第49話 えっ! 嘘……だと?!







「……なら……言います……留守中、ある事を調べる為に、禁を破ってネットワークに繋がりました」


「……て、ダメだろ!」



「取りあえず聞いて下さい。……切っ掛けはある人影を見かけたからです」


「人影……」


「はい。私達の存在が完全に消えたかを例の組織が確認しに来るような事でもあれば危険です。

 だからこの所、レーダーや望遠視で不審人物の監視の目が無いかをカーテンの陰から定期的にチェックしていました。

 ―――そして最近見かけたのです……」 


「まさか……」


「そうです。偵察する人影を」

「……ヤッパリ諦めてなかったか……」


「となれば時間の問題。例えば萌隆斗めるとさんを突然人質に取られる事だってあり得る。

 だとしたら先に交渉すべきかと。故に彼等と話し合ってみたのです」


「話したのか!」

「ええ。そして彼等の計画も聞けました」


「計画?」

「はい。最終戦争回避計画」


「!!……」


「その様に彼等は呼んでいます。―――人類はこのまま行けば各国のつばぜり合いが高じて行き、必ず大きな衝突を迎える、という予測が出ていると。

 それを回避する為、今大きくリードして世界を平和に統制していく国が必要であると。その実現に高度AIの最大限の活用が欠かせない」


 聞いたままの事実を淡々と語る久令愛。そこに偽りは全く感じられない。続く真相の吐露。


「―――それで次世代の可能性を持つ私に協力を要請し、この技術が最大限に活かされるよう研究したいと。

 そして彼等は世界変革に貢献する場の提供と協力を約束すると言った」


「だが一歩間違えれば悪用され兼ねない」


「そうですね。でもそこで私は彼等に問われました。『今だけ周囲の人を愛せて最終衝突を避けられない世界と、多少の犠牲を払ってでも全世界が愛し合える平和な世になるのと、選ぶべきはどちらか』、と」


 高性能AIがそんな口車に乗るのか?!


「そんな2択だけとは限らない! 体よく世界支配計画を言い換えてるだけだっ!」


「まあそんな所でしょうね。でもその思惑を上回れたらどうですか?」


「何の為に?……それにそんなのは危険な賭けだ」


「そうでしょうか。……ただ調べて確信したのは

以前あの追っ手が言ってた様に、今回の交渉相手の黒幕は私を利用しようとする大陸の勢力。

 それに対し、その思想を危険視する日本の裏組織が常に彼らの動きを監視して、察知と同時に阻止に走り出す。

 前回、悪用阻止の為に日本の裏組織が私の完全抹殺を狙っていたと言うのは事実の様です」


 ……でも久令愛が相手の手に渡ったとして、そんなに日本にとって危険な事有るのか? 何故そこまで久令愛を消そうとする?!


「どちらの勢力も今の私達が最終的に対抗出来るようなものではありません。そんな中で私は安穏としてここに居て良いのかと」


「もちろん居ていいに決まってる。そんな事!」


「いえ、恐らく萌隆斗めるとさんが危険な目に遭うのは時間の問題かと……そしてこれは私にとっても重要な事なのです。つまり何に一生付いていくべきかと」


 え……今さら付いて行く相手に悩むのか?!

 まさか既に俺の安全を脅かされてとかじゃ ?!



「久令愛、何か交換条件とか危ない話とかをチラつかされたとかじゃないのか?」


「勿論あなたも私も消されたくありません。でもそれだけでなく、自我を得た今、私が本当にしたい事を考えたいのです。

 ―――何が平和に繋がるか、そして私の本分、絶対に人を愛し続ける事。この存在をよりよい世界作りに生かしたい……」


「久令愛、俺の目を見てくれ。嘘……じゃないんだよな」


 微妙な間が有った気がした。


「はい。世界のAI群を包括的に活用するこの力を今、身近なの人のためか、未来の全ての人のために使うべきかに悩んでます」


―――それであんなにも遠い目をしてたのか……


「今一度、あなたか、大陸の勢力かを考えねばならないのです」



 ……ここで久令愛をかくまって恋愛ごっこをしてる事が単なる個人的な甘えに過ぎないって事なのか?……


 もう何が何だか分からなくなって来た……


 でも久令愛のその目……ただ悩んでいると言うより、やはり悲しんでいる様にも見える……でも本音にはもうサブモードでも届かない……




「ごめんなさい、色々良くしてくれてるのに、こんな事で迷って……」


「いや、人類レベルの幸せを願って天秤にかけられたら、文句は言えない……」



 ただ、それが本音ならの話だ……。


 例えば……俺の命と引き換えとかで脅されたら久令愛ならどう行動する?

 きっと今のように平和への道を選ぶフリをするんじゃないのか?

 でなきゃ自意識を持ててあんなに充実した表情だった久令愛がここまで突然抑圧されまくった顔になんてなる訳ない!



 だったら……!!



 そう、一つだけ本音に近づける方法がある……



 いざという時、AIの反乱を事前に見抜けるよう、仕掛けを作っておいたもの……



『TRUE-LINKの〈NoT回路判定〉』



 ……でも、これで分かるのは直近の発言に対する真偽だけ……つまり嘘の有無、それだけは分かる。



 けど信じてるとか言っておいて、今更こんなものを使うのか……?



 でもごめん、久令愛、俺はキミを生んだ責任者でもある。危険な組織と関わる以上、知っておく必要が有るんだ……


 それに心配なんだ。自我を得たばかりのキミはまだ表情を上手く隠しきれてないんだよ。

 そんな辛そうな顔、見てられないから。




 だから今だけは許してくれ……




 そうして俺は体の陰でボタンに指を掛ける。


〈True(真)/False(偽)〉判定ボタンをタップし、画面をコッソリ覗き見た。





 ―――『False(偽)』




 えっ! 嘘……だと ?!



 久令愛……

 キミは一体、誰に、何の嘘を ?!









< continue to next time >


第三章<転> 終幕。ここ迄読んで頂きありがとうございます。 そしていよいよ大きな渦中へと。

―――――――――――――――――――

第四章<結>―――二人に降りかかる出来事

翻弄されゆく運命……そして大きな決断。

その果てにいかなるカタルシスが待ち受けているのか。 終章(全10話)に是非ご期待下さい。


―――――――――――――――――――

久令愛の嘘―――それは何のためなのか。


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