第2話 部長と秘密
「後輩くんに正体を見破られた時はびっくりしたよ」
//SE ノートパソコンのキーボードを打つ音(この後喋りながらも鳴り続ける)
「まさか見学に来たばかりの新入生が、ちょっと去年の文集を読んだだけで気がつくなんてねー」
「お仕事の時とは文体も変えていたし、内容もかなりふざけたものだったから」
「後輩くんのように、元々僕の読者だった人が読んでも普通は気づかないと思うよ」
「実際、卒業した先輩達や顧問の先生は気づかなかったからねー」
「僕の目の前で作品の話をしていたこともあったのに」
「自分で言うのも何だけど、二作目は賞を取ったのもあって特に売れたからねー。みんな読んでたんだよ」
「だからこそ聞きたいんだけどね」
//SE ノートパソコンのキーボードを打つ音が止まる
「後輩くんはどうして、僕の正体を見破ることができたの?」
「普段から僕と接して、文章も読んでいた人が気づかないくらいには文体や内容を変えていたのに」
「当時、初対面だった君が暴いたのはどうも謎なんだ」
「……え? 根本の部分が一緒だったから?」
「あっうん。確かにジャンルや文体を変えただけで、テーマ自体は普段の作品と同じだったけど。それで気づくって」
「……後輩くん、そんなに僕のこと好きだったの?」//少しからかうように
「ふふっ、わかってるよ。好きなのは僕の作品でしょー。元からファンだって言ってたもんね」
「いやー、でも作者冥利に尽きるね。こんな理解者がいてくれるなんて」
「……嬉しいよ、本当に」//呟くように
「ううん、何でもない。さて、そろそろ仕事を終わらせようかな」
//SE ノートパソコンのキーボードを打つ音(再開)
「タイピングが早い? このくらいなら後輩くんもすぐに出来るようになるよ」
「うん、普段から原稿を書いていると自然にね。ちなみに文章力も一緒だよ」
「まずは普段から書くことを習慣づける。小説に限らず日記とかでもいいよ」
「そして、いざ小説を書いたら人に読んでもらう。さっきも言った通り、ここが大事だね」
「この時、読んで評価してもらう人も重要だね。僕の場合は、プロで今は同業者のパパだった」
「最初の頃は結構厳しく添削されたけど、おかげで文章力も伸びたから感謝しているよ」
「ということで、後輩くんも僕がビシバシ指摘して書かせて成長させてあげる」
「努力は裏切らない、とは言い切れないけど無駄にはならないよ」
「だって、なりたいんでしょ? 小説家」
「なら、僕はその夢を応援するよ」
「部長として、先達として、そして」
「君に救われた者として、ね」//呟くように
//SE ノートパソコンのキーボードを打つ音(終了)
「よし、お仕事おーわり。いやー、疲れた疲れた」
「ん? 別に何も。気のせいじゃない?」
「それより後輩くん、頑張った僕をねぎらってよ。具体的には肩を揉んでくれない?」
「えー、いいじゃないか。僕と君の仲なんだから。ほらはやくー」
//SE 肩を揉む音
「んー、そこそこ。あっ、もうちょっと強く……。そうそう、そんな感じー」//気持ち良さそうに
「ああ、そうだ後輩くん。今思い出したけど」
「前に後輩くんが小説の参考にしたいと言っていた書籍。パパの書斎にあったから貸そうか?」
「うん、パパからは必要なものがあったら持ち出していいって許可貰っているから大丈夫」
「それでさ、良かったらこの後」
「書籍を取りに来がてら、うちに来ない?」
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