第6話 咲き始めた花


 恋愛小説は好きなジャンルである。

 そんなわけで何かに導かれるようにして恋愛小説の日間ランキングに目を通して見ることにした。

 今後何かのきっかけで話すこともあるだろう、と。

 考えても仕方がないことだが、身近な環境で同じ趣味を持つ人にほんの少しだけ興味を持った私はそんなことを心の中で思う。


「この手の分野はやっぱり数が多いわね。逆を言えば市場価値はそれだけあるってことになるんだろうけど、作者が書きたい物語と読者が読みたい物語は基本的に一致しない。そう考えるとこのランキング上位の人たちは本当に凄いわよね」


 Web上で小説を投稿したことがある私は知っている。

 読者から評価を得てランキング入り。

 それが一見簡単なようで難しいことを。

 そしてランキング上位を獲得することが。

 ネット環境を媒体にした場合、商業経験のある作家ならネームバリューと言うものが実際にありそれが有利に働くことは認める。

 だけど、投稿者の殆どが最初は無名作家。

 その中でランキングを取りに行くにはまず作品を見てもらう必要がある。

 数分毎に新規で投稿される作品や更新される既存の作品、それらを押しのけてまずは十や百を超える膨大な作品の中から自分の作品が数多の読者の目に入らなければならない。

 仮に入ってもやはり最初は読まれない。

 読まれるような魅力がタイトルやあらすじにないと素通りされ埋もれてしまう、なんてことはよくある話し。

 実際の所、気合いを入れて書きました! とアピール込みで言っても大半の作品は評価や応援が付かないやそもそもPV(プレビュー)が殆ど尽かないなどWeb小説家の心を折る結果となる。それを阻止するため、Web小説家たちは頑張るのだが、大抵読者が求めている物とWeb小説家が書きたい物語が完全に一致する事は極めて珍しいこととも言える。


「なにか面白そうなのないかな~」


 私はスマートフォンの画面をスクロールして何か面白そうな作品を探す。

 こんな感じでパッと見で惹かれなければその時点で仮にランキング入りしてもスルーされすぐに埋もれてランキングから除外される。

 これは仕方ないこと。

 それだけWeb小説家はWeb小説家で激戦区を勝ち抜いていかないといけないのだから。


「昔は私も孤軍奮闘してランキング上位を目指していたわね。ふふっ、なんだか懐かしいわね」


 沢山の人が創意工夫を凝らして頑張っているのを見て、懐かしき頃を思い出した。


「んっ?」


 スクロールしていた手が止まった。


「えっ?」


 何かに引き寄せられるかのように意識がその作品に吸い込まれた。

 タイトルをタップして試しにあらすじを読んでみる。


「この作品……読んでみようかしら。タイトルは『本命の君の愛を取りに行きます』なんとなくだけど、これだけでも凄い一途な恋話って感じがするわ」


 今日読む作品が決まった。

 まだ連載中の作品は読者のフォロー数や評価は正直低い。

 だけど直感で私はわかってしまった。

 この作品はまだまだ伸びるって。

 感想を試しに見ても、読者の多くがこの後の展開を大いに期待している。

 そんな感じが見て取れる。

 つまり評価したくてもまだどう評価していいか迷っている、そんな感じがしたからだ。なによりその作品の凄い所は各話のPV数がほぼ一定で増加傾向にあること。大抵更新するたびに一話から更新するに掛けてPV数が落ちていくのだが、それが殆どないこと。これは言い方を変えれば一話を読んだ人が現状最新話となっている二十九話までしっかりと読んでいること。それだけ読者を一度掴んだら離さない作品はかなり珍しく後はきっかけがあれば大きく伸びることがある。


「一ミリの迷いもなく僕は君の本命になる」


 作品のキャッチフレーズを目にした瞬間。

 心臓の鼓動が早くなる。

 早く読みたい。

 一体どんな世界が待っているのだろうと。

 さっきまで手が止まってどこか落ち込んでいた心が噓みたいに飛び跳ねる。

 迷いはない。

 私は勢いよく、Web小説家『奇跡の空』が手掛ける作品に意識を潜らせた。





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