第9話 二人を繋ぐ蝶の架け橋
私の不注意だった。
「なにかしら?」
蝶を見ていたはずなのに彼と目が合ってしまった。
素っ気ない私の言葉に彼は微笑みながら、
「いえ、見られていた気がしたから」
と素直な言葉を向けてきた。
「コイツは住原っていうんだ学校一の美少女さん」
指を向けて彼の友人紹介を始めたクラスでも声が大きい友人B。
急展開に悩む私を置いて言葉を続ける。
「本の才能で言えばコイツも一流だと俺は思うんだ。もし本のことで悩んでいるなら相談して見ろよ、きっと良い仲になれるんじゃねぇか?」
「なんで面識もない男子に友人を紹介され、私がその住原君だっけ? その人に相談しないといけないのよ。そもそも悩んでなんかいないわ」
「そうか? お前朝からコイツが悩んでいる時と同じような顔してたらついそう思ったんだがそれは悪かったな」
私は何も知らない振りをして聞いてみる。
会話を無視してここで終わらせても良いのだが少し彼には興味を持ったことも事実。これもなにかの縁と思い、少しだけ、ほんの少しだけ、興味の矛先を向けてみることにした。
「んっ? 彼は本を書く人間なの?」
「あぁ。こいつはお前と違って凡人で埋もれた人間だが、読める作品を書く人間だ」
「おい! それ褒めてねぇだろ!」
「ふふっ、面白いことを言うのね、貴方名前は?」
「俺か? 俺は野中武。空徹とは小学校からの仲でコイツの作品は一応全部暇つぶしに読んでいる心優しい人間だな!」
「お前な! もう二度と読むな!」
「あはは!!! そう照れるなって。幾ら学校一の美女でクラスメイトの白雪七海の前だからって照れる必要はないだろう! あはは~」
「照れてるんじゃない! 俺の凡人っぷりを白雪の前で公表したことに文句を言ってるんだ!」
「貴方……じゃなくて、えっと……住原君はどんな作品を書いているのかしら?」
私は直接確かめてみることにした。
蝶の正体を。
そして彼の本質を。
ここでの返答が今度の私と彼の関係性を決めると思って。
「残念だけど今は何も書いてないんだ」
申し訳なさそうに答える住原とは対照的に元気な声で野中が声をあげた。
「嘘を言うな! 今も妹のサポーターとして『奇跡の空』で活動してるじゃねぇか! 少なくとも俺はそれを知ってるぞ! それは凄いことで、もっと自信を持つべきだ親友よ!」
「……さっきからなにもかも暴露するの止めてくれない!? 白雪だけじゃなくてここにいる皆聞いてるから! お前声大きいから皆の視線がこっちに集まるから! てかもう集まって俺痛い子みたいになってるからさ!」
「おっ!? なにか問題あんのか?」
「大有りだ!」
「お取込み中申し訳ないのだけど、さっき……の、野山君が言ったのは事実かしら?」
普段人の名前をいいなれない私は失礼なミスをしてしまった。
けど、彼は私が謝るより先に満面の笑みで答える。
「野山健一が言ったことは事実だ!」
「嘘を言うな。野山健一って誰だ? お前は野中武だろ!」
「細かいことは気にするな!」
「気にするわ、ぼけぇ!」
イメージ像とはかけ離れた住原の言動に私はこっちが本来の彼なのだと理解した。
だけど野中の仲介もあり、私は一つの核心を得ることができた。
蝶の正体は――『奇跡の空』。
そして『奇跡の空』の作品に欲が感じられなかった理由も。
面白いものが見れたと思いクラスに視線を飛ばすとひそひそ話があちらこちらから聞こえてきた。
どうやら討論に燃える二人は気づいていないようだ。
耳を澄ませば聞こえてくるのは。
「アイツ白雪の真似とかしてるのかキモ」
「白雪の気を引くための嘘だろ」
「単純にうぜぇ……アイツ」
などなど男子の嫉妬が主な声だった。
確かにこれは本人が黙っていたい結果だろうと思った私は知りたいことを知れたお礼に助け舟を出すことにした。
「偶然昨日貴方の作品を読んだわ。続き期待しているわ。それと今日の放課後少しお話いいかしら?」
「えっ……あっ、はい?」
戸惑う彼を差し置いて私は、
「なら放課後昨日の場所で」
と、私たちにしかわからない内容で助け舟を出したのであった。
当然クラスの男子たちは嘘による気の引きやただの真似ごとではないと理解しただろう。少なくとも私に振られた人間はそれでは納得しないだろうが……それは住原も男だ。自分でなんとかするだろうと勝手に信じることにした。親しい友人というわけではないのでそこまでする義理はないだろうし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます