第19話 嵌められたエントリー





 夏休みが終わった。



 新たな気分で登校すると休みボケを一気に叩き起こす思わぬ事が起こっていた。日頃影の薄いクラス担任が近付いてきて、


「おい、相楽萌隆斗~、CNSのエントリー申請先が変更になった話、聞いてなかったか? 申し込み先、間違ってんぞ~」


「え、うそ?!……」


「申請用WEBぺージが新年度に入ってからクラッシュして新しいのが出来てたのに、お前ら古いページへ送ったろ、これは一旦取り下げて急いでやり直ししないと間に合わんぞー」


「じゃ、なんで受理されたんだよ、造り手のミスじゃん! 学校側で何とかするべきでは?」


「でも通知行ってる筈なんだが。とやかく言ってもエントリー期限が明日までってのは変えられんぞ」


  *


 俺は慌てて取り下げだけを済ませ、ありのままを託人へと伝えた。激しく驚いている。


「本当だ……でも俺が見逃すはず無いんだが……」


 しかもエントリー申請のフォーム形式がかなり変更されていた為、二人で協力して大急ぎで書類を書き換えた。


 お陰で何とかしてギリギリ間に合わせて胸を撫で下ろした。


「イヤ~……、危なかったな」




  **




 翌日。その男は俺達の前に現れた。


「いやあ~、我が校の二大天才デュオがCNSを降りたって聞いて驚いたよ」


 その男は青島正也。


 噂では親がとある政党の党員で幅を利かせ、その関係でここでも随分好き勝手やっているらしい。


 以前噂していた産業スパイとして疑われるの筆頭の人物の息子だ。

 長身長髪で多ピアスの不敵な笑みを浮かべたこのボンボンが、一体何を言いに来たのか? その言ってる意味が全く分からなかった。


「ボクも相楽君達と同じくAIロボットを申請して内容が被ってたからさぁ、気になってエントリー情報を確認したらギリギリで辞退したって聞いてさ」


「逆だろ、間違えてたエントリー先を訂正しただけだ」


「いや嘘じゃないよ、何なら確認してきたら? ま、ボクとしては君達がいたら絶対に入賞不可能だったろうからマジラッキー、ってカンジなんだけどー」


 その後、急いで確認するとエントリーし直したWEBぺージが存在していない。それどころかクラッシュしたはずの元のページが復活している。


「……やられた !! 」


 俺達は二人、真っ青な顔で地団駄を踏んだ。



 ―――だが教員まで巻き込んでこんな手の込んだ事を……





「なあ、託人、どうするよ」


「さっきうちのクラス担任とも掛け合ったが、もうどうあっても変更出来ないって……」


「冗談じゃない、このまま泣き寝入りなんて……俺はまだしも託人は……」


「ああ。……だが一つだけ方法がある」

 そう洩らした後、少し言いにくそうに躊躇ためらいながらも続ける託人。


「……萌隆斗、もし……もしもだ、俺と危ない橋を渡って欲しいって言ったら……」


「勿論渡るさ。俺達は一蓮托生だ!」


「スマン、恩に着る。どうしても納得行かなくて起死回生の方法を探ったんだ……」


 寸時キビしい目つきで逡巡する託人。


「そう、サーバーのエントリー情報の書き換え、そして申請データの復元……これにはかなりのリスクが有るって分かって……ただそれでも……」


 放っておけるかよ! コイツは本当にいい奴なんだっ!


「よし、なら先ずは作戦会議だ。学校関係者までグルになってこんな事が出来る奴なんて相当ヤバいと見た。ノープランじゃ到底太刀打ち出来ないからな」



   **



 その後、託人の家で情報をまとめる。青島正也は常に5~10人の取り巻きと行動し、政治家である親の力を盾に教頭をも牛耳ってその影響下の教員や業者を操る。党には危ない連中もいる。


 それ故、成るべく事を大きくせずに目的だけを達したい。だが問題のサーバーは締切後、ネットワークに繋がってないと知った。


 ―――― 故にハックでの改ざんは不可能だ。


 その上サーバーの書き換えには総当たり的なクラッキングでは到底無理な保護が掛かっていて、通常は管理者も金庫にあるUSBメモリキーを差しこんでアンロック、各種メンテを行う。


 可能性が有るとすればこの電子金庫を破ってUSBメモリキーを獲得、そいつで管理サーバー保護を解除して書き換えるしかない。


 しかも来週明けにエントリー者情報のWEB開示がある。そのとき迄に書き換えが完了していなければ改竄がバレてしまう。


 勿論人目の付かぬ夜間、しかも各所の電子ロックと防犯カメラをハックして平常映像と差し替えもしないとならない。これを一人でやっていたらゼッタイ埒があかない。



「役割分担、緊急時の対応、各種シミュレーション……全て整えて今週末決行だ」




  ***




 作戦の日。


 深夜の決行。――――ツバ付きキャップに目の下から首まで有るフェイスマスク姿。二人して学園の管理棟へ忍び込む。


 周到に段取って監視装置を蹂躙し、順調に金庫へと到着。事前に調べ上げた方法で解錠し、中のUSBキーを探す。



「何 ?! ……無いっっっ!」



 目的のUSBが無い。と、そこへ卑屈な笑い声が響く。暗闇から数人の男達が姿を現した。


「多分来ると思ったよ。でもさせないよ。それは大切な物だからねぇ、今ボクの仲間が別の部屋でかくまってるんだよ」



「青島!!!」










< continue to next time >

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完全に潰しにかかってきた悪党、青島。


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