第8話 regret
俺は、布団から静かに起きて、自分の押し入れを探った。姉の面影を、振り返ろうと思った。アルバムを引っ張り出し、埃の被った思い出を光にかざした。
写真の中で姉と一緒に写っている俺はどれも、朗らかな姉の姦しいばかりの笑顔に煩わしそうな表情を浮かべていた。一度くらい、受け入れて笑ってやればよかった。腹違いと言うことを乗り越えて、仲良くなることはできただろうに。
アルバムの入っていた押し入れを整理していると、何やら封筒に入った手紙が見つかった。差出人は、「10年前の僕より」とある。あて先は、「10年後の僕へ。」である。俺は、こんなことを書いていた時期があったなあと少し懐かしくなった。
封筒を開けると、中には拙い字で未来の俺に向けたメッセージが書いてあった。内容はこうだ。「10年後の僕。今頃何をしていますか?20歳になった僕は、大学生になって、一生懸命科学の研究をしていますか?ノーベル賞を目指して、世界に羽ばたくべく頑張っていますか?高校生の時に出逢った素敵な女の子と、今も恋愛していますか?ヤックンやモックンなどの幼稚園からの友達を今も大事にしていますか?大学の宿題に、早寝早起き、後輩の面倒、自炊にお金の管理など、いっぱいやることがありますが、元気で頑張ってください。」
懐かしい。俺は、理科が好きだったが、高校の時に周りに流されて文系に進んだ結果、理系の進路が閉ざされてしまった。高校2年生の時から付き合ったメグとは、俺がフリーターになると言ったら愛想を尽かして別れてしまった。理系に進学した矢井田と石本とは疎遠になった。おまけに、喫茶店でバイトをしている現在の俺は、何やら物凄い事件に巻き込まれている。戻れるものなら、あの時に戻りたい。懐かしい、何もかもが楽しかった、あの時に。
「いっけね、今日はバイトの日だ。」と俺はつぶやいて急いで用意をした。朝食には食パンとオレンジジュース。ヨーグルト。大急ぎで用意したら、何とかいつもの出発時間に間に合った。
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