺は、怒り心頭してしまい、その敵の胸倉をつかみ、空高く飛んだ。ポケモンでいえば、「そらをとぶ」のように、上空高く飛び上がり、そして下に突き落とす。そしたら、地面に落ちた衝撃で死ぬだろう。


上空1万m、俺は失神し気を失っている敵が口角から唾を垂らしながらその諸行を後悔しているような表情をうかがった。俺はそいつの身体を頭を下にして、俺は足を顎にかけた。そして、滑空する。


たったの10秒。猛スピードで落下して地面に落ちたときには、空気との摩擦で敵は焼き切れていた。


落ちた先は先ほど茂木が倒れた砂浜。俺は茂木に掛け寄り、「大丈夫か。」と声を掛けた。「モーテルに戻るぞ。」と言って、肩を貸し、飛んで移動した。彼は、ヘトヘトに疲労した様子だった。

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