第10話 gemini

俺は、終業後、帰り道に北村に電話をした。どうしても、俺は自分の身に起きている事件を誰かに話したかったし、言えば死ぬと言えども、ずっと抱えているのは生きた心地がしなかった。そのうえ、俺でない俺が暗躍していることも、大きなタンコブのように気がかりだった。とにかく、話してしまったら死んでしまうとしたら、俺は話を聴いて少しでも安心したいと思った。


俺が電話を掛けると同時に、近くのベンチで電話が鳴る音がした。そちらを見ると、北村がいた。「やっぱり、違うよね。良かった!」と北村は言ってから、「とりあえず、人っ気のない場所に移動しよう。ここは、誰が聞いているかわからない。」と付け足した。さすがに記者をしているだけはある。盗聴を危険視して、移動を促したのだ。


「今なにやってるの?」と俺が聞くと、やはりそう答えた。「後で詳しくは言うけど、スクープ撮ってるの。最近、人口が秘密裏に減っているらしくって。原因を探っている。今ここで言えるのはそれだけ。」と彼女は言った。彼女は昔から、いろんな人間関係に首を突っ込んでは、いろんな情報を仕入れていた。それは、キサクなだけでなく、諜報活動に近いものでもあり、しかし嫌な思いをする人間が一人もいなかったのは、彼女の天才的な才能だろう。その能力を人生で最大限に生かすには、新聞や雑誌などの記者がもってこいだ。


俺は「わかった。」というと、彼女が、「じゃあ、ここね。」と言ってカラオケ店に二人して入った。俺は、安心できそうな彼女の逞しい背中に、付いて行くようにして歩いて行った。


会計をすますと、急いで個室に入った。


北村は、爆音で音楽を掛けると、耳元で話し始めた。「なんだか最近!サキュバスという神話上にしかいなかった悪魔が世の中に沢山いるみたいなの!」と。俺は、他人事のように、「え!なにそれ!」と言った。


さらに北村は、こう言った。「それで!おそらくあの映像のサキュバスは!あなたや他の人間に化けて警察の捜査を撹乱しているみたいなの!」と。俺は、全然そんな事件を知らんふりして、「それで!襲われたらどうなるの!」と聞いた。


「もし!敵に負けてしまったら!あの映像みたいに!ミイラになって死んでしまうの!」と北村は言った。俺は、驚いたふりをして、「えっ!」とびっくりした表情をした。しかし、俺は改めて聞くと恐ろしい気がした。


「これがもし!世間に知れたら!私!大スクープなの!手伝ってくんない!」と北村は言った。俺は、「なぜ俺なの!」と聞いた。すると。


「あなたが協力しないと!不必要な誤解を生んであなたも私も損するから!」と北村は言った。俺は、頭を掻いて、悩むしかなかった。その時だ。俺の延髄にまたしても痛みが突き刺さったのは。


「うっ!」と言って、うずくまり、北村が「えっ?何?大丈夫?」と心配した表情で俺をのぞき込む。


待て、俺はこの良心的な女北村をサキュバスだと思いたくはない。俺が今まで延髄にワクチンを食らうたびに、サキュバスと戦ってきたが、今、それを食らったということは、目の前の相手が危険人物であるということを示しているのか?俺は、信じたくない!


もしかして、対サキュバス側の透明人間の中には、男女不順異性交遊に不満を持つ倒錯者がいるのではないか。俺は、それだけ目の前の人間が敵であるかもしれないという疑念を払しょくしたかった。


「北村!俺から離れろ!アブナイ!」と俺は言った。北村は、素直に従い、「えっ!何!」と言って素直に離れた。俺は、対サキュバス側の人間を取っちめることにした。「ここにいて!俺ちょっと行くところがある!」と言って俺はカラオケ店を後にした。彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。俺は、個室を出ることによって、透明人間を外に呼び出す作戦を実行したのだ。

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