第22話 umbrella

「危なーい!」と後ろから声がしたので「ハッ!」と我に返って振り返ると、ちょうど目の前には傘を持って滑空してくる黒服の姿があり、すんでのところで俺が避けなければ俺は黒服のキックを浴びていたが、俺は躱し、人魚に向かって突進した。


「きゃあ!」と言ってその美女の権化のような人魚は悲鳴を上げて黒服とともに水に沈んだ。俺はまずいと思い、サーフボードを蹴って飛び上がり、黒服を助けに水に飛び込んだ。おそらく、このままでは水中で水に強い人魚に見せられて溺死させられる。


水中に入るまでに「来い!」と俺は言い、手から縄を出して水中で黒服に投げた。彼の足に縄がかかり、俺は引き上げる。


人魚はものすごいスピードでその場を離れ、姿を消した。


「おい、何やっている!」と黒服は怒った。「何って、お前が死んだら跡が片付かないから助けてやったんだろうが!」と俺は言い返した。しかし、黒服は、こう言った。「あいつは尋常じゃない妖力の持ち主だ。お前が相手できる敵ではない。俺は幸いノンセクシュアルであるため、あいつに釘付けにされることはない。だから、今回は俺が戦うべき相手だったんだ。すまない、危険な目に遭わせてしまった。」と黒服は申し訳なさそうにしていた。


「そんなに謝らなくても!いや、ちょっと危なかったけど、こうやって無事だし!」と俺がその場の重い空気を払拭しようと努めて明るく話すと、「いや!」と黒服は遮るように言った。


「俺たち黒服集団が危惧していた危険な敵は、想像以上だった。本来ならお前に倒せる相手にお前を仕向けるのが俺の仕事だ。しかし、あいつは伝説級だ。各が違う。今日のことは忘れてくれ。少し休め。俺は、しばらく反省会をするつもりだ。ああ。」と黒服は言って、頭を抱えるような素振りを見せた。


しばらくの沈黙の後、「行け好かねえな。」と俺は言った。「はあ?」と黒服は問う。俺は続ける。「俺が万が一人魚さんとに至ることになってもよう、俺には逝く直前に出るレーザービームがあるじゃねえか。俺はもう、怖くねえんだ。それが敵から身体を守ってくれるからな。メデューサみたいな敵だってそれで倒しただろ?メデューサだって、ギリシャ神話の伝説の生き物だぜ。」と俺は彼を諫めるように堂々と言った。


「お前には事の重大さはまだわからん。とにかく、人魚のやつが今後人を殺めてしまうとしたら、俺の責任だ。それだけは言っておく。お前のせいじゃない。」と黒服は言って、治らないしかめ面をその後もし続けた。


「ちょっとは褒めてほしいなあ。あの巨人を二人とも、俺が倒したんだぜ。倒さなかったら、人魚と巨人二人を同時に相手しないといけなかったんだからなあ。」と俺は拗ねた。しかし、苦悩の表情を浮かべている黒服に、声は届かない。


俺たちは、それぞれに車に乗り込み、休息地を目指した。

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