第25話 drive

俺たちはとりあえずその場から離れ、上空の翼竜のような偵察者を撒くことにした。


助手席で小さく座っている彼女は、雪のように白く、か弱い。俺は、放っておいたら消えてなくなるのではないかと思うほどに痛々しく華奢な彼女が気になり、車を運転しながらも静かにたたずんでいる彼女を物凄い頻度で目配りしていた。


俺がついそれを見てしまうのは、それだけではなかった。俺は実はまだ女性経験は乏しく、となりに女がいることに不慣れだった。近頃海で出会った女と足を絡め合ったりはしたが、どうもやはりサーフボードが無いとしっくりこない。だからか、俺は視界の端でチラチラする女に気を取られていた。


おまけに、彼女は短パンにキャミソールのような露出の激しい童貞が好むような服装をしており、俺のような半童貞のような男からすると刺激が強すぎた。いつものおちついた車の中とは違い、今日は面接に行くような緊張感が漂っている。


ピピという着信音の後、「ちょっと!茂木君信号!」とピッチから聞こえた北村の声で、俺の集中力は喚起された。俺は、その短パンやキャミソールから覗く細くしなやかな肢体に時々目を奪われるあまり、信号を見落としていた。俺としたことが、情けない。


「おおおおおっと…。あれだ、俺は、彼女が車の中で後部座席に移動しようと動くんで、止めていたんだ。そしたら、信号を無視してしまったわけだ。悪い悪い。」と俺は繕った。そして、すぐ、通話モードをオフにした。


「噓つきね…。」と痛々しい彼女は言った。「私のことじろじろ見てるでしょ。いやらしい。」と俺を軽く罵倒したが、俺にとってそんなことはどうでもよかった。今は、彼女をどうにかして守らなきゃいけない。俺は、太ももを抓り、刺激をもって緩んだ精神状態を立て直した。


「いや、俺は、俺がよそ見をしている間に君が雪のように消えてなくならないか、心配しているんだ。ぼろぼろの身体をしているじゃないか。君は俺にリョナでもさせるつもりなのか?」と俺は助手席を向いて言った。


「気持ち悪いから黙って。」と言って、彼女は俺の顔を正面に押し戻してきた。柔らかな手が俺の顔に触れた。


暫くの沈黙があって、彼女が言った。「あのかわいい子、彼女?」と言って来た。北村の事だ。俺は、即座に否定した。「いやいや、彼女は友達だよ。なんだか物好きな子で、スクープのために俺たちについてきているんだ。変わり者さ。」と俺は説明した。


「あの子、あなたの事好きなんじゃないの?」と彼女がいった。俺は、「そりゃないね。彼女は面食いだから。それに、俺は、中の下だ。ハハ。」と俺は笑ったが、彼女は、「へんなの。」と口をへの字にしていた。


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