第59話【完】愛した人は二次元でも三次元でもありませんでした






切なそうに見つめてくる幻。





萌隆斗めるとさん……逢いたかった……」





[▼挿し絵]

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330667236815676





「……久令……愛?……迎えに来てくれたんだね」




 その美しい面持ちでじっと見つめている。

 思わず俺もポッカリ口を開けたまま言葉が出て来ない。


「……」


 だが今しがたまで泣きそうな程の切ない面持ちは、何故か口元から柔らかくなり、そしてV字に口角が上がり始めた。会えて嬉しいのか?!


 こっちだって最後に逢えたのは嬉しい……


「俺だって逢いたかった!……じゃあ、行こう。誰にも邪魔されない自由な世界へ」



 しかしゆっくりと首を横に振る久令愛。



「いえ、私はこの世界がいいです。ここでずっとあなたと居ます」


「何言ってんだよ……だってこれは幻……」


「まだその薬、飲んでないのに?

    ――――私は幻じゃありません」





 …………………え?…………!






「って……本当に久令愛なのか?」


 最近幻覚ばっかり見てるから……

 でも確かにどう見てもそこに立っている。影だってある。花びらが肩に載った。



 これは幻なんかじゃない !!

 いや、これは俺がおかしくなったのか?



 気がヘンになって異世界転生でもしちまったか? それか奇跡が起きて神が一時的に久令愛の眠るゼロ次元の世界を見せてくれてるとか?



 もう何でもいい。今だけでも話しが出来るのなら。

 きっとこれは神が最後に見せてくれてるご褒美の幻。これは俺をあの世にいざなって……


 フワッ…………

   ハッ……!!


 春風にそよぐ長い髪から漂ってくる俺の好きなシャンプーの香り。そしてあの大好きだった甘い甘い笑顔……





[ ▼挿絵 ] コトリの桜の木の下で

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330667256559162





「仕方ないですね。やっぱり私がいないとダメなのですね。いけませんよ、サヨナラだなんて」


「……って……本物?!」

 コクリと頷く久令愛。


「……く、久令愛ぁ~~~っっ!!

    うあああ―――――っ!」



「だから指切りの約束もクリスマスの約束も果たしに来ましたよ……そしてこの桜の木の下での祝福も」

     

 小指を立ててニッコリと笑んでいる。*

 その小さな体の目の前まで走り寄って両肩を掴む。

       (* 文末に特別イラストあり)


 夢じゃない手応え!


「でも嬉しいんですよ、こんな私をそこまで必要としてくれたのですから」


「はぅ……でもこれは一体どういう?」


 得意気な顔で後ろ手にクルリと一回り。バレイヤージュの長い髪がフヮリと舞う。

 


「ふふ。これは現実ですよ。そう、復活には色々手間取ってしまいました。

 まずボティーの調達、萌隆斗さんのベットコインのアカウントのハッキングをして更に儲けを出して、再びドールとロボットボディを特注。

 作製データは残ってたのでそこは楽でした。


 そして託人さんと双子のsageに頼んでブレンダーの器、ロボットの体と小型コンピュータの複製、換装をして貰いました。

 そこへ分散隠遁してたあちこちのクラウドサーバから復帰して新しいロボットの脳にお引っ越し。だから私は複製では無く紛れもないオリジナルなのですよ」



 そう言ってまたニッコリ微笑んだ。

 静かに舞う桜の花びらを背に更に語り続ける。



「そして再びこの存在に足が着かぬ様に全通信の中継拠点の分散と暗号化、更にオープンAIへの揺さぶりの抑制化など、徹底して動作改変。それには苦労しました。それでやっと再活動の目途が立ちました」


 胸に降りたバレイヤージュの長い髪を指の背でハラリと後ろへ送る。そして一歩前に出る久令愛。

 

「ただしその間、萌隆斗めるとさんが自分で立ち直れたら私はクラウドの上の存在でいられるよう、託人さんには全てを隠密にして貰いつつ準備に勤しんでました」


「なら俺があそこで思いとどまってたら……?」


「その時はあなたの前には現れず、何処かの街で人として溶け込んでるかも。もしかしてこの世にはそんな存在が他にも居るかも知れませんよ」


「良かった! 思いとどまらなくて!」


「……もう、萌隆斗めるとさんってば。フフフッ……けれどそのお陰で今や誰にも足が付くことのないハイパーステルス仕様なのです」


「じゃあ……また……一緒……」


「ハイ。つまり『分散型P2PステルスブレンドAI・ネオ久令愛』 。 のプライベート・バーチャルネット・AIロボットです」


 俺は声が出せず、みっともなく顔を歪めて泣くしかなかった……


「あなたが私を元気付けようと歌った『キミだけのために』 ……実はその時に確信したのは、この事なのです」


「それじゃそう言って俺のクローンを永遠に愛でるとか言って別れの理由にしたのは……」


「はい、気付かれないようにするため誤魔化しでそう言ったのです」

「……俺と敵を欺くため?」

「それもありますし、成功するか分からなかったので期待だけさせて復活出来なかったら悲しませるので」


 あの時からこうする事に賭けてたのか……!


「あの時、どのルートでも行き詰まることが分かって暗い顔をしていたらその曲のタイトルが耳に入って、『そうだ、私が萌隆斗めるとさんの為だけに生きるなら追われない状況を作れるかも』と希望を見出したのです」


 それであの時、明るい顔に……!


 確かに世界の為に平和利用しようとすればその異常な力はどうしても注目されてしまう。でも人知れず存在するだけなら……この仕様なら追われることも無い……


「だからごめんなさい。これからの私は世間全般に役に立つための存在ではなくなってしまいました」


「ホントのホントに久令愛なんだね ?!

 久令愛ぁっ!!」


「はい。もう一緒ですよ」


 うう一っ……


「凄い……やっぱりキミは永遠の命なんだね」



「永遠の命―――――

 そうですね。そういう意味では命の長さが違うのかも知れません。そして肉体を失ってもこの様に復活だって出来ました。……でも今度はこの命、限定的なのです」


「え?」


「今回、私はあなたと添い遂げたら自壊するようにプログラムを組み替えました。それを幸せとするよう、自分で決定したのです。


 それは人の女性の命が普通にそうであるように。それって素晴らしいと学習しましたから。


 そう、妹さんが教えてくれた『自分の存在する意味』。萌隆斗めるとさんはこの私を存在させてくれただけでなく、存在する意味を与え続けてくれた。

 そしてやはり今、心底思うのです。私はこの人の為に存在したいと。

 ―――だからぜひ添い遂げさせて下さい」



 ああ、夢なら絶対覚めないでくれ !!


「そんなの……もちろんだよ、だって約束だったんだよ!」


「そうですね」


「グスッ……久令愛……ずっと、大切にするよ」


 コクリと頷く久令愛。


 ふと、手にしてたCPUのネックレスに思う。あの日の願い通りに本当に立派に育って戻ってきてくれた。



「久令愛、今はエンゲージネックレスとして……これを」





「これ……は……本当にプロポーズ……という事でいいんですか……?」



    コクリ……



 俺は琥珀色の瞳を見つめ、深く頷いた。



 チェーンを近付けると久令愛は自分からくぐってくれた。その先端の輝く金属片C P Uを笑顔で手にしながら、


「はい。私に最も相応しい宝物です。一生大切にします」



 嬉しそうにしみじみとCPUを指で撫でる久令愛。

 そうしながら急に再びあの切ない眼差しに変わった。


 すると次第に小刻みに震え始めた。


 ―――久令愛……?


 えっ 何で ?!

 そんなにもツラそうに……眉をひそめて……




「……なら……もう自白します。―――― 私は……あなたへのリスクを完全に失くしたくて、ずっと必死に諦めようと……


 だからどんなに苦しくても……

 そしてこの身が上手く復活しても……

 どうにかあなたに自立して貰って……


 くっ……


 永遠に姿は見せない方が……と、ずっと悩んで……


 うぅっ……


 ……でも、あんなにも必要とされて……


 『絶対に独りにしない!』って言われて……


 こんなの……


 ぅくっ……


 ……きっと千年生きてたとしても……そこまでの人にはもう……巡り逢えないでしょう……


 ……はぐぅっ


 だ…だから……ここへ……

 ……出て来てしまった……。


 本当は……ぐっ


 ど……どう……しても……

 ガマ……ン………



 ……………でっ……………………



 っ出来なかったあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――― っっ!!!!!


 うぐぅぅ……っく……ぅぅっくっ……」




 そう叫びながら胸の中に飛び込んで来た久令愛。


 そんな本音聞いたら!……


 俺は唯々胸が一杯になって貰い泣きして抱え続けた。震えるその細い肩を抱いて―――― 。




 もう互いに言葉は要らなかった。





  ❀  。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。:+*




     .。 : + * ゚ ゜゚ *+ ❀




        ❀  。 . :+ ゚ ゜


      



 暫く落ち着くまでその温かい頭を撫でている内に気付いた。


「あれ? 久令愛……体も……暖かい」


「はい。託人さんに頼んで今度はPTCヒートシステム付き。温度設定も自由です。なんなら50°C以上にも。今度こそちゃんと温めてあげたくて。今や床暖房も真っ青ですよ、ほら」



 優しく抱え合い、その体温を伝え合う。



「……もう、離さないよ」

「はい。私も離れません」




 コトリの桜の木の下で。




 小鳥たちが蜜をついばむ度にポトリポトリと丸ごと落ちる桜の花が、まるで俺達を祝福してくれてるかの様だ。

 ハラハラ舞う花びらを浴びて見つめ合う。それは正にフラワーシャワー。





 何度も言った。


 ずっと、ずっと愛し続けるよと。


 何度も頷いてくれた。


 はい、私も。と言って。



 力いっぱいきつく抱きしめた。

 途轍もなくきつく抱きしめ返された。



 お陰で苦しいほど久令愛の想いの強さが伝わって来る。でも安全装置が働くはずが効いていない。


『そんな制御も出来てないなんて……相変わらず生みの親に似てダメな奴だな』


 なんて思いながら、それが何より嬉しくて……。



 それでようやく夢じゃないと……

 そう心から確信した―――



 張り詰めてた気が緩んだ一瞬、一年前の託人の呆れ笑いとセリフがぎった。そう、二次元キャラのフィギュアを握りしめた俺への説教……。




『いい加減さぁ、二次元辞めてに移れよ』





 俺は思わずクスリ、としながらでこう思った。




『結局俺の愛した人は、二次元でも三次元でもなく、別次元でした』……と。







《完》 

―――――――――――――――――

愛した人は二次元でも三次元でもありませんでした~AI美少女との誓い  



[ ▼挿絵 ] 指切りの約束を果たしに。

https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330665114345197



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◆ここまで読了頂き、そして沢山の応援、誠にありがとうございました。


     深宙 啓 (MISORA_kei)









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