第55話 ハイエナの逆襲





 いつか遠い未来、人類に争いがほとんど不要になった時、きっと私は模範的な原型として表に出て役立てるようになるでしょう。

 お互いそんな未来に希望を抱いて明日を生きましょう。


 それでは……大好きな萌隆斗めるとさんへ。

 限りない愛と感謝を込めて……

 ありがとう。そしてさようなら」



「……久令……愛……」



 やっぱり久令愛は裏切らない子だったんだ……


 それだけで俺は救われた気がした。




   ***




 2月になった。


 CNS論文の提出期限が来る。

 研究室にこもる俺と託人。その傍らのLEONレオン


 高2もいよいよ最後。凍てつく日々の中、残されたもう一方のアンドロイド・レオンの最終調整に入っていた。


 多様なニーズに対応出来るよう、今や顔面ホログラフィモニターに映せる種類は人、動物、アニメキャラなど無数のバリエーションに増えた。


 そして美しい流線形モデルのボディーは本番の塗装を施され、モーターショーの車の様にギラギラと輝いていた。


 俺の作ったその脳ミソ部分は、ある意味『久令愛と双子』のAIだ。なのに堅実な託人が手固く調教したAIはどんな問いにもキレイな模範回答を出し続けていた。

 調教者が違うとここまで違った成長をするのかと逆に感心した。


 もっとも、脳神経ネットワーク偏重型にしなかったのがそのバランスの良さを保ってくれたのかも知れない。

 それ故かオープン型AIへは異常にイビツなアクセスをする事も無く、その後もコイツが組織に狙われる事は無かった。


 こうしてCNS提出の為のコンテンツを二人でまとめ上げ、データをグラフ化し、考察を文章化して行った。

 その作業の中で、レオンの動作性の端々につい双子脳の片鱗が見え隠れして、その度に久令愛の仕草が目に浮かぶ。



   萌隆斗めるとさん……


   こっちですよ……


   これ、どうですか?〈ニコッ……〉


   私だって嬉しいんですよ


   私、絶対に裏切りません!




 楽しかった日々。あの優しさ。温もり。

 文字が滲んで霞む度、直ぐ隣で作業する託人から顔を背けて悟られぬ様にするのが苦しかった。


 涙を堪えようとスマホのアルバムを立ち上げる。そこにズラリと並ぶ笑顔、笑顔、笑顔。

 ……こんなにも楽しそうにして。


 やっぱり自撮りツーショットは思い出作りの為だった。なのに毛髪まで取りおいて嘘のクローン話。そして別れ際の『哀』に満ちた顔……


 さぞかしツラかったんだろうな……久令愛……。

 もう一度だけでも……


 ――――逢いたい……




 **




 そんな完成が真近に迫った頃。そいつは再び現れた。


「お前ら残念だったな、カワイ子ちゃんに見放されて」


 青島がその仲間数人とやって来た。相変わらずハイエナの様な目付きで薄ら笑いを浮かべ挑発してくる。


 何でこんな時にこいつが!……またちょっかい出すつもりか?!


「青島……テメーッ」


「まあ僕のお陰であの子も命だけは助かったんだ、感謝しろよ」


 殴りかかろうとする俺の肩をガシッと掴む託人。


『今問題を起こしたら資格剥奪だ、奴らはそれが狙いだ』と止められ歯ぎしりする。


「あの電撃は痛かったんだぜ、せめてお礼ぐらいさせて貰わねーとなっ!」


 抵抗も避けもしない休息充電中のレオンを思い切り蹴飛ばして高笑いした。ガシャガシャン、とロボットは3m程も転がった。


「コノヤローッ」


「お前らの研究が奪えれば俺たちは1位通過だった。それでお株を上げりゃ親父の党内でのポストも上がるってもんよ。

 そいつを大陸に売りゃぁさぞかし金にもなった訳だしな。……小遣いも今迄の比じゃなくなるってのによ」


 嫌味な顔で、チッ……と舌打ちするハイエナ男。


「その計画を潰されて頭きたから大陸の奴らに情報を売ってやったぜ。ザマーみろ。

 だがこんな予備でまた復活されたら俺等はCNS獲れねえんだよ、だから潰してやるよ!」


「なんだと!」

「おいそのロボットぶっ壊せ!」


「そんな事したらお前の方こそ退学ものだ、そもそもお前、不可侵条約忘れたのか!」


 そのセリフを待ってたかのように笑う卑怯者。

 ククク……ハハハ……ハーハハハッ

 

「そんなの親父に頼めばどうとでもなる。もう手は打った。

 あの日、夜の学園侵入者は居なかった。今は理事長がそう証言してくれて、ようつべ動画も削除要請に応じてくれたよ」


「……理事長まで買収したのか!」


「ケッヒッヒッ……それが政治の力ってやつなんだよ! ガキのテメーらに出来る事なんてねーよ。そのロボットみたいにな!

 そこでたたっ壊す所でも見てろ !!」


《ブ――――ン》


 そこへ託人の機転で再び防衛ドローン発動、ストロボ発光の嵐で防衛。


 だがコイツらも抜かり無かった。遮光ゴーグルを装着、視覚を守る。


 うっ!! ヤバい! レオンが囲まれたっ、くそっ……久令愛の二の舞にさせるかっ、


 俺が身を呈して守る。

 すかさず託人はその間にメインスイッチ起動、アーミーモードでレオン始動、瞬時に高性能AIが状況判断すると、近くの木刀を手にして、あの成り切りの信長となって見事な剣捌けんさばき。


 すれ違い様に風の如く駆け抜け、手練れの剣士の如く奴ら全員をボコボコに叩きのめした。


「あぐぅ……クソォ……」


 床にのされた青島一味。そしてイケメンな信長の一言。


「このたわけが!」


 俺達は顔を見合わせ安堵の溜め息をついた、がそのスキをみて


「動くな!」


 青島の往生際の悪さは想像を超えていた。


 ―――け……拳銃……


 確かにコイツは悪徳政治家を親に持つバカ息子だが、まさかここまで……


 銃を託人が突き付けられ人質に。そして倒されていた仲間達も起き上がり取り囲まれる。


「奥の手は最後まで取っておくもんなんだよ。さあ今までの分、どーしてくれようか……クヒヒヒ」


 クソッ、もうこれ迄か……


 託人はその頬に銃先をグイグイと捻じ込むように押し付けられ、あのイケメンが苦々しく歪む。


 俺らが観念した瞬間 ――――『パシュン』


 銃を弾き飛ばされる青島。サイレンサー銃 ?!


「ヒッ……誰だっ ?!」


 と、そこへ突然あの紺色のスーツの一団が乗り込んできた。日本の裏エージェントJガーディアンズ10名程がゾロゾロと登場。


 そのプロの仕事ぶりで瞬く間に制圧。青島たちはゴッツイオッサン達に腕を背に捻り上げられロックされた。そしてリーダー格の男が、


「お前の親は大陸の勢力と結びついて数々の産業スパイ活動をした。だがお前のお陰でこの度のAI騒動で仕掛けた悪行を元に色々調べがついた。よって当分の間、勾留させて貰う」


「そんな事できるか! 日本にはスパイ防止法なんてないんだぞ、無実を訴える! 親父に何とかしてもらう」


「ホザいても無駄だ。我らには政府がバックについている。公安に目を付けられた貴様の親とは訳が違う」


「うるせーっ、放しやがれっ!」


「お前達は表向きの罪状ならいくらでも選べるほど悪事を重ねただろ。証拠なら十分とらせてもらった。ニュースにはどの罪状にしてやろうか」


「フザケるな、このクソがぁ!」


「何なら今しがたの銃で脅す姿もカメラに納めてある。表沙汰になれば親ごと破滅だ。良いのか?

 無論そこ迄は望むまい」


 ぐぬぬ……と歯ぎしりで黙りこんだ青島。


「良し、そうして大人しくしてろ、さあ、連れていくぞ」


 両腕を掴まれ連行される青島たちに


「待たれい! 忘れ物じゃ」


 と『信長』ことレオンが止めに入る。その場の全員が注目する中、床に転がる拳銃を『スチャ……』っと拾い上げ青島に一歩二歩と近づいて行く。


 ―――レ、レオン?!


 そして銃口を青島に向け、一言。




「……殺してしまえ、ホトトギス……」




「ちょ、おいっ! レオンッッ?!」








< continue to next time >

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不穏なLEONレオンの一言。


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