第16話 久令愛、下着コーナーへ




 おしっ、TRUE-LINK接続を開始だ!!



 アプリアイコンをタップして監視を開始する。早速アパレル店員さんに近付く久令愛を2~3離れたテナント、バッグ売り場の陰から見守る。

 スマホからは久令愛の視界映像と音声がモニタリング出来ている。


 しかし何故か猛獣のいる草原に小鹿を置き去りにした様な罪の意識に苛まれる俺。クズだがまだ良心が残っていたらしい。


 今さらだが……ゴメン……。必ず生きて帰ってこい……



「いらっしゃいますぇぇぇ~え、店内大変お求めやすくなっておりまぁぁぁあ~す」


 販売ノルマ達成を賭けた野獣の目つきと化す化粧の濃い若い店員さんに達に取り囲まれる久令愛。追い込み漁の如く出口を塞がれ逃げ場は既にない。


 ……絶体絶命か? 死ぬなよ。


 ところが極自然に挨拶を交し、幾つかのやり取りをさり気なくこなすと、AIらしくWEBサイトで店員の活用術でもさらっといたのだろう、極々滑らかに質問を繰り出す久令愛。




――― どんな服が今年っぽいですか


――― トレンドはどんな感じですか


――― この服にはどんなのを合わせますか


――― 今はどんな服が売れてますか



 おお! 上手く聞き出してるじゃないか!


「お客様ぁ超可愛い~! スッゴクお似合いですよ、ホントにっ!」


 う~ん、あの目の輝きはお世辞じゃないな……店員もあの可愛さにホレて完全に着せ替え人形を楽しんでるし。

 鏡の中の久令愛も喜んでる様に見える……見た目で得するタイプか?


「じゃあ、これと、あとこちらも下さい」

「有り難うございますっ!」


 しかも……試着から支払いまで完璧だ !!


 ちょっと今まで過保護過ぎだった? 等と感心と反省をしているとスマホヘ久令愛の脳内音声が届いた。



萌隆斗めるとさん、見てて頂けましたか? こんな感じでどうでしょう」


「上出来だ。この後もそんな感じで頼む」

了解ラジャー



 ……ん?



 ……ほぅ、もう次の店へ行ったか、積極的だな。

 その調子だ! ム……ムムムッ ?!


 ……って下着売り場ッ!!!



「いらっしゃいませ~」

「こんにちは。あの、今日は私のご主人様の為に素敵に見えるコーディネートをお願いします。出来れば今日買ったこの服に合うような」


 そう言って買い込んだ袋を渡す久令愛。


「はい。どんな服を買われたんですか。あぁ、可愛いですね一。……にしても念入りですね。愛されてるんですね!」


「恐らく。その証拠に私が知覚・開発される何年も前から声をかけ続けられ、今ではホラ、あのお店の陰から半身でジットリ見守ってくれてます。真実の絆(TRUE-LINK)で見失わぬようガッチリ見張ってくれてるのです」


 ……って久令愛! それじゃ俺はストーカー兼ヒモ男と思われちまう !!


「あの、何かツライ目に合ったり……してないですよね? 良かったらお姉さんが相談のるよ。カレシが警察官だし」

「相談?……」


 コラッ! もうそれ以上喋るんじゃないっ !!


「いえ、不要です。だってこの前も大切なパートナーって言ってくれましたし、出会った日から愛し続けるよう絶対律という洗脳で運命づけてくれてますし」


 絶句する店員。口が開きっぱなしに。

 こら~っ!! 止めい! それ以上止めるんだっ!


「私が何でも出来るようあらゆる家事をさせてくれて。さらには海に山に連れ出して修練してくれるんです。そうする事がこれからのヒューマノイドとして世界の平和にも繋がるんです!」


「……………………可愛そうに……あ、いや、そ、そうですか~、ならご主人の趣味にも合わせないと……ハ、ハハ……」


「はい。でも店員さんにしっかりアドバイスして貰うように言われてて……」


「ハ、ハイ、勿論アドバイスしますよ~(汗)」


「一応参考なまでにご主人様の下着の好みを伝えておくと、清楚系か萌え妹風、特に洗濯物をたたむ時の胸元からのチラリや、洗濯カゴを持ち上げる時のローアングル等でたしなんでる様なので、この服と共に映える様な…」


 ああ、もうだめだ……


「それではこちらのが良ろしいかと……」


「う~ん、なんと言うかWEBでディープラーニングした所ではキモヲタとかいう種族が愛でるロリータコンプレックスという系統に近いのが好みなのかなと……」


「で……ではこんなのもありますが……」



 ―――― ヤッパリこうなったか……





 何故か上機嫌な様子で両手いっぱいの買い物袋を抱えて戻って来た久令愛。まあ本人が喜んでいるならもうそれでいいか、服くらい。


 その時、ハタと思いついた。


 ……待てよ、本人や俺の事が絡まなければ意外とマトモな対応をしてる事が多い気が……。今は場数を稼いで世間を知ってくしかない。ならば。




「よし、久令愛、キミは料理は上手だ。ならその方面で長所を生かして行こう。取りあえず俺の大好物を作ってみてくれ」



 ―――― そう、『サルスエラ』を!



 その料理。一言で言えばスペイン風ブイヤベースだ。魚介のトマトベース寄せ鍋と言えば分かるだろう。実家の母親の得意料理だ。


 早速久令愛は遠い目をした。こんな時は大抵WEBから大量な情報を漁っている。まあスーパーAIだけに一瞬だが。



「了解しました。腕によりをかけて作りますよ」



 早速大型スーパーへ到着し、一回りして学習させた所で敢えて個別店で相談しながら買うように指示。


 コミュニケーショントレーニングの延長だ。八百屋と魚屋で店主に声を掛ける久令愛。AI に物怖じなど無い。


 玉葱、パプリカ・ニンニク、トマト、香草、白身魚、海老、カニ、ムール貝等を取り揃えてゆく。


「こんにちは」

「あら可愛らしい。いらっしゃい。若いのに料理するの? 偉いね」


「はい。今日はご主人様の為に最高の料理を出したいんです」


「御主人様……ん~熱いね~っ! でも随分と若い奥様だね」


「はい。でもまだ恋人なのです。設定上は」


「はい? 設定上まだ恋人のままでいたいってか、ハハハ。もうヤダァ、オバチャンの方が赤面しちゃうよ~! 」


 そういって久令愛の肩をぺしっとオバチャン猫パンチする。


「……で、何が欲しいんだい?」



「今日は必ずしも新鮮でない物を買いに来ました」


「はぇ?!……」








< continue to next time >


――――――――――――――――――――

またまた妙な事を言い出す久令愛。


もし、こんなAIでも幸せになれる日が来るのを応援しても良いと思う方は、♡、☆、フォロー、そして気軽にコメントをいただけると嬉しいです。


―――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る