第9話 memory
俺はバイト先に行き、いつものように接客をしていた。すると、ある客に、声をかけられた。「茂木君じゃない?久しぶり!覚えてる?沙耶だよ!」と。
その時間は、喫茶店のアイドルタイム。アイドルタイムとは、忙しい昼時の時間が過ぎ、仕込みなどをする時間だ。今日はたまたま、いつもの繁忙時間は来客が少なかったため、仕込みなどは終わっていた。
俺が、北村沙耶に声を掛けられたのは、珍しくゆっくりとした時間のある夕方だった。
「ここで働いてたんだね。元気そうでよかった。」と言った。彼女は高校時代の同級生で、かなり気さくな性格。俺のことを、「神様」と崇めていたらしい超絶変わった娘だ。どうやら、俺の言葉の節々に優しさを感じてくれたらしく、「茂木君ほどやさしい人間を見たことが無い。」と言われたときには、頭が紅潮した。
ある時俺は、たまたま体調を崩し、一日だけ学校を休んだ。(前日に食べたカキフライに当たったのか、猛烈に熱を出して、強烈な下痢を起こした。)その時から、北村は、「俺がいつ体調を崩すかヤキモキしてくれている存在」だ。ただ一度の体調不良にそこまで気を掛けてくれているのは少し重いが、今もこうして思ってもらえるというのは、ありがたい。
キッチンで声を掛けられた俺は、北村が注文したサンドイッチを盛りつけていた。提供は俺が行くから、座っておいてと声を掛ける。後で話すという意味だ。
北村は席に着き、俺から顔が見えるほうに座って俺を見てニヤニヤしている。俺は、出来上がったサンドイッチを持って、席に行くと、北村は俺のポケットに何かを入れた。シレッとした顔で、「ありがとう。おいしそー!頂きまーす!」と彼女は言った。
俺は、休憩時間になったので、スタッフルームに周り、ポケットに入れられたものを探った。すると、紙片とUSBがそこにはあった。今から休憩に入るスタッフは、俺が最後の休憩だから他にはいない。そして、シフトはもう組んであるので、パソコンは使わない。発注も終わっている。俺は、誰も来ないであろうスタッフルームのパソコンで、USBを開いた。紙片には、「ビックリするから見て!」と書いてある。
USBに保存されている動画を見ると、おそらく北村が記者をやっているらしいことがわかった。社会のゴシップ的な映像の断片が、そこにはイッパイ入っている。
その中の一つに、「茂木君?」と書かれたファイルがあった。これを、俺は開けてみた。すると…。
映像の中では、身なり、体格、背丈、歩き姿などがそっくりな自分がおり、男を襲っていた。そして、映像が乱れて、襲われている男はよく見えないがやがてミイラのようにやせ細り、ガリガリになった。そして、振り向いた俺に似た男は、こちらに顔を見せた。一瞬、俺にそっくりの顔が画面に映った。
その途端から、「きゃー!」と言って北村がバイクか何かに乗って逃げている様子が一瞬映っていた。カメラは、その俺に似た男に粉々に破壊されたが、データはここに残っている。遠隔撮影・保存とみられる。
メモの裏を見ると、「もし、俺じゃないと思ったら、連絡して。」と書いてあり、電話番号の記載があった。俺は、急いで画面を閉じ、USBを抜いて客席を見に行ったが、北村はいなかった。
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