第36話 久令愛、アーミーモードだ! やっちゃえ




 校舎屋上に現れた久令愛。


「さあ、上をご覧下さい!! 僕には到底出来ないこの恐怖の体験も、このJチャンとならモニターごしに可能なのです。他人の飛び込み映像と違う点は、自分が真下を見ながら飛び込むタイミングを決定するのが体感できるという所です」


 会場のザワめきが大きくなる。


「それでは皆さんで3、2、1、バンジー! の掛け声でお願いします。落下体験中の様子はこちらの大画面モニターでリアルタイムで見れます!」


 もう完全に観衆の目は釘付けだ。


『では皆さんで一緒に~、

 ……3……2……1、バンジーッ! 』


 キャーと奇声を発する女子たち。会場の大型モニターを食い入って見るその場全ての人々。地面スレスレまでゴムが伸びると、


 ビヨ~ンッ……


 と、跳ね上がる。その時、ハリボテがバラバラになり全観衆の血の気が失せた。

中から人影が放物線を描きながらすっ飛んで真っ逆さまに地面へ。


『キャ―――――――ッ』


 と再び悲鳴が。しかし屈腕で衝撃吸収しながら着地するその人影はジャックオーランタンの被り物をしたミニスカートの女の子。


 ―――そして天へと屹立する白い二本の足。


 もちろん白地に赤い小さなリボンのついた富士山型の布のオブジェが丸見えに。


 当然そのセクシーショットに場内騒然。直ぐに逆立ちから立ち直し、スカートを戻してダブルピースするカボチャモンスター。


 ―――ヤバッ、何とかしてこの場を!


「……はい、中から飛び出してこんな事が出来るのはもちろん人ではなく最新のAIロボットです! そしてこれはセクシー事故であって事故じゃありません。

 中身のJチャンはジャックオーランタンの『J』だったのです~っ! 」


「オオ~ッ!!」 ワァ―――― !!

 パチパチパチ……



「これが今回の真のアバターロボットの姿。いかがでしたでしょうか。そこのお父さん、まさかスカートの中だけ見とれてたのではないですよね」


 いや、ちゃんと凄い映像に感動してたよ~! と相の手が返される。


「どっちの凄い映像ですか?」

 もちろん両方! の声に大爆笑。


『それではお後が宜しいようで』


 と冷や汗を思いっ切り拭いながらその場を締めた。

 直後より場内に轟くスタンディングオベーション。


 託人陣営を完全制圧し、ブースの連中から感謝と祝福の嵐となった。



 裏方で被りものを外して何事も無かったかのような澄まし顔で戻った小悪魔コスの久令愛に、ウィンクすると、ウィンクで返してくれた。


 本当によくやってくれた。そして美貴ちゃんからも熱い賞賛と尊敬の眼差しが。


「萌隆斗くん、ホント凄かったよ! ご苦労様! ……でもJちゃんって、どこ行っちゃったのかな」


 その中身の正体がバレなかった事に、俺はただただ深い安堵の溜め息をついた。




 さて、いよいよ俺のブースの当番だ。美貴ちゃんも元のブースへと戻っていった。


 俺は人力コーヒーカップを手伝う作業着に着替え、同様に久令愛にも着替えて貰って手伝いを命じる。何故か楽しそうだ。


 そのアトラクション、格子状に組んだ鉄パイプにキャスターをつけ、板を乗せ固定。その上に2つの回転台。

 そのそれぞれの上に3つの回転カップ。よくある学生の手作り品で、見た目のチャチさの割に手軽に本格的回転が楽しめる定番だ。


 これを手押しして適度に回転を加えてあげると誰もが童心に帰り笑顔となる。平和で楽しい顔を見るとこちらも嬉しくなる。と、そこへ……


「こんな子供騙し、何が楽しいんだ!」


 そんな平和を打ち砕くこのクサッた声の主……あの青島正也とその仲間達だ。


 丁度女の子がカップから降りようとした所を回転テーブルを蹴飛ばしたせいでその女子がバランスを崩し、大きくコケて倒れた。

 悲鳴と共に何やら騒がしくなり保健室へと運ばれていった。仲間の子がスマホで連絡を取り合っている。


「もしかしたら出来なくなるかも、え、ムリだよ? でも……うん、探してみるけど……じゃ後で」


 聞いてみるとコケた時に手を挫いたらしい。ところがその子はこの学園祭の目玉ライブの歌姫らしい。

 ようつべでも注目のシンガーソングライターで、その独特の歌声は今人気急上昇、次代のスターを期待される程の子らしい。


「保健室から、今日は絶望的だって。欠員確定。でもディーバだよ、どーする? それにメインギターもあの子だよ」


 困る仲間の子たちに俺は、『考えがある』と言って、そこで少し待つように指示、俺はすかさず持ち場に戻った。


 そこにはあの青島がコーヒーカップにどっかと座り、

「ホラ、乗ってやるから楽しませてみな、ショボかったらこんなのバラしてあげるから」


 と、仲間達で全カップ独占。偉そうにカップの支柱ハンドルに足を乗せ、早くしろよと捲し立てた。

 幸い作業帽を被った俺達は身バレしていない。となればやる事はただ一つ。


「それではパワーモードで回しますので、規定により念のためロック付きのシートベルトを装着して頂きます」


 これは専用錠無しでは外せない。

 マジ切れした俺は久令愛へと耳打ちする。


「久令愛、アーミーモードだ! やっちゃえ」

「はい。難しかった感情学習の『怒り』。それを今、完全理解しました。お任せ下さい」



『それではパワーモードのスペシャルコーヒーカップを存分にお楽しみ下さい』


 この後は言うまでもないだろう。地獄の遠心分離機となって唸りをあげる。


「ギャアァァ―――――――ッ」


「ショボいと申し訳ないのでよりパワフルに、そして時間も3倍増しでじっくりご堪能下さい!」


 終了後、もちろん全員が気絶していた。




 そして何故か周りからは拍手が起こっていた。







< continue to next time >

――――――――――――――――――――

『喜』に続き、『怒』の感情も完全獲得した久令愛。


もし、こんなAIが人と上手く共存出来る日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡・☆・フォローそしてコメントで加勢していただけると嬉しいです。

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