第13話 fight
海の水面をみると、まだ不自然に波が立ち、タコ野郎が生きていることが伺えた。俺は、北村に声を掛けた。
「とにかく、今から起こることは、北村が写真に残していることの反対側だ。あの人殺しを倒す役割を俺はしている。今から、あの敵が再び襲ってくる。物陰に隠れて、見ていてくれ。」
タコ野郎は波消しブロックから陸に上がり、俺たちに黒々とした全身を見せた。8本の足が生えたその身体は、タコそのものだったが、何よりも、そのどれもが隆々としたコブができており、吸盤がないあたり、宇宙人のような風体だった。
俺はタコ野郎を睨み、わざと「痛い!」と言って俺はタコ野郎に背中のブーストで加速して体当たりした。さきほどブーストの逆噴射を使って北村を受け止めたときに海に沈んでいたタコ野郎はそれを見ていなかったためか、あっけなく吹き飛ばされた。
そういえばタコ野郎のデカイ頭の一部が俺のさっきのソニックブームのためか欠けている。強烈なダメージを与えられるなら、何度でも浴びせてやる。俺は、「待て」と言う言葉を滑舌良く言えるように、口パクで馴らしていた。
タコ野郎が起き上がり、突堤の端からビヨーンと腕を伸ばして俺の首根っこを掴んできた。俺は、そこは「やめろ!」と言い、ゴースト化して腕が身体をすり抜けるようにしたうえで、その腕を切るために横に反転し腕に向かって「待て!」と言った。すると俺の手先からソニックブームが出てタコ野郎の腕が吹っ飛んだ。
「クッソ何しやがる!」と言ってタコ野郎は暴れ、残った腕を振り回し俺を殴打しようとする。俺は護身術をしたことがないから、どうしたらいいかわからないが、とにかく「やめろやめろやめろやめろ!」と何度も隙間なくゴースト化できるよう何度も声に出して言った。そうしながらもタコ野郎に掛け寄っていく。
多段に及ぶタコ野郎の伸ばしたパンチはゴースト化した俺には悉(ことごと)く外れ、俺はタコ野郎の眼前に来た。俺は懐に飛び込み、「痛い!待て!」と言って背中のブースターを吹かして加速しながら手からのソニックブームを相手の胸倉に浴びせた。俺はタコ野郎の裂けた胸板に割り込みながらも「やめろ!」と言ってゴースト化して身体をすり抜け、「うわっ!」と言う間に海に落ちてしまった。
「茂木くん!」と北村の叫ぶ声が遠くに聞こえた。耳に海水が入りボーっとしている。俺は平泳ぎしながら岸に戻ると、もうすでにタコ野郎は姿を消していた。
北村にかけより、俺は尋ねた。「どうなった?」と。すると北村は、「あのあと、煙になってアイツは消えた。どうなってるの?」と不安げに尋ねた。俺は、「よくわからないが、俺はあの映像の敵に襲われては、倒している。それだけはわかってもらいたい。そんなことの繰り返しだ。」と言った。もう、見られた以上、話さないわけにはいかない。
そこに、すべてを見ていたであろう透明人間の男が虚空から姿を現した。真っ黒なスーツを着ている。「ラブストーリーのワンシーンのような睦まじい状況の中邪魔して悪いが、君たち風邪をひくぞ?」と言って、男は身体から竜巻を起こし、俺たちを風に乗せて運んだ。
夜風に乗ると、空気が乾いて身体にまとわりついた水分がみるみるうちに飛んで行った。俺たちは、ある廃倉庫のスタッフルームのようなところに着地し、ドアを開けて中に案内された。海からはさほど遠くない。北村は、高所恐怖症なのか、気を失っている。
男がコーヒーを入れながら話した。「茂木という男は騙されやすいタチだ。俺がタコ野郎を排除するのを面倒くさがっているのを、こうも口実よくやり遂げてくれるとは。」と言った。俺は、北村を殺されるという脅迫に踊らされ、知りすぎた北村を消される恐れがあるからあの波止場に呼ばれ、そしてそこをアジトにしているタコ野郎を倒す駒にされたというわけだ。ちくしょーめ。
「そもそもサキュバスと言う生き物を倒すのは、ガンスリンガーの役割だ。俺たちは、状況収集とワクチン投与が担当だ。様々な場所で、ガンスリンガーの跡片付けをする。その役割分担をしているだけだ。これからもよろしく頼む。」と男は言い、姿を消した。俺と北村は、この廃墟同然の建物の中に二人取り残された。
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