第26話 save yourself

安くて古びたモーテルにたどり着いた時には、すっかり夜になっていた。俺は、部屋にあがり、寝てしまった彼女をベッドに横たえた。


俺がシャワーを浴びている間に彼女が襲われないとも限らない。俺はそのまま見張りとして近くのスツールに腰を据え、途中のコンビニで買った雑誌に目を走らせながら、時間をつぶした。北村と黒服は、彼女がどうしてもついてこさせないように従ったので、離れた別のモーテルに泊まるよう説得した。


ここでトランシーバーが声を発した。黒服だ。


「茂木、お前らの所に何かが近づいている。おそらく上空にいた奴だ。俺たちはお前の言う通り彼女には近づかない。だから、お前で何とかしろ。お前ならやれる程度のもんだ。落ち着いて行け。」と彼は言った。


通達が切れるや否や、ドアをノックするケタタマシイ音がした。さすが人外だ。ノック音に加減が無く、大きすぎる。しかし、ソイツはあくまで人間のふりをしてこちらにすり寄ってくる。「あのーすみません。以前この部屋に泊まったものですが。忘れ物をしてしまって。少し入っても大丈夫ですか?」と、裏声を使って人畜無害な人間を装っている。


本来なら、モーテルは受付の人がいて、その受付人が仲介役となりこの部屋にやってくるだろうが、おそらくこの人外は受付に危害を加えたうえで、この部屋にノコノコやってきたのだろう。となると、そうまでして彼女を連れて帰るか何かしようとしているわけだ。


彼女は「はっ」と飛び起きた。「あら、寝ちゃったのね。あれ私の追っ手よ。ストーカーされるのほんとに嫌になちゃう。後はよろしく。」と小声で言って、彼女は風呂場に駆け込んだ。もうシャワーの音がする。


「いるんでしょう?開けてくださいな。それとも、私が開けましょうか?」と言うドアの向こうの化け物は、ドアノブに触れ、もう鍵もなく力づくでドアを開けようとしていた。


俺は右手をドアの方に向け、「待て!」と俺は発言して手からソニックブームを噴出させた。すると、ドアが吹き飛び、外の薄明りの庭に怪物ごと落ちた。


「てめえ、何しやがる。丁重にご挨拶してやってんのによお。」と怪物は言い、翼の生えた腕を広げて、軽く羽ばたいて体勢を立て直し、立ち上がった。


俺はドアのあったところを通り、モーテルの共同廊下に出て「彼女に近づくな。お前は彼女を連れ去ろうとしているんだろう!」と言った。あれ、ちょっと待て、今横に誰かいたような。


左横を見ると、まさに先ほどチェックインをさせてもらったモーテルの受付であり支配人がいた。「あ、どうも。えー。今度、ドア、弁償してくださいね。」と彼は言った。


こいつ、受付人に手を出さずに、人外のくせにちゃんとお願いをして、同行を賜ったうえで面通りしてきていた…。俺は、誤ってそんな奴に攻撃してしまったわけか…。


「おいおい、俺は男だぞ?どうやら、お前は敵と勘違いしているようだが、俺は飛行能力を持った仲間だ。淫魔から彼女を守るために、ずっと空を飛んで偵察していたんだ。何やってくれている!」と男はこちらににじり寄りながら言った。


内線が唸り、こちらに呼び掛けてくる。「すまない。俺の判断ミスだ。深読みをしすぎた。敵は、全て女であるからにして、男である彼は味方だ。淫魔というのは、男を誘惑して殺すのが目的だ。そんな淫魔が男を巧みにだまして連れ去らせたので、心配して君を追っていたんだ。俺が考察ミスをした。申し訳ない。」と黒服は急いで訂正と謝罪をした。


「俺の名前は皇翼(すめらぎつばさ)。俺も実は能力者なのさ。お前の仲間さんは、俺のことをずっと敵と勘違いしていたようだが、俺は、お前たちの知らない世界で生きて来た、全く同じ運命を背負った一人だ。」と彼は言った。


「俺は茂木だ。一応、この内線の黒服の能力で、敵をサーチして殲滅するという飼育される生活環境に陥っている。ただ、俺は運動が好きだから、楽しくさせてもらっている。先ほどは済まなかった。今度、何か奢るよ。」と俺は言った。


彼は僕に興味を示した。「しかし君は発した言葉によって能力を発散するタイプなのか、珍しいな。」と彼は言った。「俺の同行者と敵以外に能力者を見たことはないが、俺は珍しいのか?確かに、言葉=能力と言う発動条件は初めてだが。」と俺は返答した。


彼は、「俺は、他に会ったことが無いな。まあ、俺の世界はまだまだ狭く、全然他にどんな能力者がいるかなんて知らないが。」と言ったあと、「おいおい、関西人ならここで脚を上げてひっくりがえるところだぞ。」と無茶を言った。俺は、関西人ではないし、それに今のは全然そのタイミングじゃないと思う。


ふと、なんだかやけにカッコつけて喋る男だなと思ったので、俺はこう提案した。「なあ、翼竜君って呼んでいいかな。」と俺は言った。すると彼は、「かっこいいな。もちろん、いいとも。」と答えた。


と、ここで、シャワールームから彼女が出てきていて、外にいる俺たちを眇めた。濡れ髪、バスローブ、ノーメイク。全てがエロい。そんな彼女は言った。「次入らないの?」と。俺たちは、童貞のように股間を押さえて言った。「はい、入りまーす。」


翼竜君は言った。「彼女の名前はリナだ。俺たちで彼女を護ろう。それが、使命だ。」と俺に言った。俺は言った。「まるでリョナみたいな名前だな。」と。

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