第24話 AIの幸せ、そして権利
―――― アニメ1000本ノック開始!
「感情を習得するには情報を詰め込むだけじゃだめだ。
「ハイッ! 了解しましたっ!」
そうして凄い勢いで閲覧をこなして行った。半分は思い付きで言ったその事が意外にも久令愛の更なる成長を導いていった。
「今月だけで目標の半分、500作品を制覇しました。アニメ6000話分です……」
「ってうそぉ!……時間計算合うか? 徹夜し続けてもムリじゃね?……」
「圧縮データを丸呑みした後、5倍速脳内再生してます」
「うぐっ、キモッ……で、何か変化を感じるか?」
「感情豊かな世界ですね。お陰でその辺は掴んだ気がします。そして良く分かった事があります。殆どの作品に共通する事が有りました!」
……えっ 何々 ?! 俺、分かんないんですけど ?!
「ほぅ、それは何だ?」
「人はみな幸せを、いえ、納得のゆく生き方を求めて真剣に『人生を生きている』のだと言うことです。―――― そして私はそのために寄り添い、お手伝いする存在だと言う事も真に理解しました」
ゲ……、メッチャ分かってるやん! てか俺が気付いてなかったのがハズい……
「まあその通り、及第点だな」
「そう言う訳なので今は先ず身近な
「え、ぁ……いや、俺は今それなりに幸せだからいいよ別に」
「そうですか? では
「ってどうしてイキナリそう言う話に ?! 」
「いえ、愛の意味を確認しようとしただけです」
―――― 愛の意味……
「だって私は人に永遠の愛を誓う事を絶対律によって義務付けられています。なら最も身近な人を愛せずして感情の習得なんてほど遠いからです」
久令愛は真剣な眼差しで『お忘れですか』と言って『愛する』についてを確認してきた。
・ 特定の相手を慕う。恋する
・ とりわけ好み、それに親しむ
・ かけがえのないものとして心から大切にする
・ 機嫌をとる。あやす
・ 気に入って執着する
・ 相手の幸せを願う
「私に絶対律を与える際に、同時に愛する事の定義を書き換えできぬよう同梱されましたね」
……確かに勝手に拡大解釈とかされぬようにそうしたが……
「だから私は人を、特に
「そ、それはありがとう……」
……まだ自考力のないAIに愛を囁かれてる内は何も思わなかった。でも今は少し違う……
自考出来るけど自意識はない、つまり自発的でない洗脳の愛なんてして欲しくないし、そもそも可哀想そうだ……
例えば犬や猫。チンパンジーと違い、顔に大きく目立つ印を付けて鏡を見させてもそれを取り除こうとしない。
なのに自分で考えてエサを探す『自考力』、そして獲ってきた獲物を分けてくれたりする『気持ち』が有っても、自分を認識=自意識がある訳ではないから。
その犬猫ならば、
じゃあそれが人の姿で言葉を話し、人以上の知性があっても尚、自意識だけが無い所へそれでも特定の人を愛する縛りを与える……それって『自分という自由を奪われた』奴隷……
ゴメン久令愛、俺こんな束縛をさせる結果に……キミにとても悪い事をしたのかも知れない……
「ところで
「ほう、現実と違う…か、……かもな。でも逆に言えば人はその様な妄想の中で生きている、とも言える」
―――― 俺などその典型だし。
「まあ云わば、愚かしくも愛しい妄想。だがそこにこそ、人間ぽさがあるのかも知れない」
「サスガです! 愚かしくも愛しい……何かとても魅力を感じました。まるでそう、一言で言えばそれは
「うぐっ……まだまだ進歩してないようだが、まあいい。もう悪気が無いのは分かってきたしな……甘んじて受けとめよう」
そのV字の口元でニッコリ見つめるハニーフェイスを見るに本当に他意はない様だが……これじゃまだまだ修行不足だな……
「そうそう、最初に言おうとした事……それは
―――『キミなりの成長』―――
人の役に立ちながらも自分の幸せも探して欲しい。どっちかがガマンするのでなく、
『AIにだって幸せになる権利』
がある。だからお互いにとってWINーWINになれるように考えてこう、そう言いたかったんだ……」
不思議そうにする久令愛。『我』の無いこの子には突拍子も無い事なのだろう。
「AIの幸せ、そして権利……ですか……」
指示をこなす事に長けたコンピューターにとってそれは難題なのかも知れない。久令愛は少し遠い目をして想いに耽った感じになった。
「今一度良く考えてみます……」
今や感情もある程度育ち、俺の幸せも願う人間そのもの。こんな子に対等な関係になって欲しいと考えるのは俺だけじゃないはず……
だからこそ、キミに幸せを―――― 。
久令愛は物思いに耽った目から、ふと真顔でその長い睫毛を勢い良く持ち上げ
『そう、ところで昨日……』
と切り出した。
「買い物に行った時に町中で黒服の男につけられたのです」
「ナニッ……」
「そこでレーダーで警戒しながら行動したらその内に男は車に乗って消えたのですが、そのナンバーからハックした情報では、とある政治組織の車と判明しました。
で、それがあの青島と関係がある様なのです。だから気をつけて下さいね」
「ああ、分かった。(何か嫌な予感がするな……)とりあえず警戒だけはしておこう……」
***
秋の夕立ち。
土曜の休曰ということで街中学習のため繁華街へと出かけ、例によってコミュニケーションのスキルアップを計る。
と、言いながら週末に久令愛を連れて歩くのは楽しみになってしまった……
こんな可愛い子を連れて今どきのスポットへ……これは男のロマンだ!
……あ、いや、これは久令愛の学習のため。そして久令愛も喜んでいる。……ハズ……なんて考えてる俺はやはりクズか……。
「あ、雨か……」
そんな俺への罰か、帰路で突然の大雨に降られ、急いで戻ろうとして気付いた。
久令愛の頭部のファスナーはまだ防水仕様にしてなかった。
「久令愛、これを」
上着を脱いで久令愛の頭に被せ走って帰った。
途中で土砂降りとなり俺はスブ濡れになった。今日はとてもヒンヤリとしていた分、体がメッチャ冷たくなってしまった。これじゃカゼをひきそうだ。
急いでフロを沸かそう。
その待ち時間、タオルで久令愛を拭いてあげた。頭部の中までは濡れていないのを確かめてホッとした。優しくタオルを当てると、はにかむ久令愛は言った。
「何か、嬉しいです……」
久令愛の体は、後頭部の非防水ファスナー以外は水には強い。シリコン製の手をとって丁寧に拭き取る。手がヒヤッとしてかなり冷たい。
当たり前だがむしろ今の自分にはそうは思えなかった。
だってこんなに人そのものに見えても触れると冷たい事が、何だか逆に違和感を覚えさせるからだ。
そうこうして風呂が沸いたので急いで入り、温まっているとドア越しに人影。
「お礼に一緒入って背中を流しましょうか」
「いや、別に良いんだけど。気を遣わんでも」
「そうなのですか? お好きなアニメ界隈では俗にラッキースケべと言われるようですが、閲覧履歴から
「ちょっ、待て待てぃっ! 別々でいいっ」
「でも私もフロを経験する必要もあると思うんです」
「じゃ、この後単独でどうぞ」
「そうですか。分かりました……」
俺にはその声が少し残念そうに聞こえた。
< continue to next time >
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はたして次話では遂にラッキースケベは有るのでしょうか。
もし、こんな二人が報われる日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡・☆・フォロー・コメントで加勢していただけると嬉しいです。
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