第2話 AveNue

家にサーフボードを置いて、仮眠を取った後、また家を出た。


三日月が日に焼けたアスファルトを照らし、寝ている間に降っていたらしいスコールで濡れた路面を輝かせていた。


指定の店には、歩いて向かう。飲酒をするから、当たり前だが、そもそも、歩いても知れている距離だ。ざっと1㎞。


店の前に例の女が立っていた。時刻は18:50。「早いね。」と俺は言って、女が気付くのを促した。「ああ。」と女は言った。近眼なのかもしれない。


店に入ると、店員がハイビスカスを飾ったブルーソーダを盆にのせて、スマートな動きで移動していた。「いらっしゃいませー!」と快活な声がする。


キャップを被った女店員が、「お二人様で!?どうぞこちらへ!」と明朗に案内した。俺たちは、金木犀のような色味の丸い一人掛けのソファが二つあるテーブルに案内された。向かい合うような席になっている。客席は奥まっており、ほぼ満席だ。


「何する?」と俺は言う。「私、スミノフアイス。」と言うので、俺は「バカルディモヒートにしよー。」と呟く。女が店員を呼び、俺たちは注文をした。


女が、「男前だよね。普段から海で女に誘われない?」と言った。俺は、謙遜して、「いや、初めてだね。」と答えると、女は、「うそ、意外。」と言った。


暫しの沈黙が流れた後、俺は率直に言った。「サングラス、外さないの?」と。ここまで描写をしていなかったが、女は、海にいたときから、今まで、ずっとサングラスをしている。みたところ目が不自由なわけではない。


「お待たせしました。」と言って店員が飲み物を運んできた。俺らは、「チアズ(乾杯)」と言って、瓶を軽くぶつけ合った。お互いに、一口酒を含んだ。舌で風味を味わい、飲み下す。


ドリンクに無償で付属したフィッシュアンドチップスが運ばれてくる。俺は、一つつまんで食んだあと、女を見つめた。返事が待ち遠しかった。


少し考えたのち、「少し、人に見せたくないの。」と女は言った。俺は、「なんで?怪我でもしたの?」とデリカシーなく言ってみた、率直に、なぜか知りたかった。


「まあ、そんなところ。恥ずかしくって。」と女は言った。女の方から声を掛けて来たわりに、シャイな面も持っている不思議な女だと思った。


俺は、「見たいな。目。」と言った。すると、女は、「もう少し、打ち解けてからね。」と言って、けだるそうな動きでチップスを手にした。アンニュイな動作でそれを食み、サングラスで俺を見つめてくる。


何かが俺の中で燃え始めた。モヒートを呷り、熱を冷まそうとするが、アルコールに弱い身体は、火照り始めた。女は、余裕のある表情をしている。


女は、俺の足に足を絡めて来た。俺は、椅子に凭れ、背を預けるようにして、足を絡め返した。

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