第28話 命のバトンタッチ





 ジュレの凄い剣幕の叫びと部屋への飛び出しに驚く一同。


「……私、何か悪かったのでしょうか」


「ごめんね久令愛ちゃん、気にしないで。ああ見えてジュレはお兄ちゃん命なのよ……」


 母さんは申し訳なさそうにするが、まぁ久令愛は気にしないだろう。


「実は俺が一人暮らしになったのもジュレが何時からか異常なブラザーコンプレックスになっちゃって、寝るのも風呂も一緒で離れようとしなくなって……で、親と話し合って俺が一人暮らしする事になったんだ」


「そんなに仲がいいんですね」


 その後、父親のさりげないフォローでジュレ抜きでの食事会は恙無つつがなく進み、談笑する迄になって胸を撫で下ろした。


 宴の片付けを久令愛はテキパキと手伝ったあと、ジャズ音楽を聴きながら晩酌する父親と皆で取り止めなく話しをしているうちに夜が更けて行く。


 そこへ部屋に布団を敷いてくれてた母が、

「まあ今日は旅行気分で萌隆斗の使ってた部屋で二人ゆっくりしてってね」


 と、そこへ凄い勢いでジュレがやって来た。思わず身構えると、


「ちょっと! 男女相部屋っておかしいでしょ! 客間があるんだから久令愛さんはあっちに決まってんでしょ! 布団ならもう敷いといたから、そっちで休んでよねっ!」


 バタンッ……と再び喧嘩ごし。『ゴメンネ~、そうしてくれる?』と弱り目の母親に『全然大丈夫ですよ』と返す久令愛。



 翌日。


 お盆に行けなかったお墓参りに行きつつレストランへ。本来わが家ではお盆の時の恒例コースなのだ。

 五人でクルマに乗り込むと、フンッ、と不機嫌な妹。後部座席の俺は両手に爆弾を抱えていざ出発。


 秋晴れの中、窓を開け心地よく走り始める。ドライブも兼ねた海沿いのコース。


 潮の香りと風を受けて気持ちが高揚して来る。


「ゴメンね~久令愛ちゃん、お友達に墓参りなど付き合わせちゃって」


「いえ、孤児である私には貴重な経験となるのでとてもありがたい事です。私にはご先祖様は事実上いませんので。自分のルーツがあると言うのはきっと心強いものなのですよね」


 確かに久令愛には先祖など無い。と、何を思ったか父親が、


「ルーツか、久令愛ちゃんはいい事を言うねぇ。自分もそう思うんだよ。例えば家系図を辿ると分かるんだけど、時を経ると自分もその系譜上の一人に過ぎなくなるって事に気付くんだけど、その時、命のバトンタッチをしていた事にも気付くんだ」


「命のバトンタッチ……」


「うん。そして自分が歴史上大した事してなくても、後の誰かが大きな事をやってくれるかも知れないし……ってね。だから可能性のリレーなんだよ」


 ゆっくりとハンドルを切りなからチラリとバックミラーで久令愛に目をやる父親。そして続けた。


「自分はしがないサラリーマンだけど、一つ胸を張れるのは、この息子と娘にバトンタッチ出来たこと。この世に生まれて大事な役割の一つが出来た事をご先祖様にも報告出来るんだ」


「命のバトンタッチ……そう考えると人間て、素晴らしいですね……」


 久令愛は少し伏し目がちにそう言った。



   *



 墓地では共に手を合わす久令愛。AIが何を思ったのだろう。俺は墓前で、から生還できた事への感謝を伝える様にしている。


 そして全員手を合わせ終わったところで母親が、

「じゃ感謝と現況報告も出来たし、恒例のレストランに行きますか!」


「やった~っ、ジュレ、あそこの裏メニューのデザート食べたかったんだよね~っ!」



  *



 お気に入りのイタリアンレストランでオーダーを仕切るジュレ。すっかり機嫌が良くなっている。

 先ずはドリンクが先にやって来た。追加の注文もひとしきり終えてメニューを返した。


 オーダーを待つ間、またややこしい話にならないかヒヤヒヤと見守る俺。と、久令愛は、チョット御化粧室へ、と言って席を立って姿を消した。


 久令愛がトイレ ?! ……といぶかっていると、


『申し訳御座いません、汚れていた取り皿を替えさせて頂きます 』


 と言って店員が交換、


『それと、落とされたストローもお持ちしました』


 それをジュレに渡す。その時初めてメニューを下げる際に引っ掛けて落としていた事にみな気付く。涼しい顔で席へ戻る久令愛。


 これってこの子のお陰?……いや、疑う余地はない。しかもそれを気付かれない様にさり気無く席を外す配慮とは……と感心していたら父親が、

「もしか……」


 とその功績に触れかけるも、それを上手く遮り、


「先ほどのお話、とても心に残りました。お父様、お母様もこの二人のお子様のバトンタッチの行く末を見れるのも楽しみなのですね」


 と、行きの車内の話にすり替える久令愛。なんか見事にスマートな切り返しだ。


「まあこの子たちの人生だからね、家系が繋がろうが途絶えようが今時は選択の自由って事だけど、父としては幸せになってくれたらそれでいいのさ」


「え~、私は早くおばあちゃんになって孫を抱きたいけどねー」


 それに比べ奔放な母親は年頃女子の前でその様な微妙な話を平気でしてしまう。全く困った母だ……。と、久令愛が、


「私は孤児なので過去からのバトンタッチは出来ません。だから羨ましいです」


「あら、過去はそうだけど、例えば萌隆斗の子を生んでくれたらうちの家系の未来へのバトンタッチになるじゃない?!」


 ぶはっっ! ゲホッ、ゲホッ……って何考えてんだよっ!


「お母さん! 何言ってんのっっ、私のお兄はそこいらの女なんかっ」


 すると、深刻な顔をした久令愛が、


「私は……子を産めない体なんです……」

「……久令愛……さん……」


 固まったジュレと共に一瞬で場が凍った。勿論、体に欠陥があると思われたからだろう。咄嗟とっさにおバカな母さんが拝むように手を合わせて、


「えっ……、ご、ごめんなさいね、久令愛ちゃん、冗談が過ぎちゃって……」


 だが遠い目の久令愛は、表情も浮かべず淡々と、


「いえ、でも今や人工子宮が成功(※) して話題になってます。実用化されて私にも内蔵すれば卵子の提供さえあればきっと叶えてあげられます」

    (※事実です)



 「「「……え……」」」








< continue to next time >

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またもや久令愛砲が放たれる。


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