第3話 懐かしい記憶


 ■■■


 高校二年生の春。

 始業式が終わり、放課後がやってきた。

 クラスメイトとの久しぶりの再会に喜ぶ者たちがいるクラスを後にして私(白雪七海)は一人図書室へと向かう。


 太陽の光が差し込む廊下を歩く。

 視線を前に向けると、ワイワイとはしゃぐ生徒たち。

 そんな名前すら知らない生徒たちの笑顔が眩しく感じる。

 室内だろうが外だろうが眩しいことには変わりがないらしい。

 だけど私が今から行くところはもっと眩しい。

 一人だけの空間でゆっくりと読書ができて、考え事もできる素晴らしい場所なのだから。そこは誰にも邪魔されず、集中するには最高の場所。

 調べ物もできるし、リラックスだってできる。

 私にとっては学校一好きな場所。

 特に今日みたいに学校が早く終わる日は殆ど人がいない。

 二千冊を超える本が一階から三階に分野別に分けられて置かれた図書室はとても広くここ蓮華高校は私立高校ということもあって設備投資にかなり力を入れている。そこに惹かれた私は去年の今頃入学した。

 昔の自分を懐かしんでいると、すぐに目的地に到着した。

 扉を開け、中に入ると予想通り人がほとんどいない。

 そのまま入口近くに設置された階段を上り三階の自習コーナーへ行く。

 ここは図書室に置かれた参考書などを持ち込むことも可能となっている。

 主な目的は自学自習をする生徒のために用意されたスペースと言っても良い。

 ただし、読書をしたり、静かにするのであれば他にやりたいことがあったらしても良いフリースペースとしても学校が用意している。まさに私にとっては万能の場所と言っても過言ではない。


「あら? 珍しいわね。今日みたいな日に人がいるのわ」


 階段を上って今日は何処の席に座ろうかなと視線を飛ばすと珍しく一人の男子生徒が読書をしていた。


「……てか、あの人隣の席の人じゃない」


 私は今日隣の席になった男子生徒だとすぐに気づいた。

 別に去年は違うクラスで接点はない。

 もっと言えば男子生徒に友達と呼べる存在はいない。

 自慢ではないが昔から告白をされることはあるが、それは私の胸が大きいからとか顔が好みだとか、体系が理想的だの容姿を評価したいやらしい視線で見てくる者が多いからという理由で下心を抱えた男子と仲良くする気は元々ない。

 そんなわけで趣味が同じそうな男子生徒とは離れた場所を探して座ることにした。

 もしこれが女子生徒だったら……友人が少ない私は仲良くなりたいと思ったかもしれない。だって今彼が読んでいる本は私が去年新人賞を受賞した処女作にしてデビュー作だから……。


「まぁ、欲を出すのは良くないわね」


 う~ん、と少し悩んだ私は日当たりが良い窓際の席を選ぶ。

 その場合名も知らない読書している男子生徒とは七席程離れた距離なので話しかけられることもないだろう。

 仮に向こうが好意を抱いていて話しかけてきそうになったら逃げるか無視すれば良い。そんな感じで私は私のためにいつも通り行動する。

 誰かがいるから帰るや諦めるは基本的に嫌な性格なのだ。


「よいしょ」


 席に座り、鞄から新品のノートと筆記用具を取り出す。


「なら、次巻の内容を考えるわよ、私」


 人がいることに配慮してとても小さい声で自分に言い聞かせる。

 これは私の仕事スイッチだ。

 学校に許可を取った私は学生兼作家をしている。

 そんなわけでここは私の仕事場でもあるのだ。

 年収は秘密。

 執筆しているのは好きだから。

 読書も好き。

 そんな感じで私は本の世界が好き。

 自分が作った作品の世界は当然で人が作った作品の世界も結構好きだったりする。

 作品の一つ一つに存在するオリジナリティ溢れる世界。

 この世に沢山の世界があって全く同じ世界がない本の世界を知ってから私は沢山の本を読み漁ってきた。その結果、今の自分がいるしそんな自分を誇りに思う。











 

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