第4話 不思議な兄妹に私は興味を持つ


 ――。


 ――――。


「ふぅ~、疲れたー」


 大きなアクビと一緒に背伸びをする。

 椅子の背もたれがいい感じに曲がった背中を伸ばしてくれる。


「あれ? まだあの人いたんだ」


 結構集中していて全く時間を気にしていなかった。

 だけどかなりの時間頑張っていた自覚がある私は気づけばそんなことを無意識に呟いた。


「ねぇ、くうにぃ?」


 くうにぃと呼ばれる隣の席の男子生徒。

 その隣にはいつ来たのかわからない女子生徒。


「恋人かしら? 知り合いにしては結構距離が近いわね」


 セミロングで茶髪の女子生徒。

 容姿は童顔で巨乳で低身長と正に絵に描いたような感じでなんか人懐っこそう。

 同じ女でありながら、あんな可愛い子がこの学校にいたんだと思っていると、耳を疑うような会話が聞こえてきた。


「帰ろ?」


「今年から図書委員だから後ちょっと待って」


「あっ! そうだったね」


「後十分ぐらいしたら先生たちの職員会議が終わるから。それまでは各階に委員がいないといけないみたいだから、ごめんね?」


「ううん、それなら仕方ないよ」


「ちなみに何読んでるの?」


「義理の兄妹結婚!」


 私の視界の先で男子生徒が吹いた。


「け、結婚はしないぞ?」


「なんで? 私たち血繋がってないから法律的にはセーフだよ?」


 私疲れてるのかな……。

 なんか今聞いたらいけないこと聞いたような。

 えっと……あの二人の関係って……。

 いや……真面目に考えたらアウト、そう自分に言い聞かせるが。


「なら説明するからまずは落ち着こうか、育枝」


「うん?」


「一緒に住んでるし、別に今のままでもいいだろ?」


「はぁ~」


 育枝と呼ばれる女子生徒が本気のため息をついた。

 まぁ、同じ女として好意がある相手にそんなことを言われたらそうじゃないと私だって思う。あの人は女心を全然理解していない。あんなことを言われたら百年の恋だって冷めるだろう。少なくとも私なら。恋人以前に異性で好きな人ができたことがない私にとっては全てそうなんだろうな、ぐらいの感覚での話だが。


「違うの。私はそう言う話をしてるんじゃない」


 呆れる育枝。

 見てて可哀想だと思う。

 だけど、私の勘違いだとすぐに気づく。


「知ってる。育枝のことを思って冷めろ、と遠回しに言ったから」


「むぅ~」


 え? 頬っぺたを膨らませていじけた?

 一体どういう兄妹関係なのかしら?

 などなど疑問に思っていると、私に不意打ちを喰らわせてくる。


「まぁ恋愛小説書いてる人が私の言葉を理解できないわけないか……てかいい加減諦めて私と結婚しよ?」


「俺に相手がいないから言っている言葉だな?」


「うん。相手もいなければ好きな人も気になる人もいない。だったら私で良くない? 超尽くすし一生愛するよ?」


「……もう少し考える時間をくれ」


「わかった♪」


 ええええええ?

 ちょっと待って?

 大変失礼で申し訳ないのだが、私の隣の席の男子生徒は容姿としては普通。特段カッコイイ! とか頭が良い! とかもない。お世辞にもモテるような感じはしない。だって今日初めて見た時もクラスで一人ぼっちだった。なのに、こんなに可愛い子からの告白を保留するって私が男だったらありえない、とつい思ってしまった。

 だけど一番の驚きはそこではない。

 育枝と呼ばれる子は確かに言った。

 恋愛小説を隣の席の男子生徒が書いていると。

 恐らく趣味でという意味だろうが、まさかこんな身近に今まで出会うことすらなかった同種の匂いがする人間がいるとはこれは単なる偶然なのだろうか。

 私が執筆している小説のキャッチフレーズに『出会いは偶然であって必然ではない』を使っているのだが、まさか実体験する日が来るとは夢にも思わなかった。


 この後の展開がとても気になるが、実はそれどころではない。

 私は今完全に手が止まっている。

 つまり本来の目的は達成できないとわかった以上、ここにいる理由は失われた。

 より良い作品を意識するあまり手が止まる、これは創作者にしか理解できない悩みでありその道を歩き続ける限り一生付きあっていかなければならない病気。

 そんなわけで今日は家で気分転換を兼ねた読書をすることに決めた私は今だに白紙のノートと筆記用具を鞄に入れて帰宅することにした。


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