第15話 SunRise
翌朝になり、目が覚めると、北村はいなかった。しかし、外で車の音がしていたので、急いで出ると、北村が自身のものとみられるヴォルクスワーゲンのビートルで現れた。
事情を聴くと、「黒服さんが『狩りに出かけるぞ。』」と言った」から、車とありったけの荷物を用意したのだと言う。この車は、給与を溜めて購入したずっと買いたかった車らしいが、俺の好みとは違った。
「茂木君も持ってきたら?近いでしょう?」と言うので、「俺もそうしようかな。」と言ってその場を離れた。ジンワリと黒ずくめの男が透明から現れたので、さりげなく見守りをしてくれようとしているようだ。
俺は、家に戻り、急いで出発の用意をした。家にある衣服や清潔用品、様々な生活用品を詰め込んで、とりあえず車を廻した。北村も大概のものを車に乗せていたので、俺もそうしようと思った。
波止場につくと、正午の眩しい日差しに映える二台のそれぞれの自家用車がひときわ凛々しく見えた。
暫く思い出話を北村と語っていると、北村が黒服と呼んでいた黒ずくめの男も車を持ってきた。彼はトヨタの真っ黒なクラウンを波止場に運んだ。いったいどこから得た金だろうか。非常に場違いに美しく、ややこしそうだ。やくざ者か?
北村はちなみにフリーランスであると言い、基本的に勤務先がないらしく、定住しているとやりにくい部分もあったらしい、その点、彼女はこの3人編隊に与するのが仕事上都合がいいらしく、ワクワクした風情だった。
そして、黒服はと言うと、彼女が取材をするのに俺が同行していると、他より多くの敵と偶然鉢合わせする可能性が格段に上がるだろうという推理から、顕在化しての動向を決めたらしい。付いて行っていると、探さなくて済むということだ。
俺としては、いつもいつの間にか俺の近くにいるんだからそんなこと気にしなくても絶対に見逃さないのではと思うのだが、そこは言わずもがなということらしい。おそらく、設定上の事情だろう。
俺たちは、車内に無線機を設置し、3人編隊の準備をより充実させた。これにより、黒服からの内線によって、どこに行けばどのような敵がいるかわかり、成果が効率的に挙げられるということだ。彼は、肌感覚で敵がどこにいるかと言うのもわかっているらしい。それは、非常に都合がいいということらしい。成果というからには、黒服界隈ではそれなりに、多くの敵を殲滅することが、個人のステータスに直接関係するということになっているのだろう。それに利用されるのは、俺なのだが。
俺はと言えば、彼らの御付きの用心棒といったところだ。黒服から投与されたワクチンを武器に、時に囮になり、時に戦士となって、北村が取材する傍らで敵を一網打尽にする。かなり、骨の折れる役割だが、死人が出ている事件が闇に葬られている以上、何か社会にできることはないか、と考えたときに、能力がある俺がすべきことは、相手を倒すことに他ならなかった。なので、俺は勤めている喫茶店に、長期休暇を申請した。
喫茶店で共同経営者をしていた丸吉は、二つ返事で俺のわがままをOKした。彼は、人が良すぎるので、なんでも、「いいってことよ。」と言って承認する。
「じゃあ、行きますか。」と言って俺たちは波止場から車を出した。行く先は、神のみぞ知る。
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