初恋相手はいつだって私に大きな影響を与えてくる~君が近くにいるだけで恋心を刺激するのは反則~
光影
第1話 お互いの道
ヒラリヒラリと舞う桜吹雪が甘い果実を目覚めさせる。
時は進むことを知っていても戻ることを知らない。
まさに一方通行の旅路を歩んでいるようだ。
それは後ろを振り返ることを知らない旅人。
だけど恋はそうとは限らない。
新しい恋を求めても古い恋がそれを邪魔することだってある。
桜の花びらを見るたびに思い出す。
君の優しい微笑み、を。
「もうそろそろ時間ね」
私の中の時計が時を刻む。
チクタク、チクタク、と。
秒針は規則正しく動いて一秒の狂いさえ知らない。
心を持たない時計は仕事を全うし、心を持つ者はその逆を願う。
「……」
君はなにも答えない。
まるでなにかに葛藤しているようだ。
運命の神様がもしいるならアナタにも是非聞いて欲しい。
「いつか大きくなって見返してあげる。だから――」
私は覚悟を決めた。
「今は、さようなら」
別れの言葉を君と神様に告げた。
君がいなくても生きてはいける。
だけどそうじゃないんだ……。
私は君と一緒にずっとずっと一緒に居たかったのよ?
でもね、夢に向かって走り始めた私達にその道はなかったみたい。
運命って残酷よね?
でも、私と君の趣味が同じってことはもしかしたらまた……。
期待する弱い私が心の中にいる。
でも、私と君は創造する力を持っている。
これは事実で一つの試練と考えるのなら――可能性はある。
「…………」
君はなにも言わない。
君も私と同じ気持ちなのかな?
でもこれはずっと前からわかっていたこと。
出会いがある以上、別れもある。
『出会いは偶然であって必然ではない』
私は両親の都合で君とは遠距離恋愛になること。
そして、それは無理なこと。
私と君の性格上どうしても大人の恋なんてできない。
だって私たちはまだ子供だから。
高校卒業の年、私は君とお別れした。
「なら、ばいばい」
私は俯く君に手を振って、目一杯の笑顔で
両親が待つ車に乗って、後部座席から君を見つめる。
「……向こうでも頑張れ!」
そう言って君は涙と一緒に優しい微笑みを向けてくれた。
私がずっと好きだった微笑み。
ため息がでた。
そんなことされたら、我慢してたのに……。
お別れが苦しくなって涙がでちゃうじゃん……ばか。
でも――。
「ありがとう! そっちも頑張って!」
最後は笑顔でお別れしたいから、最後は
そうして私たちの別れの時間はやってきた。
運命の秒針は規則正しく動き続ける。
旅人は歩き続ける。どこまでも果てしない旅路を。
私は創造する。望む旅路を。
■■■
ベランダの手すりにもたれかかりながら、朝の風を全身で感じる。
太陽が眩しい。
高層マンションの上階と言うこともあり、太陽を遮る物は存在しない。
ベランダから見える桜並木通りを見て高校時代の青春を思い出す。
あの頃は感傷に浸かったと懐かしい記憶の数々が甦る。
缶珈琲を口に含んでから、タバコに火を付ける。
ゆっくりと息を吸い込んでタバコの煙と一緒に感情を吐き出す。
「君は元気にしてるかな?」
朝は静かでいい。
何より空気が新鮮で清々しい気持ちになれる。
微かに聞こえる小鳥の鳴き声は平和を感じさせてくれる。
何気ない日常の中に感じる出来事が不意に愛おしく感じることがある。
それは忘れたくても忘れられない記憶と呼んだ方がいいのかもしれない。
思い出しても無駄なのに、とせこい人間になった自分を実感する。
思えば今の日常は仕事も上手くいってプライベートも上手くいってと傍から見れば文句なしの社会人生活を全うしていると言っても過言ではないはずなのに――。
「――I don't have you anymore. a hole in my heart」
影のような孤独は私からずっと離れてくれない。
情熱的な恋はもう終わったはずなのに。
幻でも良いからもう一度と願う私が心の中にいる。
生きる意味。
それは一体なんなのだろうか?
自分の深層意識に目を向けると、喜びや悲しみと言った感情が教えてくれる。
命を燃やすような恋をもう一度したい、と。
「あの時、君に何を言えば運命は変わったのかしら?」
後悔しても……もう遅いその言葉。
季節は何度も過ぎ、お互いに年を取った今だから言える。
「会えなくて苦しくても遠距離恋愛……あ~あぁ、今さらそんなこと思ったって遅いわよね、私」
と。
抱えきれない思いは心の中で暴れて私を傷付ける。
夢はいつも遠くて、恋はいつも近かった高校時代。
だけど今は。
夢に手が届いて、恋は遠い社会人時代となった。
「さて、そろそろ部屋に戻ろうかしら」
タバコの火を消して、珈琲を飲み干してからベランダを離れ、仕事部屋へと向かう。
すると、私の仕事道具となっているノートパソコンの通知音が鳴る。
早速確認して見ると君からの通知だった。
「いつもお疲れ様。なら君の創造力でも見せてもらおうかしら」
私の手は迷うことなく、動き始めた。
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