Again

――その瞬間、鳥肌が立った――


こいつだ。昨日も、昼間も、攻撃してきたカティルは優成なんだ。

「どんな夢見たの?」

なにも知らないクラスメイトはカティル...いや、優成に対して質問する。

「同窓会で高橋に全員殺される夢...♪」

全員、俺を睨みつけてくる気がした。

違う。俺はなにもしない。するつもりもない。そいつなんだ。そいつが...!

――クラスメイトが突然叫び出した。

1人、また1人発狂する人が続出する。

「やめろ!やめろ高橋!!!」

僕は何もしていない。

「高橋くん...♪」

優成は僕に話しかけてくる。

発狂の原因はこいつだ。


「俺がカティルってわかった時さァ...真っ先に高橋くんを殺そうとしてたんだよねェ...なのに、きみは抵抗してきてさァ!!」



そうか。

僕が優成が誰なのか、その時わかった。








――高校の時、仲良くしていた友達だった。

一緒にゲームセンターに寄ったり、一緒にご飯を食べに行ったり。


修学旅行や校外学習の時だって同じ班だった。


影で僕がいじめられていたとは知らずに。


ある日、「悠真」と喧嘩をした。

殴ったり、殴られたり。

引っ掻かれて、今後も残りそうな痕もできた。


帰りで起こったことだったので、謹慎にはならなかった。


でも、僕は友達を失って学校に行かなくなった。


お母さんから

「悠真くん、亡くなったらしいよ。」

その時、頭が真っ白になった。


――原因は、いじめと聞いた。


僕が不登校になり、遊び相手がいなくなったいじめっ子達は、僕が仲良くしていた悠真をターゲットにしたんだろう。


「な...んで...生きてるんだ...?悠真...!」

その瞬間、発狂していたクラスメイトは倒れ、悠真の笑い声が響いた。

「きゃははははははははははははは!!」


死んだと、色んなところで噂になっていて、学校もそれが事実かのように休校になった。

なのに...


「俺はァ...高橋くんと喧嘩してもォ、学校に通い続けた...頭いい大学行って、俺を否定したお前を見返そうと思ったさァ...♪」


固唾を呑んだ僕を嘲笑うかのように次々と説明する悠真。


「けどさァ...きみをいじめてたやつら、急に俺をいじめるようになったんだよォ...笑えるよなァ...?」


悠真は右手を強く握る。


「自分が買ったくせに、変な色して、変な膜が張ってる牛乳飲ませられたりさァ...それを吐いたら、雑巾で拭かされて、その雑巾を口の中に突っ込まれたり...そうそう、家から針を持ってきたやつがいてさァ...爪と指の間に針を刺してきて...間からの血が中々止まらなかったわァ...」


話を聞けば聞くほど、吐き気が襲ってくる。

自分も、体験した話だから。


「そしてさァ...屋上から飛び降りたんだけどねェ...」


こいつが俺を襲ってくる理由がわかった気がした。


「死んだはずなのに、夢を見たんだァ...」


いや、わかった。


「きみと喧嘩してェ...俺が死に続けるんだけどォ...♪」


悠真はまた僕を襲うだろう。


「その夢終わってねェ...?目が覚めたんだ...」


なぜなら...


「カティルってェ...悪夢見せられるのと引き換えに、怪我とか骨折とか、全て治るっぽいんだわァ...」


悪夢を見せる元凶を...僕を殺せば...


「きみを殺せばァ...







あのくっっそ屈辱的な悪夢が終わるんだよねェ...?」


その瞬間、僕に一気に近づいてくる。


右の大振りではない。

コンパクトに、みぞおちを的確に殴ってくる。


「ぐはァッ...!!!!」


声が勝手に出た。


心臓にぽっかりと穴が空いた気がした。


いや。












――心臓が...動いてない...?



「カティルってさァ...血、肉、皮は強くなるんだけどなァ...?内臓自体の強度は変わんねぇらしいんだわァ...」




――完全に心臓は止まっている。

そして、体が勝手に倒れてしまう。


動かない。動かせない。

このまま死にたくない。いやだ。いやだ。


「あとはボコボコにしてさァ...!!」


畳が擦れる音がする。



ドン!ドン!ドン!!

なにも見えないが、音が聞こえて殴られていることがわかる。


先輩の仇も取れないまま、死ぬのか...?

いやだ...!!いやだ...!!!!

口から出ているなにかの液体が動く感触。




「っ!!」

体が...動く...?


「心臓...止めたはずじゃァ...?」


心臓はないのに、身体中に血が回るような感覚


――カティルの...能力...


死ぬまで時間の問題...

早くこいつを倒さないと...



「さっさと死ねよォ!!!」


体が上手く動かない...が!


「っ!!」


攻撃パターンはあまり変わっていない。


強いて言うならコンパクトに殴ってくる攻撃が加わった。

踏み込んだ足音で大振りか、コンパクトに殴ってくるか、分かる。


大振りを待つ...!


「待ってるだろ...?俺の大振り...」


勘づかれた...?

待っている攻撃を変えるしか...


右足の蹴りをしゃがんで避け、左手の突きは同じ方向に避けて左手が届かないようにする。

パターンは分かっているが、大振りが来ないようになっている。

なら...!

左手の突きを待つしかない...!

すると...


悠真は笑った。


右の...大振り...


当たるとわかって腕で防ぐが、腕諸共殴られる


ドン!!!!!!


重い一撃で左腕が痙攣する。だが...!


「待っている攻撃を変えたはずだァ...」


血を操り、悠真の右手と僕の左腕を結ぶ。


「これくらいは喰らえよ...!!」


右手を力強く握る。

時間的にこれが最後の一撃。


悠真を殺そうと、力を込める。





ドクン、ドクン、ドクン、ドクン


悠真の心臓の鼓動が早くなっているのがわかる。


すると、血が手の周りを硬め、ボクシンググローブのような形になった。


本能が...こいつを殺せと言っている...!


じゃあな...悠真...


みぞおち目掛け、殴る。


「待て!!高橋ィ!!!待ってくr」


ドォン!!




いままでにない、重い一撃。


悠真は血を吐き、その場に倒れ、息が止まる。


すると、クラスメイトは全員目が覚めた。

よかった...こいつら死なないんだな...


あぁ...先輩...仇取れなくて、ごめんなさい...


死ぬのに、1人じゃなくってよかった。

友達のお前と、死ねてよかった。





僕の視界は、プツンと見えなくなった。

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東京カティル @kakip1

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