第3話 部長と紅茶



//SE 鍵を開ける音



「どうぞ、入ってー」



//SE 靴を脱ぐ音



「あっ、このスリッパ使ってね。お客さん用のだから」



「……って、どうしたの後輩くん。そんなに堅くなって」



「え? あれー、言ってなかったけ?」



「今日はパパいないよ、新作の取材でお泊まり。だから」



「僕と後輩くんの二人っきりだよ?」//耳元で囁くように



「…………どうして急にがっかりした顔するのかな??」



「……ああ、そうか。後輩くん、パパのファンでもあったけ」



「だから、会えなくてがっかりと。ふーん、そっか。残念だったねー」//拗ねた感じで



「別に。なんでもないよ、後輩くんは正直だなーと思っただけ」



「それより、例の書籍を取ってくるから後輩くんは居間で待っていてよ」



//SE 遠ざかる足音



「…………後輩くんの浮気者」//呟くように




// 次の場面へ




「おまたせー。はい、これが例の書籍だよ」



「返すのはいつでもいいから。存分に学んで小説に生かしてね」



「さて、これで解散ってのも味気ないし」



「せっかくだから、お茶でも飲んでいきなよ」



「いつも珈琲を淹れて貰っているお礼に、おいしいのを飲ませてあげるからさ」



「……なにかなー、その懐疑的な表情は」



「失礼な、紅茶を淹れるのは得意なんだよ。僕を甘く見過ぎだよー、後輩くんは」



「何なら台所に付いてきてよ。横で見せてあげるから」



//SE 薬缶やかんを沸かす音



「後輩くんは普段紅茶とか飲むの?」



「ははは、やっぱり根っからの珈琲党か。僕も好きだけどね」



「でも紅茶もいいよ? きちんと淹れたら、その分おいしくなってくれるし」



「汲みたての水を沸騰させたものを使う。ポットとカップを先にお湯で温めておく」



「そして茶葉の大きさに合わせた時間で蒸らす」



「他にも細かいポイントはあるけど」



「主にこの三つを守れば、香りが良くて味もおいしい紅茶を淹れることができるよ」



「ふふ、見直した? これでもしっかり、パパに淹れ方教えて貰ったからねー」



「うん、元々パパが紅茶好きでね。みっちり仕込まれたんだよ」



「今でも、よく淹れてあげるし。我ながら手慣れたものだよ?」



「……だから、なんでそんな意外そうな顔するのかなー。これでも僕、結構家事とかもするんだよ」



「パパとの二人暮らしだからねー。出来ることは自分でやらないと」



「でないと、まともに生活できないよ」



「え? なら、どうして部活の時は自分に色々やらせようとするんですか?」



「それとこれは別かなー。普段は誰かに頼み事とかはしないけど」



「後輩くんは特別だからね」//囁くように



「うん、たった一人の特別な部員だからねー。そりゃー、ちょっとくらい甘えたくもなるよ」



「あっ、また呆れた顔してる。もう後輩くんはちょっと僕に冷たいよ?」



「あっ、お湯がそろそろいいね。それじゃあ、コンロから薬缶を下ろして」



「茶葉を入れたポットにお湯を注ぐよー」



//SE ポットにお湯を注ぐ音



「で、すぐにポットに蓋をして」



「さらに保温用のポットカバー、ティー・コージーも被せると」



「うん、後は三分ほど蒸らすだけだねー。それじゃあ、カップとかと一緒に居間に運ぼうか」



//SE 二人分の足音



「…………後輩くんだけだよ、本当に」//呟くように




// 次の場面へ




「さて、三分たったね。後はポットの中をスプーンで一混ぜして」



「茶こしで茶殻をこしながら、カップに紅茶を回し注いだら」



//SE 紅茶をカップに注ぐ音



「はい、召し上がれ。ニルギリっていう、癖がない飲みやすい茶葉を使ったから」



「紅茶を飲み慣れない後輩くんでも大丈夫だと思うけど。……どうかな?」



「そう! 気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」



「僕も好きなんだ、このお茶。嗜好が似ていてよかった」



「うん、香りもいいよね。フルーティーな柑橘系で」



「……あっ、そうだ。部室で食べたクッキー、まだちょっと残っているから食べない?」



「いいの、さっき一仕事終えたし晩ご飯の量は調節するから問題なし」



「だから、この人はまた懲りずにみたいな表情はやめてよー」



「それともなにかな」



「さっきみたいに、また食べさせて欲しいっていう前振り?」//耳元で囁くように



「ふふふっ、後輩くんも別に僕に甘えてくれてもいいんだよ?」



「たった二人の部活なんだから、お互い支え合わないとねー」



// 後輩くんにもたれかかる部長



「んー? このくらい、スキンシップの範囲内じゃないかなー?」



「今さら、ちょっとくっついたからって気にするような関係でもないし。それに」



「『私』はもっと、君に近づいて欲しいって思っているよ」//低い声で囁くように



「…………さて、どういう意味でしょうか?」//からかうように



「ごめんごめん、ちょっとふざけすぎたね」



「冷めない内にお茶を飲もうか。せっかく、おいしく淹れることができたしね」




// 次の場面へ




「ごちそうさまでした。うん、楽しいお茶会だったよ」



「ああ、いいよ。片付けは僕がするから。後輩くんは座って待ってて」



「……え? もう帰っちゃうの?」//少し焦った感じで



「もうちょっといなよ。まだそんなに遅いわけでもないんだから」



「ほら、前に勉強でわからないって言っていた所とか教えてあげるよ」



「実はクラスのみんなからは教え上手とか言われているんだよ? 特に文系科目は」



「それかほら、僕の蔵書を見せてあげるよ」



「パパほどじゃないけど、僕もそれなりに色々集めているからさ。後輩くんなら興味がある本も多いと思うよ」



「……ああうん、バレちゃったか」



「いやー、パパが取材で家を空けることなんて別に珍しくないんだけどね」



「今日はこうして、後輩くんがうちに来てくれて。ちょっと賑やかだったら」



「一人になると考えると、その。ちょっと寂しくなって、ね」



「ごめん、つい引き留めちゃったよ」



「うん、だから気にしないで。一人で過ごすこと自体は慣れているからさー」



「……え?」



「いいの? 後輩くんも帰ってしたいこととか色々あるでしょ?」



「あ、うん。確かに支え合いとは言ったけど。でもその」//戸惑っている感じで



「…………わかったよ。それじゃあ後輩くん」



「君の時間を僕に分けてくれないかな?」

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