第39話 俺なんかのために命をはるなっ!





 ―――― 遂に久令愛をAIロボットと明かした。


 その瞬間から激昂した美貴ちゃん。久令愛の造型が余りにもリアル過ぎて信じてくれない。


「あなたまで……もういい……帰るっ!」


 涙目の美貴ちゃん。立ち塞がっていた久令愛に吐き捨てる様に言った。落としたドーナツの袋を拾って玄関へと向かおうとする。 すると久令愛は、


「では嘘ではない証拠をお見せしましょう。例えば目からLED発光、ピカー」


「ヒィィッ !!……」


 ……あ、それ、ホラーだから……メッチャビビられてるし。


「指先からの人命救助用AED電気を調節して低周波マッサージにも。あ、肩凝ってますね、スマホやりすぎかと」


 ビクン、ビクン、ビクン、……


「って……あんっ……はあああぁぁ気もひいい~~、でもホントだ、手がヒンヤリ冷たい……触れられるとモチモチして何とも言えず……」


 しばしウットリする美貴ちゃん。


「もうこれくらいにしときましょうか?」

「……ああ、まだ止めないでぇ~」


 ビクン、ビクン、ビクン、……


「気持ち良すぎ~。それにしっとりプニプニ……」

「はい。特殊シリコン製の肌です。でも良かったです。気に入って貰えて」


「それにしても凄い技術の進歩……ホントにロボットなんだね。ああ……安心した」


 二人して安堵の表情となった。もち、俺も。


「ところで美貴さんは萌隆斗めるとさんの妹さんを知ってますか? 萌隆斗さんは誤解され易く普段モテにくい様ですが、本当にその価値が解る人からはとても愛されているのです。妹さんにお逢いして凄く良く分かりました」


 マッサージを受けながら美貴ちゃんは宙を仰ぎ見て、『そう言えば仲の良い妹さんいた……』と漏らした。更に続ける久令愛。


「そして私もその価値が少し分かる一人に過ぎないと思っているのですが……

 なに分人生経験が浅いのでそうした点で想いを深めている人となら色々と『愛』についてを話し合えると思って……。実際に妹さんとはとても良い話を聞けたので、貴方とも会って話してみたいと思ったのです」


 なんか、話が急にマトモになった気が……。

 これって久令愛の面白いところだ。


「私は……小さい頃に萌隆斗めるとくんに何度も心を救われた事があって、それ以来この人の人柄をずっと見てきた。だから表面はあまり気にしてないの」


 ……チョット聞いてもいいですか、美貴ちゃん! その表面と言うのは顔の事かなー。でもま、やっぱ聞きたくないケド。


「そうですか……やはり美貴さん、その辺りの逸話、私の知らない萌隆斗めるとさんの事、教えて貰っていいですか?」


「知ってどうするの?」


「愛についてもっと知りたいのです。そして理解を深めたいのです」


「え~……、どーしよーかなぁ……。さっきはロボットって知って少し油断したけど、他のロボットならともかく久令愛さんって凄く魅力的なんだもん。

 だからきっとライバルになっちゃう……」


「純粋に知りたいだけなのです。何故なら人を愛する使命を与えられたのですから」


「え~、フフ……ロボットとライバルか……もうそう言う時代になったんだね……でも、正々堂々とやりたいから、いいよ。教えてあげる」


「ありがとうございます。さすが萌隆斗さんがお付き合いを決意するだけの方ですね。ではその前にお茶を入れて来ます」


 そうして例の素晴らしい手並みで茶葉から紅茶を入れてくれた久令愛。俺はお持たせのドーナツを美貴ちゃんと歓談しながら食べた……気がする。


 そう、この一触即発の状況を脱したことで放心状態になった俺は 、その分を久令愛がもてなしてくれていたのをボンヤリ見てるのがやっとだったわけで。


 そんなニブチンな俺の良い所悪い所をしこたま羅列し出した美貴ちゃん。

 その熱弁を『ナルホド~』 『サスガですぅ~』と目を皿にして聞き入る久令愛。


「そこ迄知って、理解しているなんて敵うわけないです。『先輩』、と呼ばせて頂いて宜しいですか」


 等と言い放つと、『久令くれちゃんそんな謙遜しなくていいよ~』と抱きしめてスリスリする始末。


 そうして美貴ちゃんは『久令ちゃん』と友達となり、何故かリンスタで繋がって嬉しそうに帰って行った。


「な……なんかなぁ……」


 多分これは夢だったのだろう。ただ、何故か俺の頬は腫れ上がって赤い手形がついていたのだが。





   ***





 本格的な冬に入った――――


 訓練の大詰めと言う事もあり、休みの日にはそれでも寒空の下、久令愛を連れ出してデータを取りつつ各種実践を続けていた。


 その買物帰りに街中を歩いていると、そこへ前触れもなく突込んで来た車。


「危ないっ!!」の久令愛の声。


 振り向くと一瞬視界に映る久令愛の手。


 物凄い力に突き飛ばされると同時に、『バンッ』という衝突音。


 もう次の瞬間には体が道沿いの店のショーウインドゥに激突、そう、この娘は緊急時は数倍もの力を出せる。この衝撃はそれだ。


 衝突音の方へ目をやるとそこには車を避けきれずに吹っ飛ばされて転がり倒れている久令愛の姿。車は逃げる様にして走り去るのが見えた。


「久令愛っ!」


 俺は急いで駆け寄って抱き起こそうとすると僅かに『ウィ~ン』というメカ音が聞こえ、ゆっくりと上体を起こした。

 凄い。あの激突にも耐えた。体がシリコンで柔らかく包まれているからなのか。でも肌の露出した腕のシリコンはズタズタに裂けて中のメカが見えている。恐らく服の中もそうに違いない。


「大丈夫でしたか? 咄嗟の事で力の加減が上手くいかず、ケガをさせてしまったかと……」


「俺なら大丈夫だっ、でも久令愛がっ」


「私も大丈夫なので落ち着いて下さい。そしてお静かに。今、車のナンバーから登録者情報をハッキング中です。……ん、これは……」


「どうした?」

「個人所有でなく、ある政党の下部組織と関連が……」


「……って俺達は狙われたって事?」


「そこまでは分かりません……でもどうやらあの時のCNS騙され事件の政党の息子、青島正也と関連がある……ただ仲間というよりむしろ敵対勢力?……何か計画書が有ります」


「計画書?」


「あの政党は私達を封じた後、売り渡す?……それを阻止せよ?……完全に消せ?……計画書の指示ではそうなっています。出所は機密になっていて、これ以上追うのには時間がかかりそうです。

 強力なオープンAI群にさえブロックがかかって直ぐにはハッキングし切れません」


 久令愛でさえ……政治絡みだからか ?! 余程の組織?

 どっちにしてもあの匿名の警告メールの言ってた通りになってしまった……

 て事は日本の組織がこんな事を!


「いずれにせよ、これからはもっと気を付けないと……でも萌隆斗さんが無事で良かったです」


「バ……バカァッ !! 俺なんかのために命をはるなっ!」


 するとあの優しい久令愛が


 キッ……


 と睨み返すように見つめて来た。







< continue to next time >

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殺害予告通り、実行に移して来た不明な勢力。


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