第3話 pulse

俺たちは、無言でテーブルの下で脚を交わらせていた。しかし、突然女は立ち上がり、「ちょっとトイレに行ってくるね。」と言った。俺は、「うん。」と言って、彼女の後姿を見送った。


その時だった。延髄あたりがガツンと痛い感じがした。「痛ってえ!なんだ?」と思って、無言で間を置かずに振り返ったが、そこには誰かがいるわけでも、大きな虫がいるわけでもない。そして、首筋や襟足を自分で触れるが、何もない。何か太い針で刺されたような感じがしたが、血も出ていなかった。何だったんだ?


俺が疑問に思っていると、女は戻ってきた。俺らのテーブルの前に立ち止まり、勢いよくスミノフを呷った後、俺に言った。「行くところがあるの、附いてきて。」と言った。


支払いは俺がすました後、女が出て行った外を見てみると、向かいの建物には女がいた。向かいの建物は、あろうことか、ラブホテルだ。


俺は、後ろ頭を掻きながら、往来の車の行き来を確認し、道を渡った。


「ちょっといきなりすぎない?」と俺は言うが、「いつもこんな感じ。」と女が言ったので、「ふうん。」と言って俺は中に入った。


チェックインをすまし、部屋に上がると、いきなりベッドに押し倒された。俺は負けてられんと思い、服を脱ぎながらも女にキスで応戦した。女の服も脱がせにかかる。


「ちょっと痛い。慣れてないでしょ?」と上目遣いに睨むので、俺はドキリとするが、俺は「経験はある。少ないが。」と正直に白状する。すると、女は、「慣れてないんだ。じゃあお姉さんがリードしてあげる。」と言って、再び俺を押し倒した。


俺は、下になり、キスの雨を受けた。女の背中に手を廻し、ブラを外しにかかる。俺は、張り切っていた。股が。


「こらこら、急がない。」と女は嗜めるように言って、下腹部をまさぐってきた。ズボンが下ろされる際、テントがバレてしまった。女は、「元気ね。」とだけ言った。


俺は、じれったくなって、女のサングラスに手を掛けた。女は、俺がサングラスに触れている手を握り、「見たい?」と焦らして見せた。俺は、「見たい。」とだけ言うと、「アソコ見せてからね。」と女は言って、俺の手を胸に誘導した。


女の手は、俺のパンツにあてがわれた。俺は、緊張している下肢が女のサワサワとしたフェザータッチに弛緩していくのがわかった。強張った筋肉が脱力し、身を預けるように緩んでいく。身体が重く感じられてきた。


「楽にして。」と女が耳元で囁いた。俺の身体は、思いのほか素直に女に従ってしまい、気の抜けたタンサンのように、ぼんやりと身を預けるようになってしまった。


女が、手と口を使い、俺を奮い立たせて来た。「ああ」と声が漏れる俺。


ふと、俺の眼窩に赤いモヤモヤが現れて、「?」と思った。俺は、今何を見たのか。そういえば、先ほどから、身体に痺れを感じる。


女が、ズリ下すようにしてスカートを脱ぐと、下着は身に着けていなかった。俺が、「えっ」と情けない声を上げると、女は、「トイレで脱いできた。もう、大変だから。」と言った。女のアソコは、しっとりと浸潤していた。


俺は、なんだか身体が動かなくなっていくような感覚を味わいながらも、女が俺の分身を受け入れていくのを眼前に見た。「ああ、入ってく。」と女は言った。


俺は、銃身が暴発しないように意識しながらも、身体に説明のつかない痺れを感じていた。


「ちょっと待ってなにこれ。」と思ったときには、声が発せなくなっていた。


「お待ちかね。」と女は言って、腰を揺らしながら、焦らしながらサングラスを外した。すると、サングラスで隠された血管の浮いた眉間や真っ赤な眼球が姿を現したかと思うと、俺の身体は石のように固まってしまった。


「私ね。ゴーゴンの生まれ変わりみたいなの。だから、サングラスの中が見たいと言った人は、みんなこうしてるの。もうすぐあなた死ぬわよ。」と女は言った。俺は、返事ができない。瞼も動かない。ただ、石のように固まってしまい、ディルドと化している。


ただ、女は扱いに慣れているのか、こんな状況でもエクスタシーは近づいてくる。


心の中で、「あああ、あああ。」と情けない声を心の中で上げながら、「え、死ぬ?」と疑問符が湧いた。


「ああ、もうすぐ。もうすぐ。すごい。」と言いながら女は腰を速めて来た。俺は、もうすぐ死ぬのか…。と思った途端だった。


目の前が真っ白になったかと思うと、目から灼けるような熱線が出た。「ドカーン」と音がして、吹き飛ぶ女。俺は、射精はしていなかった。


石化が解けた身体を持て余しながらベッドから起き上がり女に掛け寄ると、女は腹部に大きな穴をあけてこと切れていた。


さすがの俺でも、失神するほど驚いた。俺の前で人が死んだのだ。俺は、「いやーーーーー!」と言って、仁王立ちのまま床に倒れ伏した。

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