エピローグ

 本当はさ、俺、今すぐ死にたいんだ。

 初めて出会った日と同じ場所で黒木は同じセリフを吐き出した。

「生きるって才能だよな」

 今度は僕が続きのセリフを呟く。

 朝日に照らされた、午前七時。錆びた椅子は撤去され、もうすぐこのビルも無くなる。

 僕は、黒木に拳銃を返す。

「俺に死ねって言うのか?」

「そんなわけないだろ。お嬢の気持ちを無駄にするな」

 僕は一呼吸置いて真剣な眼差しを黒木に向ける。

「才能がなくても、たとえ殺し屋になっても、ちゃんと生きろよ」

「ならねーよ。」

 黒木が僕の頭を叩きながらツッコむ。

「これから、君はどうするの?」

 僕の質問に黒木は苦笑いで答える。

「…ヴィランがやり残したことをやるよ。ヒナタ含め三十一人の世話だな」

「なぁ、黒木。勇気はあるか?」

「は?もう誰も殺さねぇよ」

「困ったとき誰かに頭を下げる勇気はあるか?『助けて』と言う勇気はあるか?誰かを頼る勇気はあるか?」

「それが出来たら今まで苦労してねぇな」 

 彼の笑みが、いつかのお嬢に重なる。

「利害の一致ではない。僕のわがままだ。なぁ黒木、僕ら友達になれないかな。僕を巻き込んでほしい」

 そう言って、僕は黒木に手を差し出す。

「あーあ、余計な家族が一人増えた」

 面倒くさそうに口では言ったが、彼は幼い子どものようにギュッと僕の手を握った。

 僕らはやっと朝を迎えた。

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願い事 紫雨 @drizzle_drizzle

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