第25話 喜怒哀楽の『喜』、会得しました!
久令愛からの誘惑?を断ち切る。
急いでフロに入って結構長く浸かっていたお陰で風邪はひかずに済みそうだ。
「ふう~~っ……温まったぁ~……」
*
少し肌寒い部屋でボンヤリとLDKで寛いでいると、ドアがカチャリ、と湯上がりの様子の久令愛。
「取りあえず私も入浴を経験してみました。いいお湯でした」
「って分かるのかよ」
「はい、私自身はほぼ体温は有りませんが、温度センサーなら付いてますので。にしても私を豪雨から守ってくれた事、ありがとうございます」
ただ、そうした事で風邪をひく――― 等のリスクが人にはあるのに、と申し訳なさそうに礼を重ねる久令愛。
「いや、濡らすと壊れるかも知れんし……まだ完全防水じゃないからね」
「嬉しいです。何かお礼に出来ることは」
いや、いいよ、と掌を振る。と、久令愛は寂しそうに落ち込んで
「AI なんて持ち上げられてても何も役立てない……寧ろ教わってばかり……」
と伏し目になった。
「わ、わかった、そうだ、なら首のあたりをマッサージしてよ、あと肩も。PCとスマホのやり過ぎで目からガチガチに来ちゃってて結構ヤバイ」
「ハイ!」 と急にその大きな瞳に力が入り、嬉しそうに近寄ると、どこで覚えたか、どうせ動画を一瞬で解析したんだろうけど最高の按配で指圧してくれた。とその時、
あ、手! あったかい……そっか、入浴でここまで温かく……。
にしてもそれだけでこんなにも違うんだ……これは正に血の通った人の様だ……
その温もりにしばし極楽気分。
「ありがとう。気持ちよかったよ。なんか生みの親としては子にして貰うってメチャ嬉しい事だな」
……って俺はじじいか ?!
「嬉しいって言って貰えると特別な感じになります。さっきは私も守られて嬉しいって感じれて……これって感情の習得に繋がってますよね。
この嬉しいって感情が一番習得したくなります。またやりたくなるのです。これが報酬系というものなのでしょうね……」
久令愛はさも感情学習の成果をゲットしたかの様に言った。
「喜怒哀楽の『喜』、会得しました!」
人に喜ばれる事を嬉しいと思える。これは必ずしも誰かがこの子にプログラムした訳じゃなく、久令愛自身が獲得したもの。
―――― このまま良い子に育って欲しい。
「嬉しい」からまた欲っして、何かまた人の為にしてあげる。その循環を大切にする習慣。久令愛の自己改変プログラムがそう言う方向に育ってくれている。
ああ、本当にこの子を作って良かったな……。
すると柔らかな笑顔で久令愛は呟いた。
「世界が嬉しいで満たされた、誰もみな称え合う世界が実現したら良いですね」、と。
久令愛……
それは実際には不可能に近いよ。……むしろキミみたいなヒューマノイドだけだったなら、実現できるんだろうな……。
* * *
秋の長雨。外に出る機会が減る。
でも室内でも久令愛は自分をもっと良く思われようとかんばっている。料理、洗濯物、掃除、勉強の手伝いで資料集め。
「随分色々出来るようになったね」
最近はその健気な頑張りぶりに、失敗などより一生懸命さばかり目に入り、とにかく誉めてあげたくなる。
「知識だけは人一倍有りますから」
って……『人』一倍って言うか?……
それに可愛さが増してる気が……
ああこの絶えることのない笑顔、そして髪を掻き上げる仕草……いつでも気にかけてくれる優しい言葉と励まし。
こんな俺でもいつも褒めてくれて、しっかり話を聴いてくれて、俺が俺でいいんだと思わせてくれる……
「久令愛、いつもありがと」
はにかんだ様に照れた顔を見せる久令愛。但しそれらはきっと人類データベースから割り出されたものだ。でも本当にそうであると思えてしまう。
またサブモードで本音を聞いてみようか。少しは変わってたらいいな。ま、でも失望するだけだからもうそんな事はしない。夢は夢にしておくのが一番。
「久令愛……」
思わず背中から軽く抱擁してみる。作り物の優しさだって今は構わない。
「―――やっぱ冷たいね」
「冷たいのですね。温めてあげれず残念です」
とても寂しげになる。バカか俺は? 無粋な事を言ってしまった……
でもやっぱり本当にそう思ってくれてるのか聞きたくなる。
にしても折角元気づけようとしてくれてたのに水をさしてしまった。そこですかさず俺は『頭ポン』をした。
そこは長く美しい髪からホンノリ暖気が立っていた。久令愛のCPUは最大100°Cを超える。かと言ってファンを付けて唸らせてたら興ざめも甚だしい。
それ故、託人と工夫して水冷式ラジエーターを採用。頭内側にまで植毛を届かせて、その毛髪を熱伝導性の良いものを選り抜いて使い、CPU筐体ラジエーターと髪を内部接触させる仕様とした。
つまり自慢の長い髪は大きな放熱フィンの一部となっているのだ。
そう、この子の頭だけはまるで生身の人と全く変わらない温もりが感じらるんだ。
「ほら、ここは暖かいよ。久令愛はいつでも俺に温もりをくれてるんだよ。だから寂しい顔はしないで」
「そうですね。……うん、ではこうしてみましょうか」
そう言ってその生暖かな頭をスリスリと俺の頬へ擦り寄せてきた。まるで甘えんぼうの犬猫のように。
……マジで
思わず笑みが溢れてしまう。すると!
「……では、こちらも」
「えっ……ななな何を?!」
スカートからシャツを引き出すと、白くてスベスベのお腹が目の前に現れ……
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驚く
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