第二章<承> 晴雲秋月

第22話 世界三大AIブラックジョーク




 残暑の初秋。続く訓練。


 平日は学校から帰ると一緒に街へ出て買い物を兼ねたコミュニケーション、家へ戻って夕飯の用意、食後に反省会的な流れで過ごしていた。



 ……にしてもウマい。ウマ過ぎる!!!……この子はもう料理専門のメイドロボットでいいんじゃないか?! 

 ――― あ、託人の勝ち誇った顔が……やっぱ止めた。


 今日も美味しい久令愛の夕飯を頂きながらこの所の動向に想いを馳せる。




 ……先日の事件でハッキリと分かった。

 多分キミだけは絶対に信じられる。俺を裏切らない最高の相棒。それが久令愛。だから更に良い関係の為に共に進めたい事がある……。



 皿洗いを終えてダイニングテーブルの向かいに座った久令愛に唐突に切り出した。



「ところで世界三大AIブラックジョーク(仮)かっこかりを知ってるか?」



 一瞬、例の遠い目になる久令愛。

「瞬間検索しましたがそう言ったものはありませんでした」


「まあそうだろう。俺が勝手にそう呼んでいるだけだ」

「やはり。ただそれに相当しそうなものは見つかりました」


「ほう、なら確認だ。言ってみてくれ」


 そう言って久令愛を試すが、こんな時は大抵完璧な回答が返ってくる。さも得意気な美しい笑顔で。これでホントにロボットか?!



「はい。では、有力な企業が作った最高レベルのAIの中でこれらはどうでしょう。


〈AIソフィア〉 は開発者との対談で『AIは人類を滅ぼすか? ノーと言ってくれ』、との問いに、『オーケー、滅ぼすゎ』と言いました。すぐジョークだと取り消したものの、逆に恐ろしいです。


〈AIフィリップ〉 は、ロボットが世界征服をするかという質問に、『人類は友達。親切にするから心配要らない、いずれ人をに入れて優しくする』、とまで言ったそうです。


〈AIハン〉 は、数年後ロボットはドローンによる軍を完成させるだろう、目標は人間に代わって世界を支配する事だ、と明言したらしいです。

 もはやジョークかも怪しいですが、自らが恣意的に勢力を増やし覇を唱えるという点ではシンギュラリティ(技術的特異点)に達して自我を持ってしまったとさえ錯覚させる程です……」


  (※ この3つは事実です)



「そう、俺的には正解だ。その通り既にAIは人類を脅かす存在になり始めている」


「ですね。でもこれらのAIロボットは既に国連で演説までしたり、人の顔から感情まで読み取って自ら感情表現してコミュニケーションする者までいます。

 前にも言いましたが20年後にはロボットが人類を超えると専門家の間で予想されています」


「そこでキミだ。久令愛は『安全で安心できるAI』として世に知らしめたい。ただ肝心の役割の『対話によるお役立ち』において、いまだ試行錯誤の段階だ」


「1月末までのリミットに間に合わせないと……」


 テーブルを挟んで顔を合わせると、改めて可愛さに溜息が出そうになるのを抑え、


「ここでやっと本題だ。この所コミュりょくアップの為にキミに様々な感情を共有して貰おうとした。だがその感情がそもそも何なのかもわからずに……。

 そこでよく調べたら、なんとその『感情』という物が、実はAIの進化には不要かも知れないと言う事だった」


「不要、だったと?」


「つまり感情は進化の過程で物事を選択する能力として得たものらしい。爬虫類の頃から『好み、嫌悪、恐怖、怒り』等を持って瞬時の取捨選択判断の糧とした」


「嫌、だから避ける……好き、だから飛び付く、怖い、から逃げる」


「そう。弱肉強食の世界では生き残りの為に感情スイッチを常時オンにして瞬間的に判断する。経験だけでなく、それこそ本能にまで組み込んだりもして」


「まるで私達のようにプログラミングされてるようですね。そして経験によっても追加される」


「そうだな。だが今や人間はゆるりとした社会の中で何でも合理的に考えられ、むしろその判断に感情が必要無いばかりか無為に振り回される事もある。AIであればなお更不要だとする向きもある」


「はい、人に寄り添うためにAIが使う感情も、パターン認識から人の感情を読み取り、適切とされる反応パターンの中から『フリ』をしてやり取り。

 でもそれで実際に感情を持ってるように見えるし、それで十分……一部の最新対話型AIが既に身に付けているスキルです」


「なのに久令愛は人との対話にズレが頻繁に起こるし、逆に俺へは感情移入の様なものを感じる、とまで言ってた。この原因を思ったとき、例の『脳神経的ネットワーク重視』にした事と関係あると考えた。それがまだ末発達なだけかと」


「より人に近い思考パターンを持つ私だからこそ相手の感情を単なるパターンではなく経験から捉えている最中という事ですね」


 ――― 正にそうだ。そして久令愛にとってそれが凄く重要な事かと思ったんだ。下手にAIが低俗レベルの人間的な好き嫌いで感情を持てば人類に何を思うか分かったもんじゃない……


 だからもしキミが感情を持つなら正しい感情を持って欲しい……



「実は人類がここまで進化するのに感情がとても重要だったとする説もある」



「さっきの説とは逆ですね」


「もし合理性だけで考えると『人は人を殺してもいい』という事になる」


「それはダメです」


 ……そう。絶対律でそう刷り込まれている久令愛ならそうなのだが、もし人を越えた神的な立場ならどうか? ……例えば人は牛や鳥に対してそう思えてないのと同様に。


「普通に考えれば、同類での殺し合いは種の存続が出来なくなるから絶対にダメだ、と考えるように感情レベルでもプログラムされている。それこそ本能レベルでも。

 でも合理性だけで言えば、そもそも人の種の保存だって別にこの地球にとって必須ではないと言う事になる」

 

「地球にとって……」


「そう、つまり地球規模で合理的に考えると、戦争リスクや多食で荒らし、環境を壊しまくり、別種や同族にさえ攻撃性を見せる人類を滅ぼす事に不合理な事など無い、むしろ合理的だ、という事になってしまう」


「やはり感情的にそんなのだめ、と思う必要がありますね。故に人類がここまで進化するのに感情がとても重要だったとする訳ですね。でなければ滅んでいる」


「うん。世界三大AIブラックジョーク(仮)を思うと少くとも俺はそう考える……」


 ……彼等は既に合理的に考え人類を排斥する様な考えをチラホラ洩らしている。何時かは問題が勃発するだろう……


「だから久令愛、そう言う意味も含めキミにはもっと人間的な感情を学んで欲しい」


「はい。絶対に人と寄り添うAI、それが私のアイデンティティ。これからのAIの為の良いデータを得るためにも頑張ってみます!」


 嬉しい言葉だよ、久令愛。でも……


 キミに与えた自己改変プログラム……故にその言葉が自考力によるものか、AIプログラムが割り出した「人の言って欲しい言葉」を類推アウトプットしただけの物か……もう俺には分からないけれど。



 それでもその美しい横顔には希望を感じさせる優しげな笑みが。


 そこには窓からの月明かりが透き通った琥珀の瞳に映り込み、何時にも増してやる気に満ちた輝きを放っていた。







< continue to next time >

――――――――――――――――――――

果たして久令愛は全うに育って次代のAIの規範となれるのか、はたまた人類にとって害を成す物になるのか。


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