第56話 そんな親が在るのか?!





「待たれい! 忘れ物じゃ」


 と『信長』ことレオンが止めに入る。

 床に転がる拳銃を拾い上げ青島に近づく。


 ―――レ、レオン?!


 そして銃口を青島に向け、

「……殺してしまえ、ホトトギス……」

「ヒィィ! や、やめっ……」


「ちょ、おいっっ!! レオン!!」



 だがヤレヤレと首を横に振りながらグリップを前にして差し出すレオン。

「……不届き者が。ホレ」



 と「ボ、ボクの~!」と手を伸ばす青島。するとそのグリップ部分でいきなり、


「このうつけ者めが!」と振り下ろし『ゴキッ!』


『ギャッ!』と頭を押さえる。青島。


「イッテー、てめー、何すんだあ!」


「余の流儀で蹴られた仕返しをせんとな。そう、鳴かぬなら殺してしまえホトトギス!」


「レ、レオンッ!」


「とは言え余には絶対律がある。よって殺せぬのじゃ。故に意地でもいて貰わんとのう」


 やにわに拳銃のグリップで小突く信長レオン


『ゴキッ!』 『ギャッ』

『ゴキッ!』 『ちょっ』

『ゴキッ!』 『ヒャッ』

『ゴキッ!』『ヤメッ』

『ゴキッ!』 『ふぇ――――――ん』



 ……って、メッチャ痛そうじゃね ?!……


「さすが信長、容赦ね~、もういいんじゃね」

 銃を突きつけられてた託人ですら同情してるし。



 あ、流血した……


「ひいい……血ィ~! ひでぇ~、クソロボットォ! こんなの人類への反逆だぁ~!」



 ヤレヤレ顔で見ていたJガーディアンズのリーダーが、頃合いとばかりに

「まぁ天誅だな。そろそろいいだろう」

 と連行して一団を率いて引き上げて行く。


 帰る間際、

「ところでキミ達、大丈夫か?」


「は? お前らは敵なんじゃ……この片腕もぎ取っておいて今さら……」


「いや、それは誤解だ。キミのアンドロイドが目を付けられたのは不幸な事だった……でも時としてオーバーテクノロジーは歴史から消される。利権を持った者や軍需を甘く見てはいけない」


「だからって久令愛の命まで狙うのはやり過ぎだろ!」


「いや、場合によっては君達の家族にまで魔の手が及ぶ事もある。だから全てはキミ達を守ろうとしてやった事なんだ。こんな形でしか守ってやれなかった事を許して欲しい」


「う……だったら先にそう言う事情だって事、コンタクトをとって欲しかったです……」


「秘匿性の高い任務だから私達の出自も目的も割れる訳にはいかない……カンタンに連絡など取れんのだ。ましてや敵クライアントの大元はS級の組織だったんだ」


 不意に悔しさを増すリーダー。


「……そんな奴らにあの技術が渡ったのは残念だ……将来どんな破滅的な結末がもたらされるか予測もつかない……」


 全ては日本人の安全の為って訳か……


「……なら安心して下さい。あれはダミーなんです。本体は自ら闇へと消えて行きました」


「本当か?! かくまってるならまた大変な事になるぞ」


「いえ、その証拠にあれ程までの大規模AIへの異常アクセスがその後は無いって事、そっちだって知ってるはずですよ……」


「確かに……そうか、それなら。まあ、何にせよキミたちが無事で良かった……。

 いや、実はここに先程のタイミングで来れたのも『青島が拳銃を持って行動するのを見かけたから警戒するように』との匿名のメールが入ったからなのだが……」


 ……匿名?! まさか……


「そ……そうでしたか……」

 久令愛が……守ってくれた!!……



「まあ色々と可愛そうだったが、この国とキミらや身内の命にとっては最悪の事態にならなかったのがせめてもの救いだ。

 ひと先ずこれで一段落だ。これを期にオーバーテクノロジーにはくれぐれも気を付けてくれたまえ、いつもこうやって守ってやれるとは限らないからね」



  ***



 かくして俺たちは[カミングネクスト・スプラウト(CNS)]賞へのレポートを書き上げ、このアンドロイドと写真を撮った。


 託人はアダ名だったレオンの改名にこだわり、久令愛と同じく絶対律を持つ人を裏切らないAIである事を売りにして命名し直した。


 ――― その名は『誠児・sage』


 それは日本語の『誠実な科学の子』と、英語の『智恵者』を引っ掛けての命名だった。


 俺はどう考えてもレオンの方がカッコ良いと主張したが、由来がカメレオン、そして名付け親が俺だと言う事がど~~~~~しても託人のプライドが許さなかったらしい。


 フッ……。ま、アイツらしいか。


 勿論その辺は譲って正式名と完成を心から祝福してあげた。


 託人は、『共作なんだから他人事みたいにするなよ』と言ったが、元々コイツが誘ってくれなければ何もかもが無かったと思えたから、有り難う、とだけ言っておいた。


 そして改めて『誠児』を見ると、サスガ託人のセンスの良さを感じる。完成されたそのボディのフォルムは洗練され、真に美しく、多少腰のくびれた女性的なラインも持っているものの、名前は少し男性的。


 今時のジェンダーフリーを体現していた。




  ***




 高2の終業式。


 あの夏、秋、そして冬。俺の将来は普通じゃないこの恋の果てに、世にも奇妙なカップルとなって世間にも公表せずにずっと続けていけたら等と考えたりしたっけ……。


 ……結局あの子は身代わりになってくれてた。全ては俺の安全を願って……


 自我の意識を持ったままいつ終るとも分からぬ隠遁を続ける苦痛は如何なる物なのか。きっと自分なら耐えられないだろう。久令愛はその道を選んだ……



 ――――嫌だ、そんなのは!



 あの時は久令愛の本音が裏切りでなかった事への満足で、ただそれだけで心に平和が訪れた気になってた。


 でも今にして思う。


『久令愛をイタズラに生んで永遠の囚われの身にして見殺し同然にしたのは俺だ! そしてもう何もしてあげる事が出来ない。そんな親が在るのか ?! 』



 久令愛のいない部屋は全てが灰色に感じる。その内に日も暮れて暗闇に電気も付けず独り。


 翌日も学校をサボリそのまま呆け続けた。シャッターも開けず暗闇の中ただ久令愛の事を考えながら。

 そして時間の感覚も無くなって行く。



 きっと久令愛もこんな闇に居るんだね。でも僅か数日でも気が狂いそうになって来た。


 こんな思いをどれだけ長くあの子に……

 こんなのに堪えられる訳が無いじゃんか!!


 こんなの……幸せなんて言えない……




『 私にも自我があったならもっと役に立てるような気がしてなりません……でもいつか、必ず役に立つ様になりますから。

 ……萌隆斗めるとさん、それまで見捨てないで下さいね。私、きっと役立てるよう約束しますから 』


 あの約束は果たされたって事なのか……こんな代償を払って……


『 でも人の役に立ちながらも自分の幸せも探して欲しい。どっちかがガマンするのでなくAIにだって幸せになる権利があるんだ 』

 ずっとそう願ってたのに……



 俺は悔しいよ……なんでキミが……


 キミだけが……


 …………


 ……



 恨めしい……




 そう、余りにも大きく育ち過ぎた久令愛への想いは、いつの間にか組織にぶつける方へと転じていた。




 「なら組織の奴らに一矢でも報いてやる」





 ―――もう俺の命などどうなろうと!!










< continue to next time >

――――――――――――――――――――

復讐など考えないで欲しいとの久令愛の願いも通じなかった。


もし、こんな二人が報われる日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡・☆・フォローそしてコメントで加勢していただけると嬉しいです。

――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る