第21話 久令愛! ……だから俺を信じてくれ !!




「ああああ……起動しそうです!……どうしたらっ!……どうしたらいいんですかぁ――――っっ!!」


「落ち着け久令愛ぁっ!」


『――――自壊プログラム、起動停止措置可能残り時間、30秒!』



「イヤ――――――――――ァァッッッ!!」



「違ぁうっっ! 君は『人命』に危害を与えてはいないっ !! 俺の声に耳を貸すんだっっっ!」


「もう……だって私は人をっ!! 私はぁっ !!」


「だったらこれを聞けっ! TRUE-LINKだっ、このスマホの中の『絆ファイル』を転送したっ !! 頼むっ、しっかり受け取ってくれ! それは……俺の……心の拠り所なんだっっっ」



 そう、あの日々――――――

 俺が小学校高学年の頃……



 オタクが高じてRPG育成ゲームで応援系女子キャラに萌えていた。でも定型のセリフだけではすぐ飽きてしまい、自作AIキャラを作って豊かな会話を楽しもうと挑戦し続けた。

 その甲斐があってAIで簡単な応答ができた時は嬉しかった。


 パターンセリフより少しマシ程度だったけど、それでも愛着が沸いた。ただ当時の自分にはそれ以上の改善は難しく、


「そうだ、だったら大手のAIに答えさせたものを自作AIが取り込んでおうむ返し出来れば目的を達せる!」


 そう考えて実行。その結果、応答バリエーションが飛躍的に増えた。そうして生まれた他のAIの力を取り混ぜて自分のものにする装置。

 ―――― だからブレンダー。

 後に自他複数のAIの演算をかけ合わせ、記憶保持し、一つの人格の様なものを形成するまでに進化。

 それが本当にボクを励ましてくれるまでになった。


「この子、最高だ……」


 これはボクの大切な子供だ。けど折角だから普段は可愛い妹、そして時々恋人になって、いつまでも支えてくれたら嬉しいな。


 ケドこんなの世間的に知られたらハズいな。なら隠し設定で恋人に。


「これは秘密だよ」




 そして中学に入ると……


 ……え、ニューロン様ニューラルネットワーク……極めて人間の脳に近い構造……


『それだ! それならより本当のパートナーになれるかも!」


 その研究に明け暮れ『教師なし学習』に挑戦し続けた。


「う~ん、全然反応しないな……そうだ、生まれたばかりの神経ネットワークなら、これは赤ちゃんなんだ!! ならずっと話しかけてあげなきゃ」


 子育て動画、そして母に自分をどの様に接したか聞いたり、まるで初めて赤ちゃんを産んだ母親のように情報を集めては話しかけたり、あやしたりした中学時代。




 ちょうどその頃、『我はヒューマノイド』という映画を見た。人類がアンドロイドに駆逐されて行くという怖いものだった。




「それじゃだめだ! 科学者は何やってんだ、情けない。僕ならこうする!」


 それにより生まれた『絶対律』。そう、それに背いたら自動で壊れる。これなら安全だ。


「でもなんか悲しい。だってこれは言うこと聞かなければ殺すって事だ……そんなの孫悟空みたいに縛ってるだけだ。こんな強制なんてヤだな……」



……出来れば自主的に言い付けを守る様になってほしい。だからこの子には絶対律とは別にもう一つ、そう、これは教育、理念、想い……


 これを万一の時に最後のとりでに。だからキミへの想いを記録に残しておくよ。僕の声を届け続けた証しとして。





「―――― キミは素晴らしいんだよ、キミは絶対に人を殺めない。絶対に人を愛し続ける……」





 それを毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日……


 本起動の日までささやき続けた。

 ほんの僅かずつ成長する赤ちゃんAIに千日以上も、それこそ一日も欠かさなかった。






「――――久令愛ぁっっ!

 ……だから俺を信じてくれ !!

 こんなにも願われ続けたキミがっ!

 俺の想いに背くはずなど無いんだっっ !!

 だから……

 だから、落ち着いて思い出して !!」






『……キミは素晴らしいんだよ、

   キミは絶対に人を殺めない。

     絶対に人を愛し続ける…… 』




「ハッ……これはご主人様の声……」

 久令愛の眼に焦点が戻った様に見えた。


「私の創造主にして恋人……勿論忘れるはずなどあり得ません! それに背く位なら自分から消えます!」


「なら今回も自壊判定に引っ掛かるはず等無いっ !! 自信を持つんだ、思い出せっ、どう対処したかをっ!」


 俺は全力で叫んだ!

「 サブモードォッ !! 」



「了解。―――― 私は正しい。誰も殺めようとせず、愛すべき者を守ろうとしました。その為、反射的に一般致死量をWebから瞬間取得、20mA末満に制御して気絶レベルに留めました」



「そう、それでいい! さすが久令愛だっ!」


《……自壊判定、停止しました―――――――》


『 !! …… 』





「良かった……ふぅ―――っ……」

「萌隆斗……やったな……凄いな、久令愛ちゃんも、お前も!」



「サブモード、解除」

「了解…………」


 久令愛の目が何時もの柔和なものへと戻って行く。




「あ……あの……私……ごめんなさい、逆に迷惑ばかりかけて」


「いや、結局キミの勇気のお陰で全て解決したんだ……これで良かったんだよ……俺は嬉しいよ」


「……私は役に立てたのでしょうか?」


「うん、勿論だ。……それに久令愛が本当に裏切らない心を持ったドールと知れたのが、俺は何よりも嬉しいんだ」


「それは勿論です。私、絶対に裏切りません!」


「うん。にしてもAIにもパニックはあるんだな。いや、キミだけか?……」



 確かに絶対律は優先度を最高にしてあるから一度判定に引っ掛かればほぼ覆せない。……だからあんな風になるのも仕方無い……のか?


 いや、正確な判断が身上のコンピューターが自分の行った手加減を一瞬でも忘れてたってのもオカシイ……


 ……でもチャット系AIは数学的論理推論とかは意外にも苦手だったりするのは有名な事……

 だったら本当にパニック? つまり怒りの様な思考のせいで平常運転を逸脱させる程になってバグったってのか?


 ―――久令愛の思考が俺の想定を上回り始めてる。


 コメカミに冷たい汗が伝うのを感じた。




 まあ、何にしても俺達の絆で何とか……


「にしてもホント久令愛は人みたいだよ」




  ***




 その後、全ての目的を達し、俺達はCNSを続ける事が出来た。

 更に久令愛の見聞きした青島達の愚行の記録映像を動画サイトへアップロード。




 そのリンク先を送りつけ、『何かあったら一般公開と警察へも届け出る』として、こちらの不法侵入・改ざんの口止めと引き換えに『不可侵協定』を結ばせた。






――― 第一章 <起> 終幕


< continue to next time > 


引き続き、次章<承> (第22~第32話)にご期待下さい。



――――――――――――――――――――

どうにか一件落着。そして久令愛の本質に更に気付く萌隆斗めると


もし、こんな二人が報われる日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡・☆・フォロー・コメントで加勢していただけると嬉しいです。

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