第5話 癒やしの空間ときっかけ


 家に帰りついた私は学生服から部屋着に着替えてリビングのソファーに腰を下ろす。両親は諸事情でしばらく家を留守にしており当分は帰ってこないので、実質一人暮らし状態の私は家を自由に使うことができる。誰にも邪魔されることなく、好きな時に好きな場所で寛げるし、何をしても誰からも邪魔されることはない。

 まずは目の前にある膝下までのガラステーブルに置かれたお香に火を付けて心を落ち着かせる。目を閉じれば家の中にいるはずなのに、鼻腔を刺激する森林の香りが脳に働きかけ本当に森林の中にいるような気持ちにさせてくれる。とても安価で一回十分程度のリラックスタイムはとても素晴らしい。

 読書をするにあたって心がざわついていてはせっかくの世界感にしっかりと感情移入が出来なくなってしまい非常に勿体ない経験をしてしまうことになる。なによりその作品の作者に申し訳ないと罪悪感が芽生えてしまう。だから心が慌ただしい時程、読書前の十分を大事にしている。


「ふん、ふ~ん、ふ~ん♪」


 作品にプロやアマチュアは関係ない。

 アマチュアでも凄い作品をこの世に送り出した偉大な作者は探せば山ほどいる。

 例えば、締め切りに追われるのが嫌だ、お金のためじゃなくて自分のために作品を作った、趣味だからできる、本業優先、などなど様々な理由で実力者が意図的な理由で表に出ようとしないことは今の時代何ら不思議ではない。

 それでも本当に優れた作品と言うのはネット環境を通じて誰でも手軽に見ることができる。作者が無料の小説サイトに投稿さえしてくれれば。昭和の初期では考えられなかったであろうことが今のご時世は当たり前となっているのだから私はこの時代に生まれてきて本当に運が良かったと思う。


 ――。


 ――――火が消え、リラックスタイムが終了。


「今日は何を読んでみようかしら」


 目を開けた私はスマートフォンでお気に入りの無料小説サイトで作品を探す。

 手が止まった時はこんな感じで他の人が執筆した作品を読むことが意外と良薬になったりもする。

 作品を適当に探していると、ふとっ思い出す。


「そう言えば隣の席の男子生徒……恋愛小説書いてるとか言ってたわね」








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