天才JKボクっ娘覆面作家は後輩くんを逃がさない

焼き串

第1話 部長と後輩くん



//SE 離れた場所から聞こえる放課後の喧噪



「…………すー」//安らかな寝息



//SE 引き戸を開閉する音


//SE 徐々に近づく足音


//SE 肩をゆする音



「んー、もうあと五分。もしくは五時間……」//寝ぼけた感じで



//SE 更に肩をゆする音



「うん? あれ、後輩くん? もう用事終わったの?」



「そっかー。いやあ、もうちょっとかかるかと思って一眠りしてたんだ」



「あはは、御名答。昨日も遅くまで起きてたんだ。毎度のことだけど、締め切りが近くてね。……ふぁー」//欠伸



「ということで後輩くん。いつものごとく、眠気覚ましの珈琲を淹れてくれない?」



「えー、頼むよ。その間に、君が書いてきた原稿に目を通すからさー」



「それに後輩くんが淹れてくれた方がおいしいんだよー。ねえ、お願い」



「ふふっ、ありがとう。いやー、よく出来た後輩くんがいて僕は幸せ者だよ」



「茶化してなんかいないよ。なんせ僕はこの文芸部の部長で」



「君は唯一の部員なんだからね。後輩くんが思っている以上に、僕は君のこと気に入ってるんだよ?」



「あー、また信じてない顔をしている。もう本当だよ?」




// 次の場面へ




//SE 原稿用紙をめくる音


//SE マグカップをテーブルに置く音



「んっ、ありがとう。早速いただくね。……っと、その前に」



//SE 鞄を漁る音



「じゃーん、実は貰い物のクッキーがあるんだ。結構、有名なお店の物らしいよ」



「せっかくだから、珈琲のお供に一緒に食べよう」



「……って、なにかな。その呆れた顔は」



「昨日もお菓子を食べたじゃないですか? あのねえ後輩くん」



「執筆にはエネルギーがいるんだよ。だから君も僕も甘い物を食べて英気を養う必要があるの」



「……ほうほう、部長の場合は明らかに食べ過ぎなので控えた方がいい?」



「そういうことを言う悪い口にはお仕置きだよっ」



//SE 口の中にクッキーを入れる音


//SE 咀嚼音



「ふふ、おいしい? 僕も食べよっと」



//SE 咀嚼音



「うん、バターの風味が濃厚で生地はサクサク。噂通り、おいしいねえ」



「あれー? どうしたの後輩くん。顔を赤くして」//すっとぼけた感じで



「クッキーならまだあるから食べなよ。君が淹れてくれた珈琲も」



//SE マグカップをテーブルに置く音



「おいしいからさ」




// 次の場面へ




「さてと、糖分も補給したし君の原稿の話に移ろうか」



「結論から言わせて貰うと前の作品よりもいいと思うよ」



「テーマが明確で心理描写もうまく書けている。文章も簡潔で読みやすくなっているよ」



「うん、前に指摘した部分を反映してくれてるねー。さすが後輩くん」



「ただ展開が単調かなー。もうひと捻り欲しいところだね」



「それと推敲もちょっと甘い。例えば、この行とか」



//SE ペンで線を引く音



「そうだね。ここはいっそのこと削っていいと思うよ」



「前の下りで充分伝わるから。あっさりなくらいでちょうどいいよ」



「あともう何カ所か、気になった部分を添削したから参考にしてみて」



「そんなに落ち込むことないよ。他の人に読んで貰わないとわからないことって結構あるからねー」



「プロの小説家だって何度も書き直してやっと作品を完成させるんだから」



「それに君の見る目は確かなんだからもっと自信を持ちなよ」



「だって後輩くんは」



//SE テーブルから身を乗り出す音



「覆面作家である僕の正体に唯一気づいた人なんだからね」//耳元で囁くように

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