第14話 ウォズニアックテスト (2)
ウォズニアックテストの説明を続ける託人。
余裕の笑みと共に。自信満々だな。
セナちゃんもやる気マンマンでリビングに先行した。
「 ……会話をしながら状況判断。作り方の理解とアイテム探し、即ちコーヒーマシン、コーヒー、水を加え、マグカップを見つけて適切なボタンでコーヒーを淹れる。
更にコーヒーが適温か、適切な加減でカップを持ちテーブルに置けるか、これらは人工知能の重要な課題と動作性を一度に試せるといった点で優れている定番のテスト法だ」
先ずは託人のロボ・レオンから早速始動。俺ら男組は審査員としてついて回る。
ロボはセナちゃんのいるLDKへと辿り着き、
そう、レオンは最大の特徴である『好みのキャラを3Dホログラフィーフェイスに投影』出来るのだ。
「どんなキャラでの会話がお好みですか?」
「じゃあ、スマホゲームアプリ、イケメン戦国恋シリーズの信長で!」
瞬時にWeb検索のレオン。
「……しばし待たれよ……これで良いのか? 姫」
[ ▼挿絵 ]
https://kakuyomu.jp/users/kei-star/news/16817330664971288438
「キャーッ、そう、その顔と声よ! ロボットが成りきってる~! 楽しーっ」
そしてその超イケメン「信長」は全てに躓く事なく成りきりでコミュニケーションをはかり、セナちゃんを会話で喜ばせつつ見事にコーヒーを作り上げる。
あの日の久令愛の様にWebハッキングで好みも解ってるようだ。『行動は積極的・強引、でもオレ様では無い』、というタイプが好きだと。
そして声まで石○彰ばりの超イケボで丁寧にカップを差し出した。
「この一杯は姫のために」
「う……嬉し―っ、その声ヤバーッ!」
「砂糖とクリームの好みは?」
「じゃぁ、お任せで」
自分の意見は?―――― そう言って一途な眼差しを向ける『信長』
思わず顔を赤らめ、だ、だってこれはウォズニアックテスト! だから判断力も見ないとっ―――― 等と機転をきかせて聡くも切り返すセナちゃん。
「さすがは姫……。では今は……今だけは甘々で」
甲斐甲斐しく
有り難う、おいしい……等とウットリのセナちゃん。
「では、これにて…」
少しもの憂げな流し目で去ろうとするレオン。
「……待って! もうちょっとお話を!」
「―――― これで終わりにしようと思っていたのに」
「あと……少しだけ……」
背中越しの流し目から向き直り、切なそうな笑みを浮かべたレオンは、
「なら、あと少し……少しだけ私のものに……そう望んでもいいですか」
キャーキャー感激するセナちゃんを余所に、信長なら「我のものになれ!」とかじゃねえのかよ、と鼻白む俺。
だが、余りに上手く行ったその対応に顔を見合わせ、結局不敵に笑みを浮かべる俺達。自分たちの才能が怖くなるナルシストぶりを部屋の片隅で発揮する。
すると信長に「その方らも如何か」と聞かれた。
……って、成りきりすぎだろ!
丁重に断った俺達。そして和室に戻らせて交代させる。
―――― でもそうなんだよな、本来の俺の開発した『ブレンダー』の能力はこれぐらい相手の好みも状況判断もする力を持っているんだよな……なのにうちの
さぁ、次は久令愛だ、と指示すると早速セナちゃんの元へ行き、
「失礼します。久令愛と申します。よろしくお願いします」
柔らかな笑顔でペコリとする。あぁやっぱ天使だ~♡……ここまでは。
「早速ですが勝手にあちこち開けて見る訳には行きませんのでコーヒーの仕舞われている棚を教えて頂ければと」
「うん、その食品庫の中の下から4段目にモカとキリマンジャロがあるからどちらでも」
「はい。……これは豆から挽くタイプですね。え……とあ、コーヒーメーカーはこちらですね。使ってもよろしいですか?」
ちゃんと使用許可も得ながら豆を挽き、フィルター装填、水も入れてドリップ開始。待ち時間でコミュニケーションを取りながら甘味料、ミルク、スプーン、カップと揃えていく。
「ところでさ、久令愛ちゃんはマジめるっち……
おい、ちょっと! と止めようとした俺を片手で制する託人。コーヒーを淹れ終る迄はもてなしの会話もコミュニケーション採点に入るから、と続けさせた。
「はい、いつも色々付き合って貰ってます」
やっぱズレてるし……
「え~やっぱ! じゃあ、もう深い仲とか」
……おいっ、何なんだその質問は!
「それはもう。何せ萌隆斗さんは私のオーナーにしてご主人様ですから。更には恋人という設定ですが時として妹として接する事も」
「ナニそれーっ! キャハ、ヤバ過ぎ~っ、つまりメイド奴隷にしておきながら、更に恋人を強要しつつ妹ロールプレイとかも?」
「まあ、粗方そんな所です」
って違う違う! 誤解するから止めろ~~~~っっ
「じゃあ、将来はどうするの」
「はい、添い遂げる覚悟です」
「……って健気過ぎ~、聞いた? めるっち~?」
こうした羞恥プレイに暫くの間、唇に血を滲ませつつ耐え忍び続けると、3人分のコーヒーがトレイに乗せられそれぞれに賄われた。
その所作は完璧で、体を横に向け脇を固め、足の運び、美しい重心移動、セオリー通り遠い方からサーブする。数歩下がって軽くお辞儀。
これはきっとまた手速くWEBから知識を得たな……だがそれでも見ほれてしまう。託人らもアングリしてる。ヤッパリ喋らさないと最高で最高だ。
「偉いぞ。見事クリアだ……てゆうか我が家へ来て初日から炊事、洗濯、掃除、片付け、あらゆる雑務をほぼ説明無しにやらされ……コホン、クリアして来たから当然か」
「はい、今さら感があります」
意味深に捉えた俺は、『ぶはっ』と口にしたコーヒーを噴き出してむせ込む。
『日頃の作業に比べたら』、と言う意味なのだろうが俺には『日頃あれだけの事をやらせておいて』、としか聴こえなかった訳で。
すかさず「さすがに日々の鍛錬の成果が表れた様だな」と誤魔化すと、久令愛は尊敬の眼差しで、
「それを見越しての……余りに卓見です」
その言葉に後ろめたさを感じつつ、「こうした人の心理の絡まない作業は卒がないな」等と上から目線で評価してやり過ごす。
取り敢えず採点対決は互角? という事で終了。
大成功? を納めたこのテストに気を良くしつつ、帰り際にセナちゃんから「久令愛ちゃ~ん、リンスタで繋がろーよー」と言われ即インストした久令愛は早速やりとり。
端末無しで脳内やり取りが出来るのも驚かれたようだ。何せ久令愛は動く端末なのだから。
* * *
夏休みも佳境に入り宿題に追われ始める。
だが面倒なので、これは知能テストだ、と言って全て久令愛にやらせていた。言われる前に言おう。俺はクズだ。
* * *
そんなある日、一つの事件が起こった。
「おい、お前の所、大丈夫かっ」
どうした? とスマホ越しに問う俺に、託人は未だかつて無い程の緊迫感を帯びて立て続けに捲し立てた。
< continue to next time >
――――――――――――――――――――
何とか無事に終わったウォズニアックテスト。
すると託人からの緊急の電話。
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