第16話 Metal

内線で黒服の声がした。「来たぞ。内宮インターチェンジで降りろ。原平大神宮に行け。敵がいる。」俺と北村は「了解」と言って、その声に返答した。


俺たちは、西神高速道路を走っていた。まるで、アメリカのハイウェイのように爽やかな風を感じられるその道は、随所に河川や湖があり、それらの上を高速道路が走っている。その上を渡る風が海風のように気持ちよいから気に入っているのだった。ただ、アメリカに行ったことはないが。


内宮インターチェンジを降りると、山中に大きく切り開かれた神社があって、そこが「源平大神宮」であることをカーナビが知らせた。「なるほどここか。」と俺はつぶやいた。始めてくるところだ。


先頭を走る黒服が、こんなことを言った。「こいつはおそらく、全身が刃でできてる。非常に危険だ。」と、俺が、「なんでわかるんだ?」と言うと、彼は言った。「この神社は、刃物を祀っているんだ。使い込まれて古くなった刃物を奉納するような習慣が現地にはあり、それらが保管されている。しかし、それらの刃物がどうやら使われなくなった恨みでもあるのか、巫女に憑りついているようだ。ちなみに、包丁や鋏ばかりでなく、ピーラーやシュレッダーなどの様々な生活用品も応用的に祀られているので、様々な武器が身体に引っ付いている。気を付けろ。」と。


俺は、ドキドキした。中学校時代の調理実習でさえ、ヤンチャな同級生が俺に刃物を向けてきたくらいで、まさかそいつが差すなんてしないだろうと思ってるから、怖くなかったが、こいつは倒さなければならない相手だ。紛れもなく、斬られる。


黒服が一人頭の中で逡巡している俺を心配したのか、再び内線で声を掛けた。「心配するな、ちょうどいいワクチンを用意している。」と。


そうこうしているうちに原平大神宮に着いた。それぞれの車から3名とも降り、北村は「大丈夫?」と心配した様子を見せながらも俺に向かってカメラを回した。黒服が言った。「じゃあ、刺すぞ。」と。俺は身体を緊張させながらも、延髄に注射を受けた。


「くっ!」と歯を食いしばりながらも、膝から崩れ落ちる俺。「よし、行け。」と針を抜き先を促す黒服。「頑張って!」と声を掛ける北村。黒服は、「巫女は巫女ファンの男を誘い、使っていない内務室に連れ込んで、昼間から男を襲っているようだ。その死体はおそらく裏庭にある護摩行の薪を焚く炉で焼いている。」と言った。恐ろしい話だ。


俺は、人気の少ない神宮の裏手に周り、背中のブーストを使って上空でホバリングするために、「い~た~い~」と小声で言った。すると、背中から火がボソボソと出て、身体がゆっくりと静かに持ち上がった。俺の来た道はそれ以上は進めないことが分かった。


高いところから見ると、裏庭には、黒服の言っていた通りに炉があった。俺は、北村に合図して俺から見える隠しルートのようなものを通るように指示を送った。俺は、地面に降り立ち、炉の様子を見ることにした。


炉にはやはり死体があった。俺は、白骨化した死体を見て、寒気がした。まだ、遺棄が終っていないということは、白骨化した死体を、回収する手順があるはず。ここまで白骨化しているなら、犯人はこのあと、これを取りに来るだろう。


すると、北村を通るように指示したルートで声がした。北村の声がする。「いやあの、どうしようもない彼に大事なブレスレットを向こうに投げ捨てられたんです。あれがないと、私は生きていられない!」だかなんだか言って、進行を阻まれた彼女は、何とか突き進もうとしている様子だ。


もう一人の女の、「ここは関係者以外立ち入り禁止になってますので!」と言う声がした。この声の主が犯人かは俺に判断できないが、はたと姿を現した黒服が言った。「来たぞ。あれだ。間違いない。」


声のする方向とも、俺が通り抜けようとして壁に阻まれたところとも違う、また別の方向から、落ち葉を踏み鳴らして歩いてくる巫女の姿が見えた。「ようこそお参りで。」と言ったその顔は、口角が上がり、声が艶っぽかったが、目は笑っていなかった。

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