第20話 Escape

「ご苦労だった。」と黒服が言い、「後は任せておけ、現場撮影と状況収拾は俺と北村がしておく、次の相手が出たようだから、お前は急いでそこに行け。」と付け足した。


「次って?」と俺が言うと、黒服が言った。「ああ、菩提樹線終点の彼岸駅、駅前にある大菩薩像に憑依して町を破壊しているヤツがいるらしい。急いで行け。ニュースにもなっている。おそらく、この神社と関係のある相手だ。ここの敵が倒れたことで、何かを察知して動き出したのだろう。これは物語の序章に過ぎない。まだつかめていないことも多いが、真相を探っているところだ。気を付けていけ。おそらく、海には何かが眠っている。そいつを起こすために奴は動き出したようだ。止めるんだ。」と付け加えた。


俺は、「分かった、急いで行く。」と言って駆けだした。しかし、「ちょっと待て、これを。」と言って黒服が足止めする。手には、注射器が握られている。


「相手は巨大な相手だ。お前にはこのワクチンが無いと対処できないだろう。なんせ、100m級だからな。」と黒服は言い、僕の延髄に注射器をぶっ刺してきた。


「うあああ。」と低くうめき声を漏らしながらも、マトモにそれを受けた俺は、まだこの痛みに慣れていなかった。「ああああ!」と身震いしてから針を抜かれた部分をさすり、「よーし、行ってくる!」と言った。


少し歩こうとしたら、数歩で遠くに止めたはずの車の前に着いた。「あれ?」と俺は思った。なるほど、「あああ!」と叫んでから歩くなどすると、その移動速度がものすごく向上し、瞬間移動のようになるということか!


僕は、ふと思い立ち、もしかして車に乗って移動していたら間に合わないんじゃないかと思い、高台にあるこの車を峠の切っ先にまで通常走行で移動させて、恐れの方が多かったが、背に腹は代えられないと思い、思い切って「ああああ!」と言いながら猛スピードで加速させた。


崖を落ちていくと思っていた車の周りにはワープの円状の線ができ、僕はそれにかき混ぜられるように吸い込まれ、一瞬で場所が菩提樹線彼岸駅前になった。


「やばい、マジで着いた…。死ぬかと思った…。」と僕はつぶやき、周りを見渡した。谷のようになっているその土地全体を見上げるように見渡すと、平屋が沢山ある風景のなかにスックとそびえたつようにして存在している巨大な銅像があった。そいつはしかも、家々を踏みつぶしながら、海の方向へと向かっているようだった。


「まさか、巨大化するのかなと思っていたのに、なんでスピード能力の添加なんだ。どうしろってんだよ。」と僕はヒトボヤキしながら、「あああ!」と鬱憤を晴らすように言ってから、海岸へ瞬間移動した。


先ほどまで背側にいた僕は、相手の前側にいた。立ちはだかる小さな俺を見るや、銅像は立ち止まり、しゃがむようにして俺をのぞき込み、挑発するかのように指先で俺の頭をなでた。まるで、虫好きがアリを撫でるかのようである。


海辺にはたくさんの漁船があり、それらが沢山の漁業網を乗せていた。僕は、「おっと!」と言って閃いた。漁船に乗っているこの網で、足を縛ればまるでシビルウォーのジャイアントマンのように文字通り一網打尽にできるのではないかと。

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