第47話 ツンデレでクーデレでヤンデレ
年の瀬も残すところあと僅か。
その後、組織の動きは無く日常が戻った。但し念のため久令愛には外へは出させずいつも部屋の中。
それでもいつも通り甲斐甲斐しく家事に勤しんでくれている。
「ストレス、溜まらない? 大丈夫?」
何せ今や自我がある。人並みにストレスだって溜まるだろう。そう気付かう俺にあの天使の笑顔で返してくれる。それも以前よりももっと嬉しそうに。
一段と感情が豊かになっている。
「大丈夫ですよ。だって今や本当の相思相愛なんですよ。こんなに愛しい時間をたくさん持てて最高に幸せです。外へ余り出れなくてもこれは専業主婦の引き篭もり系新妻みたいなものです」
……に、新妻って……そんな風に言われたら切り返せないだろ、ああ俺ってカッコ悪っ……。
「クスッ。こんなに溢れんばかりに愛しくて、普通の新婚さんは一体何して愛を交歓し合ってるんでしょうね、フフフ……」
……ってそれ、高2の俺が余裕で突っ込み入れられるレベルのシャレじゃないし!
「クスッ、耳が異様に赤いですよ」
なんか、自我を獲得したら、より人間ぽくなって、ちょっと
「……それより、組織にまた注目されない様に大規模オープンAIには極力アクセスせず生活してるので……それがまだ慣れません。
今はできる限りオフラインで話していますから思考スピードは一般人止まりです」
「うん、それが安全。まあ、ブレンダー単体でも十分な思考力を持ったキミに日常でそんな大層な応対をして貰う必要は無いし、それでいいよ」
「はい。でも何故かオフラインモードだと……気持ちが……なんと言うか萌えて……口調も少しでも気が緩むとオカシクなってしまうのれす~、お兄ちゃんっ!……はうっ……こ、こんな感じにっ」
「うぐっ……そ、そっか、(ヤバ、俺の黒歴史のせいで……)……で、でも少しくらい砕けてもいいし。だ、だから気にしなくてもいいよ(汗)」
「そう言って貰えると嬉しーなー♪ おに……いえ、ご主人さ……じゃなくて
んぐっ……
「ハ、ハハ……でも、どうあっても俺は久令愛の事、大好きだよ」
「はい……私も……」
以前なら愛くるしい瞳をくりっとさせて見つめて来てたのに今は嬉しそうにはにかんで目を反らしている。自意識って凄いな……
本当に……この子を本当の本当に大切にしたいな……
* * *
そんなある日。
リビングで俺の前を横切る久令愛から何とも俺好みのフローラルな香りが……
「あれ、何か香水でも付けてる?」
「これはシャンプーしたからですよ」
久令愛が? 意味あんの……? そう言えばこの前似た香りの女の子とスレ違った時、つい振り返ったことが有ったけど、まさかね……
その上、服も部屋着としてはなんかオシャレなの着てる……髪も裾を巻いてる?!
「なんか何時もと少し違うね」
「そうですか? どんな感じですか?」
そう言って妙に目を輝かせて覗き込んでくる。
「え、えっと、スタイルがもっと良く見えて、色とかもカワイイし……す、凄く似合ってると言うか……」
「そうですかっ♪ フフフ」
その場でクルリと回って見せるとロングスカートと長い髪がフワリと舞った。
「お好きなカフェオレでも作って上げましょうか?」
「え、あ、後で喉乾いた時に頼むよ」
「はいっ♪」
そこへスマホに通知音。
美貴ちゃんからの連絡だ。そう、俺との関係を割切ってからは友人として仲良く関わりを続けていた。
今日はPCを使った課題で不明な事を教わりたいとメッセが入った。
俺は直ぐに折り返してPCの横においたスマホをビデオ通話にして丁寧に教え始めた。
お互い色々と吹っ切れたせいか、今まで以上に遠慮なく話せてむしろ距離がもっと近付いたカンジだ。
自然過ぎて何か恋人にすら見える仲の良さか。勿論浮気など露ほども思わないが。
喜ばれる度に教えるのにも熱が入る。
美貴ちゃんの苦手な課題だったからか暫く苦戦したが二人で徐々に乗り切って行った。
かなり熱中したせいか妙に喉が渇いて来た。
「久令愛~、さっき言ってたカフェオレ、作って貰っていい?」
それを横目に洗濯物を取り込む久令愛が見せた妙な雰囲気。
「それは……ご自分でどうぞ」
「え?……」
とは言え手が離せずそうこうしてるうち、結局作って持ってきてくれた。少し安心して受け取る。が、久令愛は目も合わせず立ち去ろうとした。
「ああ、悪い、ありがと」
すると振り向き様に、
「勘違いしないでよね、私もちょっと手が空いただけ」
ブ―――― ッッ!!
思わず吹き溢す俺……何この不穏な態度……何か悪いことでもした?……
まあ、ちょっと
「ふう~……やっと出来た~! 萌隆斗くんのお陰でメチャクチャ助かったよ。ありがとね。でも今度は私が助ける番、何かして欲しい事が有ったら言ってね。何でもやってあげるからね」
「うん、じゃ、また明日」
その後、部屋で宿題をこなしていると、久令愛が洗濯物を引き出しに仕舞ってくれている。考えてみれば今までまるでメイドの様にこき使って来ていた。せめて感謝の気持ちだけでも伝えるべきか?
「なあ、いつもそういう事してくれて、ありがとうな」
サブモードの時の様な能面の久令愛。ひたすらテキパキと仕舞いながら、振り向きもせず低く冷淡な口調で、
「いいえ、愛してるから当然かと」
ヒッ……何そのクールさ……てゆうか何か怒ってる様だし。いたたまれず硬直する俺。
だがタイミングよく固定電話のコール音が。
プロロロロ、プロロロロ……
とばかり立ち上がり……ハイハイ、今出ますよ~的なオバサンのごとき不要なセリフと共に逃げるように小走りして受話器を取り上げる。
―――それは妹からだった。
「え、今度の日曜? 予定? いや、ちょっと映画を観に行くぐらいだけど……え、PC買うの付き合えって? じゃ、予定調整して折り返す、じゃな」
そう言って振り返ると久令愛はキッチンで皿を洗いながら目も合わせず
「いいですよ、行ってきて。その日は久々に休止モードでCPUを休ませてるから。そのまま二度と再起動しなくなってもきっと忘れてくれますよね」
「……チョッ、(怖スギ!)ね、いや、一緒にどうかな……」
「いいから放っといてっっ!」
……って何なにナニ、このツンデレでクーデレでヤンデレが同時に来たような豹変ぶりは ?!
どうした? 一体何があった?!
その後も一切口もきかず心配が増すばかり。そこで、寝る前に少しだけ、と、久令愛の部屋に寄る。
久令愛は通常時はワイヤレス充電出来るよう、部屋には専用の装置がある。その給電用リクライニングチェアへと立ち寄った。
目を瞑って充電休息している久令愛からは先ほどの顔の険が取れた透き通る様なイノセントな寝顔。
―――ヤッパリ天使みたいだ……
俺はその手を優しく取って囁いた。
「ゴメンな。何もしてあげられなくて。でも妹のPCの件は来週に延ばして貰ったから、今週は約束通り映画を一緒に観に行こう。
だって初めて自我を持って……なのに家に
すると直後、クスン……と辛そうな目をしながらそのまま顔を手繰り寄せられ、耳元に囁かれた。
「私こそごめんなさい。私の中に統合し切れない幾つもの自分が……そのうち折り合いをつけますので……『自我』を獲得したらどうにもまだ制御が難しくて……
え……独占……
「人間って大変なんですね……でもこんなにも好きだって事、分かってしまったんです……許して下さい……」
胸が熱すぎて苦しい。壊れるほど抱き締めたい気持ちを抑えて、
「……俺だって同じくらい好きだよ。俺もこないだ、そう、ボランティアの時に久令愛が他のヤツに言い寄られた時、凄く嫉妬したんだ。だからチョット嬉しい」
「これが嫉妬というものなのですね。また一つ、人に近付けたんですね。じゃ、また嫉妬、しても良いですか」
えっ ?! ……イヤイヤ、怖いんですけど。
でもそこが可愛い。
「……フッ……ま、ほどほどにね」
「クスッ、ハイ。今度は可愛くやって見ます」
ホッとした瞬間、顔を抱き込まれ、その冷たい頬を俺の頬に何度も擦り付けてきた。久令愛は
「暖かい……」
と洩らし、
「少し気持ちが楽になりました。ありがとうございます」
「(ホッ……) うん、俺もありがと。じゃ、お休み」
「おやすみなさい」
そう言って優しく頬にキスしてくれた。
< continue to next time >
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まだ慣れずに自我を持て余す久令愛。戸惑いながらも優しく見守る
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