第2話 因縁の恋敵
二人を繋ぐ物――ネット環境。
今は昔と違って情報社会と呼ばれているので多くの人は耳にしたことがあると思う。
現に私もその環境に身を置いている。
今では一人一台は当たり前となっているスマートフォン。
これも時代の流れと言うべきだろう。
昔は家に一台黒電話があれば凄いと言われていた時代だってあったのだから。
そんな時代と共に技術が進化してくれたおかげで私の片想いは終止符を打つことなく永遠に続いていると言っても過言ではない。
「相変わらずの頑張り屋さん。結果はいまいちだけど……あはは」
たわいもない時間をくれる君の更新が私は好き。
「これは凛のサポートもあるっぽいけど、これが君の新しい形なのね」
趣味だからこそ自由気ままに執筆できる。
それを醍醐味に趣味で物語を書く君を私はずっと見守っている。
『いつも楽しませてもらっています。これからも更新頑張って下さい』
そんなメッセージを君に送って私は仕事の準備に取り掛かる。
原稿の〆切に追われる日々は中々に退屈しない。
だけど、物足りなさを感じるのはきっと……隣に君がもういないからだろう。
偶然見つけた作品に君の痕跡を見つけた。
それだけで高鳴る鼓動は一体――なんてことを考えていると。
ピンポーン。
玄関のチャイムがなった。
インターホンで相手を確認すると、栗色の髪色をした女性が一人立っていた。
「はい?」
「おはよう!」
女性は何処かテンションが高い。
「どうぞ」
一般的な社交辞令とも言える返事をした私に対して元気な声の持ち主はニコッと画面越しに微笑む。
私は仕事の準備を止めて、予定しない来客を招き入れることにした。
彼女の名前は――久保田凛。
これは現在使っている彼女のペンネームで本名ではない。
私の一つ年下の女の子で高校時代の因縁の相手。
今も色々とあるわけだが。
一年前偶然仕事の関係でこっちにきた彼女と近所の書店で再会して以来、定期的にやって来る暇人である。
「やっほー!」
「おはよう。それで今日はどうしたのかしら?」
「相変わらず私に対しては警戒心高いね」
「あのねー、高校時代になにがあったか忘れたわけ?」
呆れる私。
心の底からそう思っているからこそ出るため息。
「まぁまぁ、それより会う気ない?」
「誰と?」
「お兄ちゃんと」
私の心が大きく弾んだ。
自分でもわかるぐらいに驚いて言葉を失った。
この瞬間、規則正しく動いていた秒針が狂い始める。
前だけを見て歩いていた旅人が何かを思い出したように振り返ると光を見た。
いつから背後にあったのかはわからない。
だけど旅人は確信する。
ようやく歩むべき運命の道を見つけたのだと。
私の世界に色が戻ってくる。
「七海でしょ? いつもお兄ちゃんの作品にコメントくれるの」
「えっ?」
「ばーか、お兄ちゃんは全然気付いてないけど、私は七海のことならわかる」
「それは否定しないけど……」
「それで会う? 会わない?」
突然の選択に私は迷ってしまった。
急にそんなことを言われても心の準備が全然出来ていないから。
好きな人に会うなら当然今から準備が必要になるわけだが、目の前の彼女は私の気持ちを正しく理解していながら、言葉を続ける。
「別にスッピンでもいいじゃん。ってことで会うでいい?」
「よ、よくないわよ!」
「なら会うね。ってことでこの後お兄ちゃんが私の家に来るから今から行こう?」
「ちょっと! 私の気持ち……」
途中で私は諦めた。
もうなにを行っても彼女の意志に従うしかなさそうだから。
だってこのまま無視したら仕事の邪魔しそうだし、なにより帰らないとかなったらそれはそれで困るわけで……。
「わかった。せめてお化粧はさせて」
「……え~、私が待つの?」
「そうよ。なにか問題でも?」
私は彼女の言葉を待たずして席を立ち上がって出掛ける準部を始めた。
なんだろう。
この嬉しくも素直に喜べない状況は。
だって好きな人の再開が恋敵と一緒とか普通ありえないだろう。
それも唐突に……。
幾ら、今は友人とは言え……事の発展が早すぎる。
原稿の〆切に対する不安が大きいのは私事とは言え、無視するには……。
でも会いたい気持ちが今はそれ以上に大きいのも事実で……。
そんなわけで私は今最も大きな感情に素直になったわけだ。
かつて私は輝きを失ったことがある。
それを救ってくれたのが凛と彼。
道中、私(白雪七海)は凛(住原育枝)と昔話をしながら彼女の家へと向かうのであった。
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