第37話 天使の降臨




 もはやコーヒーカップと言うよりミキサー。

 青島達をやっつけ、回転係をこなして次の担当へとバトンタッチする。


 俺は待たせてた被害者の友人の子達と合流。


「敵討ち、ありがとね」

「まあ、天誅かな……。それより」


 そして思い切って提案してみた。ライブの起死回生のプランを。


「俺達、さっきアバターロボットを実演してた者だけど、その子を、それでやってみない?」


「私達、さっきそれを見てました。素晴らしいパフォーマンスでした。何か良い方法、有るんですか?」


「―――うん、実は……」



  * *



 茜色に染まる空、ライブの時間が迫る。

 俺達は全ての打ち合わせを終えて舞台裏から応援だ。想像を遥かに超える人が集まっている。



「おおお、期待でか~っ、メインボーカルのミクちゃんってこんなに人気者なんだ!」


「ウチのミクはスカウト来てるぐらいだしね。でも萌隆斗めるとくんと久令愛ちゃんのお陰で今日はどうにか出来そうだよ、有り難う!

 しかもミクも、見に来てくれた人達も、両方犠牲にしないこのプラン、最高だよ! 後は萌隆斗めるとくんはそこで成功を祈ってて」


 そう言われて見守り役となった俺。舞台裏で最終点検に勤しむ。


 見回すと技術力が売りの学園の面目躍如。手作りPA、アンプ、ミキサーにジャンクションまで全部自作、みんな頑張って準備して来たんだ。絶対中止になんてさせない!


「あとは久令愛、頼んだぞ!」

了解ラジャー!」


 期待と興奮がピークに達し、動き回るスポットライトがステージのややはしの一角に定まると一瞬の静寂。



 そしてミクが登場!!

「みんなー、今日は乗ってるか――――っ」


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――――――っ」


 腹に響く大歓声。



「イイネイイネ~! でもね、今日は皆に謝らないとならないの。私、ドジッてこの通り腕を吊るはめになっちゃった。ホン卜ゴメンッ」


 ザワめく会場。「大丈夫~っ?!」と心配する声が飛び交う。


「……でも心配しないで。歌なら歌える。ただせっかくヘタ糞なダンスまで死ぬほど練習したのに踊りもギターも出来ず、この通りハロウィンらしく腕を吊ったゾンビスタイルだよ、全く」


 マイクを持ったまま肩をすくめ、かしげた首をヤレヤレと横に振る。


「ゾンビでもカワイイよ――――っ」


「ok、サンキュ。でも歌だけは絶好調だからそっちで頑張るよ。踊らない分、全力で歌えるしね! 」


「歌だけでも十分だよ――――っ」


「アリガト!……ところがだよ、その代わりもっと良いライブに出来そうなんだ。コレが。

 そう、今ここに一人の天使が舞い降りる。その名はブレンダちゃん。

 スーパーAI搭載の『アバターロボット』。何でもそれは誰かに代わって出来ない事をサポートしてくれる存在なんだって。私も今日初めて知った。

 それで今日は私に代わって踊りとギターを演ってくれるんだ。私よりも全然上手いんだよ!」


 キラキラ輝いた瞳で惹き付け、話に引き込んで行くのは持って生まれたスター性のなせるワザか。


「し・か・も! 驚くべき事にナントたった1回の模範演技で踊りとギター全フレーズを見切って覚えてた。信じられるぅ~?

 更には歌は私の発音を瞬間で捉えてリアルタイムでくちパクするって豪語して、合わせのリハさえもしてないんだ、皆ホントにそんな事が出来るのか見ててあげてよ~!

 今日は私の歌声はこの子のロ内スピーカーから響かせるからね。だから私が変装してるのと同じだよ!

 じゃ、ブレンダちゃん、降臨の時だよ!」



 ――――ブワリと噴出したドライアイス。



 立ち込めたステージ中央にスポットライトが当てられ、白煙の中からハロウィンコスプレで天使の羽と輪をつけた純白衣装のミニスカ美少女が飛び出した。

 小悪魔姿も良いが、やはり……



 ―――― 久令愛は天使だった。



 思わず俺は鼓動がドクンと跳ね上がってしまった。

 観客も異様にどよめく。



「キャ―――――――ッ、カワイイ―――――――ッ」



「ありがとう。皆さんご機嫌よう! ブレンダでーす!! 今日はアバターロボットとしてミクさんをサポートしたいと思いまぁすっ。

 ミクさんの素敵な歌声を大なしにしないよう精一杯頑張りますっっ。

 皆さんと一緒に歌って踊って盛り上がっていきたいと思いますっ!

 それでは宜しくねっ、ではミクさん、お願いしま~すっ!!!」




「All right! Are you Ready ?! 

    Hey !  It`s showtime !!

       Come on, Let's go !!」



 鼓動を一気に加速するビート、

 興奮のるつぼと化す絶叫の歓声、

 そして天から光さすようなミクの歌声……


 それに合わせた久令愛の口パクとギタリング、ダンス……。そしてバンド仲間達との楽しげな掛け合い。



 ――――そのどれもが完璧だった。



 そして場内の全てがまるで一つの生き物の様に一体と化していた……




  **




 大成功の舞台。やがて夢の様なひと時が過ぎ、『サインして~』の声に追われる。


「逃げるぞ、久令愛、急いで衣装を小悪魔に戻して楽屋裏から突破だ!」


「はい! でも、とっても楽しかったですねっ !!

 今日は連れてきてくれてありがとうございましたっ。色々役に立てて少し自分の存在意義を感じれた気がしますっ」


 ふて腐れも消え、いつも以上にニコやかで充実した顔の久令愛だった。


「お陰で今日は喜怒哀楽の『怒』、そして『楽』を完全習得しました!」


 無言でサムアップした俺は、つくづく連れてきて良かった……と思ってしまった。








< continue to next time >

(学園祭編 終了)

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機嫌を直した久令愛。結果的に二人して最高の文化祭を楽しんだ。


もし、こんなAIが報われる日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡・☆・フォロー・コメントで加勢していただけると嬉しいです。

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